税理士試験の所得税法の難易度は?頻出論点や科目選択のポイントまで解説!

この記事は専門家に監修されています

税理士

脇田弥輝

税理士試験を受けて税理士になろうとする場合には、最低限、法人税法か所得税法のどちらかに合格していなければなりません。

法人税法と所得税法の両方を選ぶという選択肢もありますが、一般的には法人税法の方が好んで選択され、所得税法のみを選ぶという方は少数派です。

それでも、資産税に関わる仕事をしたいという目標を持っている方は、相続税法と併せて科目選択をし、難しい椅子取りゲームを選ぶのです。

ここでは税理士試験で所得税法を選ぶことにどういう意義があるのか、メリット・デメリットはどのようなものか、そして試験の難易度はどれくらいなのかについて解説します。

この記事を読めば税理士としてのキャリアを築いていくうえで、所得税法を選択すべきかどうかを検討する良い材料を得られるでしょう。

税理士試験の所得税法についてざっくり説明すると

  • 税理士になる上での選択必須科目の一つである
  • 所得税法は母集団が高レベルで少人数であることも難易度の高さに影響している
  • 法人税法と所得税法では学習内容の一部が被るので両方の学習も合理的
  • 所得税法を選ぶなら、合格後のビジョンも明確にすべき

税理士試験の所得税法の概要

所得税法の受験プラン

税理士は士業と呼ばれる職業の中でも、生活や経営にとって身近な存在です。誰もが知っている士業といってもいいでしょう。

しかし、税理士の資格取得は国家試験の中でもトップクラスに難しいのが現実です。だからこそ希少価値があり、さまざまな働き方が選べるともいえます。

そして税理士試験を突破するためには、大きな壁である法人税法又は所得税法の選択必須科目のどちらかを最低限突破しなければなりません。

所得税の意義・性質

所得税という名前を聞いたことのない人は、おそらくいないでしょう。しかし、所得税の概要や税法上の位置付けを説明できるまでの人は少数派です。

所得税とは、個人の一歴年間(1月1日から12月31までの期間)に発生した所得に対して課税される税金です。

ここで「所得」とは「儲け」と考えると分かりやすいでしょう。

所得税課税の建前は、儲けがあれば納税義務があり、儲けがなければ納税義務なしということになります。

これと比較されるのが消費税です。消費税は消費税の課税対象となる収入から、自分が支払った消費税の差額を納税します。

ということは、消費税は赤字でも支払わなければならないケースも出てくるという点で所得税と異なっていることが分かります。

税金の課税の命題は「課税の公平」です。これが一番の価値であり、絶対的なものです

しかし、課税の公平を貫き通すと税制が複雑になりすぎるというマイナス面が出てくるという点は、一般常識として覚えておくといいでしょう。

所得税法で学ぶ内容

税理士試験における所得税法の科目では、所得税法だけでなく、法人税に関連のある法律や関連事項も学びます。

ただし、実際には出題される論点のほとんどが所得税法と租税特別措置法の範囲内です。これに加えて計算では通達の知識も問われます。

これ以外から出題される例は稀で、学習範囲は示されているほど広くありません。

所得税法の科目の特徴と受験者数

法人税法と所得税法では、圧倒的に法人税法の人気が高く、所得税法の受験者数は少なめになっています。

この理由は、法人を相手にすることの多い税理士の仕事上、法人税法の実務を早く学びたいという受験生側のニーズにあります。

そのためボリュームがあり難易度も高い法人税法の合格をしたら、同程度の難易度の所得税法を選ばず、学習時間が少なくて済む科目に進みたいと考える方が多数といえます。

実際、所得税法の受験者数がどれくらい少ないかというと、税法科目の中でもあまり多い方ではありません。ミニ税法である消費税や国税徴収法よりも少ないことも多いです。

出題範囲

出題範囲は公式の受験案内等では具体的に示されていませんが、過去問から考えると以下のような法令・通達から出題されます。

  1. 所得税法とその施行令、施行規則

  2. 租税特別措置法とその施行令、施行規則

  3. 復興財源確保法

  4. 減価償却資産の耐用年数などに関する省令

  5. 災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予に関する法律

  6. 国税通則法

  7. 所得税法関係通達・租税特別措置法関連通達

かなり多いように感じるかと思います。事実、法人税法と同じくらい「とんでもない量」だと言えるでしょう。

上記の法令1~7の、基本的な事項を押さえて、本試験で合格に必要な範囲の解答を書ければ合格することになっています。

出題形式

所得税法の出題形式は、理論問題が50点、計算問題が50点の合計100点満点で出題されます。

理論問題は、例年基礎的な法令に関する知識を聞く小問と、実務的な前提を示されて、それに対して妥当な法令知識を書く小問の2題が出題されます。

ただし、例外のケースもあり、一つ大問について延々と法令を記述させる問題が出題される年もあります。

これについて点数などの内訳は公開されていませんので、他の受験生が書ける論点を自分も落とさず書いて、プラスアルファができたら合格する答案になるといえるでしょう。

計算問題は、規模が小さめの総合問題が2から3題出題されます。計算問題では、基本的に納付税額の計算や課税所得金額の計算が出題されますので、所得税一巡の手続きが分かっているかが問われると言えます。

