宅建試験の民法の出題傾向とは?勉強法のコツから民法改正による影響まで解説!
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宅建士
関口秀人
「宅建の民法の出題傾向や勉強法のコツが知りたい!」
「正直民法が難し過ぎる・・・民法を捨てても合格って出来るの?」
宅建試験の権利関係で出題される民法は非常に難易度が高く、上記のように毎年多くの受験生を悩ませている科目です。
この記事をお読みになっている方も、民法の勉強でお悩みの人が多いのではないでしょうか?
ここでは宅建の民法の出題傾向と勉強法についてや「民法を捨てても合格できるのか?」も踏まえつつ徹底考察します!
この記事を読めば、民法の勉強法について明確に見えてくるはずです!
宅建士試験の民法についてざっくり説明すると
- 宅建の合否は民法によって決まるといわれるほど重要である。
- 民法は暗記科目ではない。
- 民法の勉強法にはコツがあり、出題傾向を把握しておくのが良い。
- 「民法を捨てる」が通用したのは昔の話になりつつある。
宅建試験における民法の概要
宅建試験は土地や建物などの不動産取引における実用的な知識を問う試験です。宅建の民法は宅建業者(不動産会社)が不動産取引を行う上でも重要な科目だといえます。
ここでは宅建試験の出題内容と民法について中心にみていきたいと思います。
宅建試験の出題内容
不動産適正取引推進機構のページにも記載がありますが、宅建試験の出題内容は以下の通りです。
- 土地の形質、地積、地目及び種別並びに建物の形質、構造及び種別に関すること。
- 土地及び建物についての権利及び権利の変動に関する法令に関すること。
- 土地及び建物についての法令上の制限に関すること。
- 宅地及び建物についての税に関する法令に関すること。
- 宅地及び建物の需給に関する法令及び実務に関すること。
- 宅地及び建物の価格の評定に関すること。
- 宅地建物取引業法及び同法の関係法令に関すること。
上記の「2.土地及び建物についての権利及び権利の変動に関する法令に関すること。」が、民法での出題内容と関係性があります。
不動産取引と権利関係
不動産取引というと、身近なところでイメージしやすいのが、アパートを借りる、マンションを購入する、土地と家を売却するというような、「不動産の売買と賃貸借」 です。
たとえば、不動産を売る人(売主)と買う人(買主)、不動産を貸す人(賃貸人)と借りる人(賃借人)のことを当事者といいますが、不動産の売買や賃貸借に伴って不動産に関する権利義務が発生、変動、消滅します。
不動産取引が行われると当事者の権利関係が変動します。不動産の売買や賃貸借などにおいて権利関係を理解することは重要であり、民法は権利関係と深い関係性があります。
宅建試験の出題範囲
宅建試験では50問のうち、下記の4つの分野から出題されます。
- 宅建業法(約20問)
- 権利関係(約14問)
- 法令上の制限(約8問)
- 税その他(約8問)
4肢択一のマークシート方式による試験です。
権利関係からの出題は宅建業法の次に問題数が多く、試験におけるウエイトが大きいともいえるでしょう。
宅建試験の権利関係の14問中、下記のような出題があります。
- 民法(10問)
- 借地借家法(2問)
- 区分所有法(1問)
- 不動産登記法(1問)
民法は一般法、借地借家法・区分所有法・不動産登記法は特別法と呼ばれるものです。
一般法と特別法との関係ですが、契約などの分野において一般法である民法が適用されますが、特別法で規定が置かれている場合は特別法が一般法に優先して適用されます。
特別法を知るうえでも、一般法である民法の内容を理解することは大切なことだといえます。
民法の重要度
宅建の合否は民法の出来によって決まるということもできるくらい重要な科目です。
宅建業法などの他の科目は、まともに勉強すれば大体合計で25点ぐらい取れます。その分、得点で差がつくのが民法の分野であるといえます。
民法は事実関係を正しく読み取る必要があり、問題を解くときにもコツがあります。ただ暗記するのではなく、民法の特徴に合わせて勉強法を工夫することが大切だといえるでしょう。
民法の出題数
宅建試験の問題である全50問のうち、民法からは約10問が出題されています。
他の法律を含めた民法等の権利関係の14問のうち6割(8問ぐらい)を目標に勉強する必要があります。
目標の得点を意識することは大事ですが、宅建の民法は学習範囲も広いので、満点を目指すのではなく論点を絞って効率良く勉強することが肝心です。
民法で勉強する内容
宅建の民法の問題は、主に「民法の規定及び判例によれば、正しい(または間違っている)ものはどれか」という出題方法になっています。
