法務省が認定する国家資格「司法書士」の試験スケジュールと注意点
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司法書士は、弁護士と同様に法律の専門家として知られる国家資格です。司法書士の試験は、弁護士になるための司法試験に次いで難しい試験と言われています。
さらに、法務省が認定する司法書士としての業務を行うためには、試験合格後に司法書士会に入会しなければなりません。
ここでは司法書士の業務内容と受験申請書の入手・提出から受験までのスケジュールに加えて、合格後の司法書士会入会までの流れについても説明しましょう。
司法書士の業務を開始するまでの流れをざっくり説明すると
- 司法書士試験は受験資格がないが、非常に難易度が高い
- 試験では択一式だけでなく記述式試験や口述試験もある
- 合格後は司法書士連合会に入会する必要あり
司法書士の主な業務内容
司法書士には様々な権限が与えられますが、主な業務としては先ず不動産の権利移転関係・法人設立・抵当証券交付等の登記申請が挙げられます。
相続や売買で不動産所有権の移転がある場合、司法書士に登記手続きを代行してもらうことは比較的知られていると言えるでしょう。
また、弁済を相手が受領しない場合などに行う供託に関する手続きも代理で行うことができます。裁判所に提出する訴状や準備書面のほか、検察庁に提出する告訴状等の書類作成も司法書士の業務です。
行政処分に不服がある場合には上級庁に対して審査請求ができますが、法務局長への審査請求の手続きも司法書士が当事者に代わり行う権限を与えられています。
さらに、簡易訴訟代理等能力認定考査に合格した認定司法書士は、従来弁護士にしか認められなかった簡易訴訟・支払い督促・民事調停などの手続きといった簡易訴訟代理等関係業務もできるようになりました。
以上のような司法書士の業務に関する相談に応じることも認められており、司法書士は有償で相談業務を行うことが可能です。
そして、司法書士として登録して上記のような業務を行うだけでなく、司法書士資格を活かして企業法務として活躍している者も少なくありません。
企業法務では、司法書士が契約上のトラブルを事前に回避したりコンプライアンスの整備に携わったりすることができます。
司法書士は法務省が認定する国家資格
法務省が実施する司法書士試験は、司法書士法第6条に基づいて行われる国家試験です。
受験資格に制限は無く、年齢・性別・学歴を問わず誰でも受験できます。
試験の概要に関する情報と受験申請書を入手するためには、試験受験案内書の通達を行う法務省のホームページを閲覧すると良いでしょう。
前年度までの試験結果についても公表しています。詳細について問い合わせたい場合は、地域の法務局や地方法務局総務課に相談すると教えてくれることになっています。
司法書士試験に合格して司法書士会に入会した後、簡易訴訟代理等能力認定考査を受験したい者は、入会している地域の司法書士会に考査申請書類の交付を依頼します。
入手した書類に必要事項を記入して提出したら、簡易訴訟代理等能力認定考査を受けることができます。
簡易訴訟代理等能力認定考査の合否の結果については、速やかに法務省のホームページや考査会場を管轄する法務局に掲示されます。後日官報へ公告され、認定証の交付を受けることになるのです。
司法書士試験の受験者数と合格者数
狭き門として有名な司法書士試験は、どれほどの数の受験者がいて受験者のうち何人が合格できるのかについて紹介します。
平成30年度の受験者数は1万7668人でした。この数は前年度に比べて1163人減少しています。出願者数の減少は平成23年の2万5696人から続いており、毎年1000人以上の受験者減少傾向が止まらず11年間で半数ほどにまで減少しています。毎年1000人以上の受験者減少傾向が止まらず4年間で30パーセントほど減っているのです。
平成30年度の最終合格者数は621人で合格率は4.3パーセントという結果でした。
合格者の平均年齢は38.77歳で、19歳から80歳まで幅広い年齢層が合格しています。
平成30年度の621人の合格者のうち10代と80代の合格者はいずれも1人だけですが、20代から40代の年齢層は多くの合格者を出していると言えるでしょう。
50代以上の合格者は多くはないものの、一概に若い人ほど合格しやすいというわけでもなく、働きながら勉強して司法書士試験に合格している社会人も少なくありません。
司法書士試験の難易度
司法書士試験は、弁護士・裁判官・検察官になるための司法試験に次ぐ難関と言われています。
11科目にわたる法律関係の筆記試験があり、択一式試験に加えて登記に関する記述式試験も受けなければなりません。