所得税法の難易度

難易度の図解

所得税はあらゆる税理士試験科目の中でも法人税法と並んで最高難易度を誇ります

所得税法の合格でつまずいてしまいなかなか税理士合格が果たせないという方も珍しくありません。

以下では、所得税法の難易度について詳しくみていきましょう。

過去8年の所得税法の合格率

試験年度 合格率
2022年 14.1%
2021年 12.6%
2020年 12.0%
2019年 12.78%
2018年 12.27%
2017年 13.04%
2016年 13.38%
2015年 13.22%

合格率は多少上下しますが、例年13%前後です。合格率だけで他の税法科目と比較してみると、やや高い水準です。

なお、法人税法の平均的な合格率は12.9%で、合格率は所得税法の方が上回っています。

しかし、一概に所得税法の方が受かりやすいということではありません。受験生の母集団の問題です。

あえて所得税法や相続税法を受ける方のモチベーションは極めて高く、簿記論や財務諸表論などはすでに取得済みの方が多いのです。

その精鋭が、少ない母集団の中から合格のイス取りゲームをするため、極めて熾烈な戦いとなることを覚悟しておいた方が良いでしょう。

所得税法の合格ライン

まず大原則として、税理士試験の各科目の合格基準点は60点と明確に定められています。

そのため、60点以上を取れば合格できる絶対評価と名目上はなっていますが、実際は他の受験生と上から13%を争う相対評価の試験です。

上位13%に入るための得点は問題の難易度によっても異なります。ただし例年の傾向から所得税法ではだいたい60点前後が合格基準点だと言えるでしょう。

税法科目では70点前後が合格点となる科目が多いので、やや合格ラインは低めと言えます。

所得税法が難しいと感じる理由

所得税法が難しい理由として、原因は多々挙げられますが、一番の原因は「試験範囲が膨大」なことです。

とにかく扱う条文の数が多く、通達などは調べだしたらキリがありません。

勉強時間を抑えるためにはある程度の取捨選択が必要になりますが、これがまた問題なのです。

自分で国税庁のホームページで公開されている、税理士試験問題と出題の意図を見て、独学で学習できる方はまずいないでしょう。また、市販の教材で対処するのも、税制改正に対応するのが難しいこともあり、限界があります。

そのため、学習の際は学習範囲を適切に絞ってくれている予備校や通信講座を利用するのが普通です。

このように難易度が高い所得税法ですが、法人税法と比べると、給与所得や医療費控除などを学ぶため、身近な事例も多く比較的取り組みやすいといえます。

所得税法向けのおすすめ勉強法

勉強風景

勉強時間の目安

一般的にいわれる所得税法合格に必要な学習時間は約600時間です。1日3時間勉強すると6~7ヶ月が学習期間の目安となります。

しかしこれはあくまで目安であり、「一通り学び終える」時間が600時間ということに注意が必要です。

また、理論暗記の進み具合には個人差があるので、学習時間が600時間からさらに増えることも考えられます。

さらに言えば、直前期4月~7月までは、専業の受験生や専門学校の受験生は1日10時間は勉強しています。もし働きながら学習をするのであれば、仕事の日は3時間、休みの日は家族の理解を得て可能な限り学習することが必要になります。

応用問題の対策に力を入れる

所得税法ではある規定についての内容を問う個別問題と、テーマに対して適用される規定を考察する事例問題・応用問題が出題されます。

基本的にこのうち事例問題と応用問題がメインで出題されます。一般的な傾向では、理論の問1が事例問題、問2が応用問題が出題されるのが相場です。

そのため様々な問題を想定して応用問題を解く訓練を積んでおくことが肝要です。応用問題の対応はかなり難しいものがあります。1問につき十分な勉強時間を取り、基礎となる個別理論の暗記も疎かにないようにする必要があるでしょう

法人税法の学習者は有利?