また「正しい(または間違っている)ものは何個あるか」という個数を問う問題や、「正しい(または間違っている)ものの組み合わせはどれか」というような組合せ問題もあります。
つまり、民法の条文と照らして合っているかということが問われるので、民法の趣旨を勉強しなければなりません。
民法の内容的な分類
民法は内容によって、いくつかのまとまりに分類されます。 民法全体の共通項となる総則があり、大きく財産法と家族法の2つに分かれます。
財産法は、所有や売買、賃貸借などの財産関係を規律するものです。家族法は、夫婦や親子、兄弟姉妹、死後の相続などの身分関係や相続の関係を規律するものです。
財産法は物権法(人と物の関係についての規定)と債権法(人と人の関係についての規定)の2つに分かれ、家族法は親族法(婚姻、親子、親族などについての規定)と相続法(相続、遺言などについての規定)の2つに分かれます。
上記のように、各論的な条文が4つに分類され、民法は大まかに「総則、物権、債権、親族、相続」の5つに分けられます。
物権法
物権法は財産法に分類されます。人の物に対する権利についての法律です。物を直接支配する権利を第三者やすべての人に対して主張することができます。
たとえば、契約、相続、取得時効により、所有権などがどのように移転するのかといったところが重要になります。
債権法
債権法は財産法に分類されます。特定の人に対して一定の行為をすること(しないこと)を請求する権利についての法律です。
物権が誰に対しても主張できるのに対し、債権は債権の効力や履行の確保の手段などは当事者間だけで成立します。
親族法
親族法は家族法に分類されます。婚姻、離婚、親権など、家族について定められた法律です。
夫婦、親子など、結婚や親子に関すること、家族関係を規律するための決まりが定められています。
相続法
相続法は家族法に分類されます。人の死後の財産の行方について定められた法律です。
個人の死亡により相続が発生し、配偶者や子など一定の身分関係の人に承継される財産についての規定が定められています。
民法の勉強時の注意点とアドバイス
宅建の民法を勉強するときに気を付けたいことがいくつかあります。
テキストと過去問の使い方にも工夫が必要で、あらかじめポイントをおさえて勉強法に役立てることが大切です。
ここでは民法を勉強するときの注意点についてみていきたいと思います。
条文暗記ではない
条文にてらして合っているかということを答える問題ではあるものの、条文の暗記は必要ありませんし無駄だといえます。
条文そのものの穴埋めのような問題は出ませんし、条文を覚えていても内容が分からなければ正誤問題も解けません。
そこで条文の難しい問題を一字一句暗記するというよりも、法律の制度や趣旨にも注目して、簡単な日本語で条文の言っていることを理解するほうが楽だし確実に解けるようになります。
テキストで条文を勉強するポイント
民法では「抵当権」や「物上保証人」といった、さまざまな用語が出てきます。条文の内容が分かるようになるためには用語の意味を理解することが必要不可欠です。
ここで民法の内容を理解するためのポイントをあげてみます。
- 「原則と例外(原則として~できる/ただし例外として~できる)」
- 「法律の要件と効果(~という要件の場合は…という効果がある)」
- 「本人と第三者との関係(善意/悪意、無過失/重過失など)」
上記のような要点を意識しておくことで、条文の理解がスムーズに進み、勉強のコツが分かると得点にもつながりやすくなります。
テキストの読み方
民法を勉強するときには単に結論を覚える勉強法はすべきではありません。「~のため…である。」「…である。なぜなら~」など、結論に至るまでの理由や論理などに着目することが大切です。
テキストはただ結論だけが載っているものではなく理由や根拠が書かれているものを選ぶようにしましょう。
過去問で暗記の範囲を絞る
勉強するとき、数が少ないものであれば覚えきってしまうのが確実だし一番良い方法です。しかし民法は1044条まで条文があり、全てを覚えることなどできません。
そこで、ひたすら知識を覚える前に「いかに効率の良い覚え方をするか」を考えることが必要です。
そのためには、過去問を一通りさらって、毎年出題されるテーマや出題の傾向を調べて勉強する内容を絞ることをおすすめします。
過去問の使い方
過去問を解くときに気をつけたいことがあります。それは知識を広げすぎないことです。市販の過去問題集等には余計な知識や情報が掲載されていることもあります。
過去問を隅々まで解きまくれば、知識が増えているようで安心かも知れませんが、結果的に時間と労力を無駄にしています。
知識として定着させるべき部分と、勉強しなくても良い(むしろ勉強する必要がない)部分を見極めたうえで、必要なテーマに絞り込んで勉強するのが良いです。
民法の勉強方法
宅建の民法の勉強法にはどのようなことを取り入れると良いのでしょうか?
