【税理士試験】簿記論は独学合格できる?勉強時間の目安やおすすめテキストを紹介!
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税理士
脇田弥輝
簿記論は税理士試験の会計科目であり、財務諸表論とともに必ず合格する必要のある必須科目です。
簿記論や財務諸表論の理解がないと、税法科目で大変苦労する分野もあるということで、簿記論と財務諸表論を初めに選択する税理士受験生はかなり多いです。
そして、これら2つの会計科目は書店などで独学用のテキストが並んでいるのをご存知でしょうか?そのため、簿記論と財務諸表論は独学でも簡単に合格できると勘違いされている方も多いです。
もちろん、独学で合格することは不可能ということはありません。
しかし、実際にそれをなし得ようとするにはかなり高い壁があると理解しておく必要があります。
ここでは簿記論の独学について、躓きやすいポイントや難易度の実態をお伝えします。
簿記論の独学についてざっくり説明すると
- 簿記論は税理士試験において必須の会計科目である
- 簿記論を独学で合格することは不可能ではない
- 予備校や通信講座利用者と比べると、明らかに試験に対する情報が不足していることは覚悟しておくべき
- 独学では勉強法の確立をするだけでも数ヶ月かかることが多い
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税理士試験の簿記論の概要
簿記論の学習内容
簿記論は先に述べたとおり、貸借対照表や損益計算書を作成する上で必要な知識を問われる、税理士試験において合格が必須とされる科目です。
同じ会計科目として財務諸表論という科目があります。財務諸表論は簿記論で計算した会計上の金額を、どのように財務諸表に表現するかを学ぶ科目のことをいいます。
税理士として働く上ではもちろん必須の知識です。そして「簿記」に対する本質的な理解がないと、税法の理解も進まず、実務の現場で困ってしまうことも知っておいてください。
財務諸表論と共に1科目目としてチャレンジする人が多いので、簿記論は税理士試験の登竜門的な科目でもあります。
なお、日商簿記1級や全経簿記上級に既に合格されている方にとっては非常に取り掛かりやすい科目でもあります。
簿記論の出題形式
簿記論という科目は、個別問題と総合問題で構成され、計算のみが解答として求められます。
試験ではとくに何か文章を「論述する」わけではありません。しかしながら、自分が計算した数値を、「どのような理論、根拠で計算するに至ったのか」を述べられるレベルになければ、合格点を採れる可能性は低いでしょう。
出題範囲はかなり広い上、その決め方も大雑把で、簿記論の出題範囲に関するすべての知識を身に付けようとするなら、図書館のワンフロア分の資料が必要になるほどです。
また、問題を作成している試験委員が数年ごとに入れ替わるので、試験委員対策なども必要となり、極めて広範囲にわたって学習する必要があります。(試験委員の任期は通常3年です)
簿記論の合格ライン
税理士試験は、各科目につき100点満点で、そのうち6割の得点で合格といわれています。名目上は絶対評価の試験だといえそうですが、現実は違います。
税理士受験生なら常識となっているのですが、実際には各科目の合格率が15%前後になるように調整されているといわれています。
つまり、受験生の中で上位15%前後に入らなければいけない相対評価の試験だということです。
実際は、簿記論は5割ほど得点できれば合格ラインに達することができます。
競争試験であるがゆえに他の人よりも難しい論点を追う方もいます。
しかし基本的に受験生のほとんどが得点できなかったり、極端に簡単な場所には低い配点がされ、合否の分かれ目になる「ツボ」に高い配点がされるということも、暗黙の了解です。
簿記論の難易度はどれくらい?
税理士試験には会計科目と税法科目で全11科目の試験が用意されていますが、簿記論の難易度は「かなり高い」といっていいでしょう。
実際には選択必須科目の法人税法・所得税法に次いで3番目くらいに難しいといえます。
この難易度は当然のことですが、日商簿記1級以上であり、そこそこの勉強では太刀打ちできず、相当の覚悟と情熱をもって勉強に励む必要があります。
簿記論の合格率の推移
簿記論の合格率は年によって増減が大きめですが、概ね15%程度です。他の税理士試験の科目と比べると合格率はやや高めですが、それでも8割5分は落ちる計算です。
そもそも受験資格が設けられており、大卒の方や日商簿記1級などを持った方々が分母になり、そこから上位15%に抜け出すということを考えれば、難しさが想像できるでしょう。
簿記論合格に必要な勉強時間
一般に簿記論合格までに必要な勉強時間は500時間ほどです。
他の科目と比べても、法人税法・所得税法・相続税法の次くらいに長い勉強時間が必要とされます。
しかし当然ながらこれには個人差があります。
簿記の学習をしていたときに全く違和感の無い方と、用語の意味も数字も分からないという方に分かれるような事象が簿記論でもあります。
そのため、400時間程度でも受かる方もいれば、500時間はおろか倍の1,000時間勉強したらなんとか受かったというように、500時間という数字はあくまでも目安であることに注意が必要です。
また、相対評価の競争試験であるため、ここまで勉強すれば必ず合格しますと言い切れない面があります。
本当に受かりたいと思っている方は、500時間で十分と知っていても800時間以上準備したというケースもあるほどです。結局、他の受験生だけでなく、不安とも戦いながら上位15%を目指すのです。
500時間の勉強をどれくらいの期間で達成する必要があるか
それでは500時間という時間をどのくらいの期間で確保すればいいのでしょうか?