法人税法と所得税法のどちらを先に受験するかは個々の判断となりますが、所得税法を受ける前に法人税法の学習経験があると事業所得の学習に有利になります。

法人税法は税理士実務で絶対に必要な知識を学ぶもので、法人税法を選択しない受験生は基本的にはいらっしゃらないでしょう。

その上で、あえて同じくらいの学習時間を要し難易度も高い所得税法までは、一緒に受ける必要はないと考える方が大半です。

しかし試験範囲のうち少なくない部分を占める事業所得の内容がほぼ同じなので、実際のところ選択必須科目を2科目とも勉強するのは想像より難易度は高くありません

また、同じ国税で所得に担税力を見出して課税する「所得課税」をされる点で、法人税と所得税には共通の考え方が根にあります。

(担税力とは、たくさん儲けたのだからそれに対して税金を負担する力があるという意味です。)

そのため法人税法と合わせて所得税法を勉強してみたいけど、難易度が高いから避けようかと迷っている方は、実はそこまでキツくはないということを覚えておきましょう

所得税の頻出論点

税理士試験は、試験委員が一定の期間で入れ替わりながら毎年行われています。そのため、過去問から傾向を探るという、他の試験の王道的な学習法を取ることが難しいです。

しかし所得税法は出題の内容は絞れませんが、実際の確定申告書の流れに沿うように出題されるという形式は大体同じです。

この際所得金額の計算や源泉徴収などの各項目が満遍なく出題されるので、偏った学習は避けるべきといえます。

こうなると税理士試験で過去問を解く必要があるのか?という疑問が生じますが、過去問はやはり大切です。

完璧に解ける必要も、合格基準点に達する必要もないのです。バッティングに例えると、本番に備えた素振りに近いと考えると分かりやすいでしょう。

解けるところと、解けないところとを瞬時に判断し、「取る執念」「捨てる勇気」の両方を身体で見に付けることができます。

過去問集は必ず購入して、過去数年分でいいので、しっかりと解いておくことが大切です。

問題意識を持って学習する姿勢が必要

2019年の税理士試験、所得税法の理論問題ではイレギュラーな出題となりました。

それは、理論の第1問で、国外財産調書と財産債務調書に関する基本知識の理解を問う問題が出題されたことです。

これは新しく制度が変わったところなので、未対策の受験生が続出しました。

少しでも書ければアドバンテージになるのは確かですが、受験生の多くが書けないものは大きな加点対象にならない傾向があります。

しかしその得点のつけ方は公表されていません。

このような問題に対応するにはどうすればいいのでしょうか?

それは、こまめに国税庁のホームページをチェックすることです。

特に一般の納税者向けのリーフレットが簡単で図解もあり、理解しやすい、いい教材となります。

税理士試験は時流を反映するので、問題意識を持って、常にアンテナを張っておくことが、アドバンテージを作るコツといえるでしょう。

所得税法と法人税法はどちらを選ぶべき?

選択を迫る

さて、ここまで所得税法を法人税法などと比較して説明してきましたが、果たして所得税法と法人税法はどちらを選ぶべきなのでしょうか?

結論から示すと、税理士は基本的に会社の決算や税務申告を行うことがほとんどですから、法人税法を選択しないということはあまり考えられません。

そのため、合格しやすさを考えれば選択必須科目は法人税一つにして、あとはミニ税法を組み合わせて官報合格するのがおすすめでしょう

しかしながら、「資産税」という特殊な分野を専門的に行う税理士・税理士法人もあります。そのような事務所では、所得税法、相続税法、固定資産税などを学んでいると仕事上も、就職上も有利です。

上で結論として法人税法を選ぶという選択を提案しましたが、最終的には自分が「税理士としてどんな仕事をしたいのか」を十分に考えて科目選択をすべきことになるでしょう。

所得税法よりも人気が高くおすすめな税法科目としては消費税法が挙げられます。

消費税法は難易度的にも重要度的にもかなりコスパの良い科目なので、こちらも併せてチェックしておくと良いでしょう。

税理士試験の所得税法まとめ

税理士試験の所得税法についてまとめ

  • 所得税法は税理士試験の選択必須科目の一つである
  • 所得税と法人税法では共通して学ぶ知識もある
  • 所得税法が難しいのは、母集団の意識とレベルが高いためである
  • 所得税法は資産税を主要な業務としたい人にお勧めである

今回の記事では所得税の概説から始まり、法人税法との比較、科目選択などを説明してきました。

税理士試験では高齢化が極めて進行しており、これからだんだんと上の世代の税理士の先生方が引退されるようになります。

この世代の先生方のスタンダードが国税3法の所得税法・法人税法・相続税法でしたので、同じ労苦を経験した戦友としても評価されるでしょう。

また、資産の譲渡益などの複雑な計算は、専門的に学んだ方でないと、正しく申告することができませんので実務でも重宝する知識となるでしょう。

皆さんの目線の先に税理士という職業があるなら、所得税受験の選択肢も視野に入れ、思い描いた通りの夢を実現しましょう!

資格Timesは資格総合サイト信頼度No.1