ここでは民法を勉強するときに意識したいことなどについて、詳しく見ていきたいと思います。
図を使う
宅建の試験では、最近は事例問題が多く出題されています。事例問題の文章をひたすら目で追って問題を解こうとすると、内容が頭に入らずに混乱を招きかねません。
事例問題の対策としては図を書くことがおすすめです。事例問題では、登場する人物が増えるにつれて事実関係が複雑化しやすくなります。
論理の関係やつながりを図で示せるようにすることで、事例の理解の助けとなり、問題が解きやすくなります。
理解しようとしすぎない
民法を勉強して間もない頃は、どういうことなのかいまいち分からないことがあります。その場合は、少し考えてみて分からなかったらあまり考えすぎないほうが良いです。
不明な部分を分かろうとして何度もテキストを読み返したとしても、余計に行き詰まることもあるでしょう。
勉強を進めていくことで、後で振り返って見たら分かることもありますし、問題を解くことで分かるようになることもあります。前に勉強したことが出てきたり、同じ論点に何度か触れることで理解できることもあります。
判例にこだわらない
宅建士の業務において判例はそこまで多く関わってこないので、判例をたくさん知っている必要はありません。
また、あまりに難しい判例の問題は解ける人はほとんどいません。判例集も必要ありません。
過去問で出たものやテキストに載っているものをさらう程度で十分だといえます。
民法大改正への対応は必須
宅建試験は2020年4月1日から120年ぶりに民法が大きく改正されました。
大小200に及ぶ項目が改正され、特に債権法の分野で特に多くの改正が行われました。
よって、改正部分が試験の出題にどう影響するかについてしっかりと把握しておく必要があります。
具体的には、法律用語や規定が大きく変更されている点には注意が必要になります。
また、改正に伴い過去問演習の際の答えも変更され、今までは正解だった選択肢が不正解になるという現象も発生するため、古い過去問を使っている人は特に注意が必要です。
これらの影響を考慮すると、過去問やテキストはできるだけ民法大改正に対応した最新版を選ぶのが必須でしょう。
宅建の民法と関連のある資格
宅建の民法を勉強しておくと、他の資格と出題範囲が重複していたり、他資格の勉強に役立てることができます。
ここでは宅建の民法と関連がある資格についてみていきます。
マンション管理士と管理業務主任者
マンション管理士と管理業務主任者は不動産関連の資格です。宅建士試験と民法での出題分野が重なっているので、勉強の効率が上がります。
宅建士と合わせてマンション管理士と管理業務主任者の資格を持っておくと、不動産業界での仕事の幅も広がります。
マンション管理士・管理業務主任者それぞれの内容については、下記の記事をご覧ください。
不動産鑑定士
難関国家資格といわれている不動産鑑定士ですが、民法の科目で宅建の民法の勉強が役立ちます。
不動産鑑定士は勉強時間も多く難しい試験ですが、宅建の資格と不動産鑑定士の両方の資格があると、不動産業界の現場で活躍できるフィールドが広がります。
司法書士と行政書士
司法書士と行政書士の民法の科目で宅建の民法と出題範囲が重なっています。
司法書士と行政書士のどちらも難しい試験ではありますが、転職に役立つだけでなく独立開業を目指すこともできます。
司法書士・行政書士それぞれの民法科目の詳細は以下の記事を詳しくご覧ください。
宅建の民法の重要論点
宅建の民法ではどんな問題が出題される傾向にあるのでしょうか?