筆記試験では司法書士に必要な法律や手続きに関する知識を問われ、筆記試験に合格した者だけが口述試験を受けられます。
合格点は最初から設定されているわけではなく、毎回受験者の中で一定割合の成績上位の者のみ合格となります。こうした相対評価試験であるため、合格率が大きく変動しないのです。
例年の合格率の平均が3.3パーセントほどで、新司法試験に比べてもかなり低い合格率となっています。これは、司法書士試験に受験資格の制限が無く実用性の高い資格であるため、人気があり受験者が多いことが原因となっていると言われています。
また、一次試験では3つの分野全てにおいて最低基準点が決められており、さらに合計点でも基準点を上まわらないと合格できません。二次試験に進むためには、各分野の基準点と合計点の基準点の両方をクリアすることが求められるのです。
司法書士試験の問題形式と基準点
司法書士試験の問題形式と基準点の詳細については、以下のとおりとなっています。
まず、一次試験は午前の部と午後の部に分かれており、午前の部は憲法・民法・刑法の主要3法に商法を加えた4科目に関する2時間で35問の5肢択一式試験があります。
それぞれ105点満点中75点が基準点となり、基準点に達しなければ他の試験の成績が良くても二次試験に進むことはできません。
午後の部は、民事訴訟法・民事保全法・民事執行法という民事関係のほかに、司法書士法・不動産登記法・商業登記法など司法書士の主な業務に関わる法律の知識を問う試験が行われます。
午後の部は5肢択一式試験だけでなく登記簿作成業務に関連する記述式問題もあります。
午後の部の試験は択一式35問と記述式2問から成り、試験時間は3時間となっています。
登記簿作成実務に関する記述問題は、70点満点中32.5点が基準点となります。二次の口述試験は就職面接に似た形式で行われ、受験者のほとんどが合格できると言えるでしょう。
たとえ、二次試験が不合格になっても、翌年の筆記試験が免除されるため口述試験だけ再挑戦することができます。
司法書士試験のスケジュール
司法書士試験を受験すると決めたら、事前に試験の行われるスケジュールについて確認をしておきましょう。
司法書士試験の受験案内書の入手から最終合格発表までのスケジュールについて解説します。
受験案内書(願書)の配布・受験申請
司法書士試験を受験するには、まず受験案内書を入手しなければなりません。受験案内書は4月上旬から配布されます。
法務局または地方法務局の総務課の窓口に行けば願書の受け取りができますが、郵送による配布の請求もできます。郵送を希望する場合には、自宅の住所を記した返信用封筒に切手を貼って同封すれば自宅に送付してくれます。
受験申請受付期間は5月上旬から10日程度で、年度によって期日が多少変動します。
窓口の受付時間は土日と祭日を除く平日の午前8時30分から正午までと、昼休みをはさんで午後1時から午後5時15分までとなっています。
郵送による受験申請をする場合は、受付期間の最終日の消印が有効となるので遅れないように注意しましょう。
一次試験・合格発表
司法書士試験の一次試験は毎年1回で7月の第1日曜日に行われます。先述したとおり、一次試験は筆記試験のみで午前と午後の二部構成になっています。
午前の部は午前9時30分から午前11時30分までの2時間で、午後の部は午後1時から午後4時までの3時間となっています。8月中旬には試験問題の正解および基準点などが受験地と法務省のホームページ上に公表されるので、自己採点してみましょう。
一次試験の合格発表は、試験日からおよそ3カ月後の9月下旬または10月上旬となっています。
二次試験・最終合格発表
司法書士試験の一次試験に合格したら、口述式の二次試験を受けることができます。
二次試験の実施は一次試験の合格発表が行われた後10月中旬に速やかに行われます。口述試験とは、司法書士になるうえでの心構えなどについて試験官2人が発する質問に対しその場で答えていく面接形式の試験のことです。
試験開始時間は受験者によって異なります。試験開始時間は口述試験受験票に記載されるので、各自で受験票を確認しましょう。
受験会場は管区法務局が指定した場所になります。
司法書士試験の最終合格者は、例年10月下旬又は11月上旬に受験地と法務省のホームページ上で発表されることになっており、その後官報へ公告されて最終合格者には司法書士試験合格証書が交付されます。
受験申請書の提出および試験当日の注意点
いったん受験申請書を提出したら、もはや受験申請書の取り下げや受験料の返還を求めても応じてもらえません。
受験地の変更も認められないので、よく検討してから提出する必要があります。受験するには原則として受験会場に受験票を持参しなければなりません。
