税理士試験に受験資格があるって本当?学部や実務経験についての条件を解説
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税理士
脇田弥輝
「税理士試験は誰でも受験できるわけではないって本当?」
「税理士試験の受験資格について詳しく知りたい!」
税理士は非常に人気のある資格なので取得を検討している人も多いと思いますが、実は誰でも試験を受験できるわけではありません。
そもそも税理士試験を受験するために事前に何らかの対応が必要な場合もあるので、税理士試験が一体どのような仕組みになっているのか知りたい人も多いのではないでしょうか?
そこでこの記事では税理士試験の受験資格について解説します!
税理士試験の受験資格を理解することが税理士資格取得への第一歩になるので、ここで紹介する知識を是非役立てて下さい!
税理士試験の受験資格についてざっくり説明すると
- 受験資格には学識・職歴・資格・認定の4つの条件がある
- 受験資格がない場合には簿記1級や放送大学の利用が有力な方法
- 年齢や国籍による受験制限はなく幅広い年齢層が受験している
- 試験合格だけでなく税理士になるには実務経験2年も必要
税理士には受験資格が存在する
税理士は確定申告や税務書類の作成、税金に関する相談業務などを行う「税金のスペシャリスト」であり、基本的には難関である税理士試験に合格しないと取得できない国家資格です。
しかし意外と知らない人も多いのですが、誰でも試験を受けられるわけではなく税理士試験には受験資格が存在します。税理士になるにはまず受験資格を満たして試験を受験できる状態にしなければいけません。
4つのうち1つに該当
税理士の受験資格には「学識条件」「職歴条件」「資格条件」「認定条件」の4つがあります。各受験資格の詳細は後述しますが、試験を受けるには4項目のうち最低1つに該当しなければいけません。
資格の中には受験資格がなくて誰でも受験できる試験もありますが、税理士は受験資格がある上に受験資格の内容が相当厳しい試験です。人によっては受験資格を満たすまでに時間が掛かることもあります。
受験資格は試験の質を担保する
そもそも受験資格が何故あるのか疑問を持つ人や「希望者全員に受験させても良いのでは?」と考える人もいるはずです。
しかし仮に受験資格をなくしてしまうと法律や税金の知識がない人までたくさん受験してしまい、試験の質を保てなくなってしまいます。
こうなると合格率が極端に下がってしまい、さらに税理士試験は全て記述式問題なので受験者数が増えすぎると採点も大変です。
そのため税理士試験の質を一定以上に保つためにも、受験申込を受け付ける段階で一度制限をかける受験資格が設けられているのです。
税理士試験を受けるための条件
それでは税理士試験の4つの受験資格である「学識条件」「職歴条件」「資格条件」「認定条件」について具体的に見ていきましょう。
該当するものが1つでもあれば税理士試験を受験できるので、まずは自分に当てはまるものがないかどうかを確認してみて下さい。
学歴条件
学歴条件としては以下のような条件が定められています。
- 「大学、短大又は高等専門学校を卒業した者で、法律学又は経済学を1科目以上履修した者」
- 「大学3年次以上で、法律学又は経済学を1科目以上含む62単位以上を取得した者」
- 「一定の専修学校の専門課程を修了した者で、法律学又は経済学を1科目以上履修した者」
- 「司法試験合格者」
- 「公認会計士試験の短答式試験に合格した者」
法学部や経済学部の卒業生は1つ目に該当することが多いものの、大学から卒業証明書や成績証明書を取り寄せる必要があります。郵送での取り寄せには時間が掛かるので早めに取り寄せましょう。
また大学生が2つ目の条件で受験を考える場合には「総単位数が62単位以上であること」と「法律学又は経済学が1科目以上含まれていること」を成績表で確認しておく必要があります。
職歴条件
職歴条件としては以下のような条件が定められています。
- 「法人又は事業を行う個人の会計に関する事務に2年以上従事した者」
- 「銀行、信託会社、保険会社等において、資金の貸付け・運用に関する事務に2年以上従事した者」
- 「税理士・弁護士・公認会計士等の業務の補助事務に2年以上従事した者」
上記の職業に2年以上従事した経験がある人は受験資格を満たすことになりますが、試験の申込みの際に職歴証明書が必要です。
職歴証明書は該当業務に従事したことを会社等の代表者又は人事責任者から証明してもらう書類で、様式は国税庁HPで確認できます。
資格条件
資格条件としては以下のような条件が定められています。
- 日商簿記検定1級合格者
- 全経簿記検定上級合格者
上記2つの試験の合格率は日商簿記1級が約10%、全経簿記検定上級が約15%であり、会計に関する資格の中でも難易度が高い試験です。
これらの試験の合格者は会計に関する一定以上の知識レベルがある者として税理士試験の受験資格が与えられる仕組みになっています。
なお資格条件で税理士試験を申込む際には合格証明書が必要です。
認定条件
上記3つの「学識」「職歴」「資格」による受験資格に該当しない場合でも、国税審議会の個別認定を受けることによって受験資格が認められる場合があります。具体的には以下の通りです。
- 「海外の大学を法律学又は経済学を履修した上で卒業した者について、日本の大学等の卒業者と同等であると認められる場合」
- 「商工会・青色申告会における記帳指導事務に2年以上従事した者」
なお認定条件で税理士試験を申込む場合は国税審議会会長発行の受験資格認定通知書のコピーを提出する必要があります。
受験資格がない場合は?