個人差や資格取得に対する思いなどで、変わってくるものですが、一般的には学習開始時から12ヶ月以内で500時間といわれています。
「500時間は多いから2年計画にしよう」
という考えを持たれる方が一定数いらっしゃいますが、その考えでは万が一会計基準が変わったときに、また勉強し直しでテキスト代などもかさみます。
また、1科目2年計画にすると、5科目合格するまでに10年の期間を要してしまいます。それだけの期間を受験に捧げることが可能でしょうか?
早く受かること、また受かる確率を高めるためには、ある程度の「勢い」も必要なのです。
簿記論に独学合格は可能なのか
そもそも独学で挑む人はごく少数
そもそも難易度の高い税理士試験に独学で挑む人はほとんどおらず、予備校や通信講座を利用するのが一般的です。
実際に独学での合格者を見ても、その数は一握りです。
仮に独学でチャレンジするとしても、ライバルはノウハウを詰め込んだ講義やテキストをフル活用した予備校や通信講座の受講生たちになります。勉強法も予備校などに丸投げできるので、独学とは違い省エネができます。
そのため、これらの母集団に混じって上位15%に食い込むことは困難を極めます。
最初は独学で挑戦したものの、結局合格できず予備校に通うことを決断し、「最初から予備校にしておけば良かった」と後悔する人も多いです。
以上の理由から、基本的に独学で目指すことはおすすめしません。
ただし、「独学の定義」もいろいろあります。
商業高校や会計系の学校で簿記の基礎を身につけていて、数年ぶりに市販のテキストなどで学習することもある意味では独学といえるでしょう。
他にも過去に日商簿記1級を取得しているなど、既に高い簿記の実力を身につけている方であれば独学は視野に入ってきます。
税法科目よりはまともな対策がしやすい
実際独学で合格する方はごく少数ですが、一応、税理士の試験科目の中では、簿記論は独学での勉強法も確立しやすい科目です。
なぜなら、簿記論と財務諸表論以外は税法科目であり、毎年のように変更になる税制改正の影響を直接受け、それに対応する必要があるからです。
そのため税法科目は、ずば抜けた能力がある方を除き、独学がほぼ不可能ということができます。
簿記論や財務諸表論ではこうした影響は微々たるものです。直近では「収益認識に関する会計基準」が設けられましたが、このようなことがない限り、独学で全く対策できないということは無いといえます。
ただし「他の科目と比べたらまだマシ」というレベルの話であり、日商簿記1級取得者などでない限りは、難易度的に予備校や通信講座を利用した方がいいでしょう。
他人の合格体験記との向き合い方
ネットやSNSなどでは簿記論に独学で合格したと発信している方もいらっしゃいます。
実際物理的に不可能ではありませんし、本来称賛されるべきことですが、その話が本当なのかという視点でも見てみることも必要です。
仮にその合格が本当だったとしても、勉強時間が明らかに短いなど、現実よりも「盛っている」可能性があります。
また匿名やイニシャルのみでの発信も多いため、その情報を鵜呑みにするのは危険です。
信用できるのは、予備校や通信講座の実名、顔写真付きのオフィシャルな合格体験記くらいですし、他人は他人、自分は自分なので、参考程度にしかならないというのが実情でしょう。
簿記論の勉強法の基本
ここでは出題可能性のある各分野の紹介は省略させていただきます。
受講している、または、受講を検討されている税理士講座の講師の方の言うとおりにやれば、ペースメーカーにもなりますし、余計な範囲まで勉強をする手間が省けます。
ここではもっと根本的な、簿記論学習のエッセンスをお伝えします。
問題演習が勉強の中心
講義である程度の会計処理の基本や考え方を押さえたら、あとはひたすら問題演習をすることで理解が深まります。
最初は理屈が分からなくても、問題を解いているうちに自然に解答を導くことができ、その結果として理論上も納得していけることが多いのです。
そのため、とにかく手を動かすことが大切といえます。
また、数をこなす一方でミスした問題はそのままにせず、必ず解き直して、同じ問題で何度も間違えるということをしないようにしましょう。
もちろん内容をしっかりと理解をするということも大切なのですが、試験に合格するためには何よりも解答力が必要となります。
いわゆる捨て問といえる、飛びぬけた出題以外は「解答マシン」になったつもりで、速く、正確に計算できるようになることが重要です。
計算力にしっかりと向き合う
簿記論は全てが計算問題で出題されるため、計算速度と正確性が求められます。