受験申請書を提出したのに受験票が届かない場合は、申請書の提出先である法務局または地方法務局の総務課に連絡して受験票を受け取っていない旨を伝えましょう。
受験票を受領したのに当日持参するのを忘れたり紛失したりした場合には、受験会場で試験開始前に試験会場運営者に申し出れば、仮の受験票を発行してもらって受験することもできます。
また、受験申請書が受け付けられた後で住所変更などがあったら、ただちに提出先の法務局または地方法務局の総務課に申し出ることが必要です。
法務局等から重要な書面が送付されることもあるので、住所変更を申し出ておかないとこのような重要書面を受け取ることができません。
身体に障害がある受験生は、事前に受験地となる法務局または地方法務局の総務課に相談すると、受験地の選択や受験教室への誘導について配慮してもらえるので申し出るようにしましょう。
試験当日の注意点
司法書士試験本番の当日には、注意すべきポイントがあるので心に留めておきましょう。
多肢択一式試験の答案用紙はコンピューターが読み取るマークシートになります。マークシートへの記載はBまたはHBの鉛筆に限られ、ボールペンなど他の筆記用具の使用は認められていません。
シャープペンシルも採点されないことがあるので鉛筆だけ持参するようにしましょう。予備の鉛筆や簡易式の鉛筆削りの持込はできますが、表面に文字情報の印刷された鉛筆はカンニングを疑われることもあるため持ち込んではいけません。
一方、記述式用答案用紙は、万年筆または黒色インクのボールペンのみ使用が認められています。
鉛筆などで記載された答案は採点されないので、択一式試験の使用筆記用具と間違えないようにしなければなりません。
試験中に携帯電話やタブレットなど通信機器の電源がオンになっていることが発覚した場合答案は無効とされるため、試験開始前にスマートフォンなどの電源をオフにすることを忘れないようにしましょう。
可能なら試験当日はスマートフォンなどを自宅に置いてくる方が良いかもしれません。試験が開始されたら、たとえ試験終了時刻前に答案が完成しても原則として途中退席することは禁止されています。
試験中に体調不良を起こしたりトイレに行く必要が生じたりした場合は、黙って挙手して試験監督の指示に従うようにしましょう。
試験監督が同行して保健室で手当てを受けたり用を足したりすることが認められることがあります。
司法書士試験が行われる会場
司法書士試験が実施される会場は、法務局または地方法務局が指定した場所になります。
2019年までは全国50カ所に受験会場がありましたが、受験申請者の減少等の事由により2020年からは法務局または地方法務局の管轄区域内会場の15カ所に減らされる予定です。
このため、2020年から司法書士試験を受ける受験生は早めに宿泊施設を予約するなど受験に支障のないよう法務省が注意喚起しています。
司法書士試験合格後の流れについて
めでたく司法書士試験に合格した後、どのように業務を開始するかについて説明しましょう。
司法書士試験に合格しただけでは、司法書士と名乗って仕事をすることはできません。合格後に地域の司法書士会へ登録をすることが必要となります。司法書士会は強制加入団体と言われ、加入しないと司法書士として開業も勤務もできないのです。
司法書士会に登録するためには、指定された研修を受講したうえで司法書士連合会と司法書士会の両方で入会手続きをして登録費用や会費などを納める必要があります。
具体的には、日本司法書士連合会に入会するために、登録手数料のほか月会費の1万5000円から2万5000円程度を支払わなければなりません。
会費は地域によって異なるので、自分が開業する地域の費用をチェックしてみましょう。
ただし、司法書士試験の合格者は全て司法書士会に登録しなければならないという訳ではありません。
自分の希望する働き方に合わせて、司法書士会の登録をするかどうか検討すると良いでしょう。司法書士会に登録しなくても、企業法務として活躍することは可能なのです。
スケジュールや注意点をチェックして司法書士試験合格を目指そう
司法書士の仕事を始めるまでまとめ
- 司法書士試験は一次試験と二次試験がある
- 試験当日の注意事項はよく把握しておく
- 試験会場は減るので注意
法務省が認定する国家資格の司法書士は、私有財産の帰属先を明確にする登記や民事上の権利関係を左右する裁判に必要な書類の作成など、重要な手続きの代行が主要な業務となります。
こうした手続きには、高度の専門知識が不可欠で試験の難易度が高くなるのも必然的と言えるでしょう。
そこで、司法書士の試験に合格するためには、試験に至るまでのスケジュールや受験申請書提出時と試験当日の注意点をしっかり押さえておきましょう。