宅建の民法の重要な論点について確認します。
重要度が高いポイント
- 意思表示(詐欺・強迫、虚偽表示、錯誤)
- 代理(無権代理、表見代理、復代理、自己契約・双方代理)
- 時効(時効取得、消滅時効)
- 物権変動
- 共有
- 対抗問題
- 契約の解除
- 売主の担保責任(抵当権付き、瑕疵担保責任)
- 賃貸借契約(民法と借地借家法の比較)
- 不法行為(一般不法行為、使用者責任)
- 相続・遺言(遺産分割、遺留分)
重要度は中程度
- 制限行為能力
- 抵当権(物上代位、法定地上権、抵当権設定登記と賃貸借)
- 債務不履行
- 弁済・相殺等
- 手付
- 保証債務、連帯債務
- 連帯保証
- 債権譲渡
- 委任
重要度が低いポイント
- 占有
- 根抵当権
- 先取特権
- 債権者代位権・詐害行為取消権
- 危険負担
- 質権
- 留置権
自分で過去問を解いてみると、試験によく出てくる論点だったり、重要なポイントが見えてくるはずです。過去10年分を目安に多くの問題を解いて出題傾向を把握しておきましょう。
宅建の民法を勉強する順序
宅建の民法は、いつどのようなタイミングで勉強すると良いのでしょうか?
他の科目と合わせて、民法を勉強する順番についてみていきます。
勉強する科目の順番おすすめ
- 権利関係(民法等) →宅建業法→法令上の制限→税・その他
- 宅建業法→権利関係(民法等) →法令上の制限→税・その他
民法は最初か2番目に勉強するのが良いです。
民法を最初に勉強すると、宅建業法や他の法律も理解しやすくなります。しかし民法は範囲が広く内容も難しいので、途中で挫折してしまうこともあるかも知れません。
その点、宅建業法は暗記中心なのでスムーズに入っていきやすいです。民法が苦手な人は宅建業法から勉強するのも良いでしょう。
民法は理解するまでに時間が必要な分野なので、早いうちから勉強を開始しておくのがおすすめです。
民法を捨てるのはアリ?
結論から申し上げると、民法を捨ててしまうのはおすすめできません。
宅建の試験では50問が出題され、権利関係(民法等)の配点は約14点です。もし民法が0点の場合、他が全て満点でも36点となり、その年の合格基準点によっては不合格となってしまいます。
そもそも他の科目で満点を取るのは極めて難しいです。したがって完全に民法を捨てるのはあまりにリスクが大きいです。
どうしても民法が苦手な場合
どうしても民法の勉強が苦手で勉強時間がかかりすぎてしまう場合は、過去問に特化して基本事項や頻出事項だけを覚えていきましょう。
基本的な問題、覚えておけば解ける問題、得点できる部分を確実にして、14点中6~7点を取ることを目指しましょう。
民法の勉強におすすめのテキスト・問題集
民法がどうしても苦手という方は、上記の「出る順宅建士シリーズ」のような科目別テキストで重点的に学習することをおすすめします。
出る順宅建士では極めて膨大な民法の範囲を重要度ごとにカテゴライズしてくれているので、苦手な人でも重要部分だけに集中して取り組むことができるようになっています。
ただの暗記にならないように、理由や根拠もそれぞれ丁寧に説明しているので、本番試験に通用する実力を身に付けることができます。
民法の大改正にもしっかり対応しているので、その点も安心材料です。
口コミにも「分かりやすい!」という喜びの声が多く見受けられます。民法が苦手という方はぜひチェックしてみてください!
宅建の民法の出題傾向と勉強法まとめ
宅建の民法の出題傾向と勉強法まとめ
- 宅建の民法の勉強法は暗記と理解の両方が大切である。
- 過去問を解いて出題傾向を把握し、論点を絞って勉強するのが良い。
- 民法を捨てるのはリスクが高く、民法が苦手でも権利関係(民法等)の14点のうち6-7点を目指して勉強するのが良い。
- 民法大改正がなされたため、最新版のテキストを使うのがベスト
宅建の民法の出題傾向と勉強法について、あらゆる角度から徹底考察してきました。
民法は試験の合否を左右してしまうほどに重要な科目ですが、民法で得点できれば試験合格への可能性が広がるといえるでしょう。
合格目指して頑張ってください。健闘を祈ります!