特に計算速度については妥協してしまう方が多く、「速さはこれくらいでいいか」と自分に対して甘えがちな人は要注意です。
計算速度の速さは時間制限の厳しい税理士試験において大きな武器であり、検算をする余裕もできますので、正確性も跳ね上がります。
そのために工夫すべきは電卓の使い方です。これには個人差があります。
聞き手で筆記具を持ちながら電卓を打つ派と、聞き手で筆記具を持ち、逆の手で電卓を打つ派に分かれるのですが、これに正解はありません。
税理士受験の世界では、「1級初段・税理士六段」といわれるほど計算速度が重要視されます。
とにかく自分で創意工夫して、自分の最高のパフォーマンスを発揮できる電卓の打ち方なども見直してみるといいでしょう。
財務諸表論との並行学習がおすすめ
冒頭でも述べたように、財務諸表論では簿記論で学ぶ計算の理論的な背景を学ぶことができます。
そのためこの2科目を並行して学習を進めることで、簿記論の理解が深まると同時に、財務諸表論では計算スピードが速くなります。
実際、予備校や通信講座でも簿記論と財務諸表論を並行させるカリキュラムがほとんどです。
また、仕事が増えるなどして時間的に2科目同時合格が狙えないと判断した場合は、途中から片方の科目を重点的に学んで、1科目だけでも合格するという柔軟な対応が出来ることもメリットです。
この結果仮に、2科目同時合格できなかったとしても学習を進める上での基礎となる知識は得られるので、受験上は損失が少なくてすみます。
財務諸表論は実務面でも会計処理と財務諸表の表示を理解する上で役立つ知識となります。
簿記論と財務諸表論を別々で勉強する理由は全くと言って良いほど無いので、基本的には一緒に学習を進めるようにしましょう。
試験から合格発表までの過ごし方は?
税理士試験では試験当日から合格発表までに、4ヶ月ほど期間が空きます。
そのため、その間は何に手をつけていいか分からなくなるほど迷うことになると思います。
この場合は、余程試験の手応えがボロボロでない限り、基本的に次の科目の勉強を進めてしまって問題はありません。
合格していれば良し、もし残念な結果となっても各予備校などでは、科目振替制度や再受講割引などがあるためです。
また翌年1月になると受験経験者向けの講座が始まることもありますので、1月からの再受験に向けた勉強でも間に合うことが挙げられます。
その上で、試験勉強中は出来なかった家族サービスなどもしておくといいでしょう。家族の理解なしに、難関資格の学習を続けることは極めて難しいためです。
簿記論の独学におすすめテキスト
既に簿記一級の資格をお持ちの方、高校や大学で簿記の講義を既に十分受けた方であれば、税理士試験の簿記論でも独学で突破できる可能性は高いでしょう。
独学合格を狙う方におすすめなのは、TACが出版している「簿記論 個別計算問題集」です。
この問題集は論点別で問題がまとめられているので自分の強化したい分野を重点的に勉強することができますし、問題ごとに重要度が記載してあるので演習の取捨選択もできるようになっています。
他にも、多くの独学者から支持を集めている王道の教材としては以下の2つが挙げられます。
- みんなが欲しかった!税理士 簿記論の教科書&問題集
- 簿記論 総合計算問題集(大原出版)
ただし、これから簿記論の学習を始めるという方、まだ簿記2級程度の知識しか無いという方は、やはり予備校や通信講座を利用するのが無難でしょう。
数ある予備校の中でも特におすすめなのがスタディングの税理士講座です。とにかく受講料が安いので費用面でのデメリットがほとんどありません。
またスマホであらゆる学習ができるのも魅力的であり、仕事で忙しい方でも通勤時間や休憩時間などのちょっとした隙間時間を使って勉強を進められます。
まだ税理士講座を選んでいないという方は是非チェックしておきましょう。
スタディングの税理士講座については以下の記事で詳しく解説しています。
簿記論の独学まとめ
簿記論の独学まとめ
- 簿記論の独学は簿記1級合格者など既に簿記を専門的に学んだ方以外であればおすすめできない
- 500時間を目安にするなら1年以内の学習期間を設定すること
- 簿記論を受験するなら財務諸表論との並行を勧めること
- 難関資格の受験の際は家族の理解を得るのも忘れない
簿記論の独学についてお伝えしました。
簿記論自体がかなりの高難易度であるがため、繰り返しになりますが、独学は基本的におすすめしません。
ある程度厳しい表現を使った部分もありますが、現実を認めた上でどうするかを判断することがとても重要です。
自分の現状、お金、時間などを十分に考慮して、後悔のない選択をしていただきたいと思います。