税理士試験の4つの受験資格について解説しましたが、残念ながら受験資格を持っていないことが判明した場合や、そもそも自分が受験資格を持っているかどうか分からない場合はどうすべきなのでしょうか?
以下では対処法を紹介するので、受験資格のことがよく分からず悩んでいる方は是非参考にしてみて下さい。
わからない場合は国税庁HPへ
税理士の受験資格には複数あって複雑なので「〇〇を経験したが、この職歴で自分に受験制限があるか分からない」「大学で履修した□□の講義は法律の科目に該当するのか?」など悩む人も多いはずです。
そのような場合には国税庁HPの「受験資格について」で分かりやすく丁寧に解説されているので確認してみて下さい。
多くの人が抱く共通の疑問に対してQ&A形式で掲載されていて、税理士試験の受験資格に関する疑問を解決する上で役立ちます。
放送大学の履修や日商簿記検定などが有力
法律とは全く関係ない職種の方や理系出身者が税理士試験を受験する場合には受験資格を満たさないことも多いです。このような場合には一体どうすれば税理士試験を受けられるのでしょうか?
まず方法の1つ目に挙げられるのが日商簿記1級に合格して資格条件を満たす方法です。日商簿記1級自体が難しいので簡単な方法ではありませんが、試験内容が税理士試験に直結している点がメリットです。
また放送大学などを利用して半年間に渡って法律学や経済学を履修するという方法もあります。これは日商簿記よりも簡単ではあるものの時間が掛かる点がデメリットと言えます。
全部で4つある受験資格のうち職歴条件や認定条件で新たに要件を満たすことは基本的には難しいので、資格を取得して資格要件を満たすか放送大学などを利用して学歴要件を満たさなければいけません。
簿記1級の試験概要について知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
受験資格についてのよくある疑問
続いて税理士の受験資格について多くの人が共通して抱く疑問とその回答について紹介します。
税理士になるにはまず試験の受験資格としてどんな条件を満たす必要があるのかを解説してきましたが、要件が複雑なので以下のような疑問を感じた人もいるのではないでしょうか?
- 税理士事務所で実務経験がある場合はどうなの?
- 法学部卒ではないけれど受験できるの?
- 年齢制限はあるの?
それぞれのケースが受験資格を満たしていると言えるのかどうか解説していきます。
税理士事務所で実務経験があるけれど受験できる?
税理士事務所に勤務して税理士の補助事務に従事している場合や弁護士・公認会計士等の業務の補助事務に携わっている場合、勤務期間が通算して2年以上あれば受験できます。
また税務署に23年間勤めて所定の研修を受けるなどの実務経験があれば、全科目を免除して国家試験を受験せずとも税理士資格を手に入れることが可能となります。
4つの受験資格の中でも特に悩む人が多いのが職歴条件ですが、日頃の自分の仕事が該当するのかどうかよく分からない場合には国税庁HPなどで確認してみると良いでしょう。
法学部を出ていないけれど受験できる?
学歴条件の中に「法律学又は経済学を1科目以上履修した者」という記載があるので法学部出身者や経済学部出身者でないと受験できないと勘違いする人がいますが、そのような事は決してありません。
他学部の学生が一般教養などで六法や行政法、労働法、国際法等の法律科目を履修した場合や、マクロ経済学やミクロ経済学、財政学、経済史、金融論等の経済学の単位を取得した場合も当然含まれます。
あくまで該当する科目を1科目だけでも履修していれば良いので、学部による制限はありません。
年齢制限はあるの?
税理士試験には年齢制限や国籍による制限はありません。前述の受験資格を満たしていれば誰でも試験を受けることができます。
そもそも税理士試験の受験者の年齢層は非常に高く、平成30年度実施試験の受験者は年齢別に以下のようになっています。
年齢層 | 受験者数 | 全体に占める割合 |
---|---|---|
41歳以上 | 11,309人 | 36.7% |
36~40歳 | 5,268人 | 17.1% |
31~35歳 | 5,716人 | 18.5% |
26~30歳 | 4,900人 | 15.9% |
25歳以下 | 3,657人 | 11.9% |
合計 | 30,850人 | ー |
出典:国税庁HP「平成30年度税理士試験結果」
「資格の取得や試験の受験は若いうちでないと意味がない…」と思い込んでいる方もいるかもしれませんが、税理士試験は30代や40代になってからチャレンジしても決して遅くありません。
特に税金は普段の生活や仕事の中で関わる機会が多いだけに、社会経験を積む中で税金についても様々な形で関わって経験を積んでいる社会人であれば勉強にも取り組みやすいはずです。
年齢を理由に税理士免許取得を断念する必要などないので、積極的にチャレンジすることをおすすめします。
試験合格だけでは税理士になれないので注意
資格によっては試験合格だけで正式取得になるものもありますが、税理士の場合は試験に合格するだけでは免許の取得はできません。
税理士になるには試験の合格に加えて2年以上の実務経験が必要で、この要件も満たして初めて税理士名簿への登録が可能となります。
実務経験が不要なのは弁護士や公認会計士が税理士登録をする場合だけであり、試験に合格して税理士になることを目指している人にとっては実務経験2年という要件が意外にも高いハードルです。
そのため実務経験の要件を満たすために税理士事務所で勤務しながら勉強して税理士試験の合格を目指す人も多くいます。
特に他業界に勤めている人の場合は税理士試験の受験資格を満たすだけで苦労することが多いのに、さらに会計業務に実際に携わって実務経験を積むとなると普段の仕事では満たせないことも多いはずです。
そのため本気で税理士を目指す場合には税理士事務所や会計事務所への転職も視野に入れて取り組むことになります。
なお個人事業で経理業務を行っている場合も該当することがあるので、詳細な内容は日本税理士会連合会が発行している「税理士登録の手引き」を確認してみて下さい。
代わりに公認会計士を目指す場合の注意点
そもそも公認会計士の資格を持っていると税理士になれるので、「税理士登録したいのであれば公認会計士試験に合格すれば良いのでは?」と考える人もいると思います。
税理士試験と違って公認会計士には受験資格がなく、誰でも受験できる点では確かに公認会計士のほうがメリットがあるかもしれません。
しかし公認会計士が税理士登録することはできても逆はできないので、公認会計士のほうがランクが上の資格です。税理士以上に難しい試験であり、寧ろハードルが上がると考えたほうが良いでしょう。
そもそも科目別合格制が採用されていて1科目ずつ合格を目指せる税理士試験と違い、公認会計士は一発勝負の試験なので、集中的に勉強時間を確保する必要があります。
税理士と公認会計士では試験の特徴がかなり異なることもしっかりと踏まえておくべきです。単純に税理士登録を目指すためだけに公認会計士試験を受けることはおすすめできないと言えるでしょう。
税理士と公認会計士の違いについては、以下の記事で詳しく解説しています。
税理士試験の受験資格まとめ
税理士試験の受験資格まとめ
- 試験の受験には受験資格4つのうち最低1つを満たす必要がある
- 受験資格がない場合は簿記1級や放送大学を利用するのが一般的
- 2年以上の実務経験がないと税理士登録できないので注意が必要
今回は税理士試験の受験資格について紹介しました!
税理士は受験資格を満たす所から始まり、試験に合格して実務経験要件をクリアして初めて登録できるハードルの高い資格です。
一方で税理士はそれだけの時間や労力を掛けるだけの価値ある資格なので、税理士資格の取得に是非チャレンジしてみて下さい!