弁理士の試験科目は?試験別の科目の特徴や免除制度・試験対策方法まで解説!

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「弁理士試験ではどんなことが出題されるの?」

「弁理士試験の試験科目を教えてほしい!」

弁理士に興味があるけれど、どんな内容が出題されるのか知りたい人はいませんか?この記事では弁理士試験の出題科目や特徴・対策などを紹介しています。

最後まで読み終えれば各試験で出題される科目の内容やどう勉強すれば良いのかがわかるでしょう。しっかりと対策して、合格を勝ち取りましょう!

弁理士の試験科目についてざっくり説明すると

  • 試験は短答式、論文式、口述式の三段階に分かれている。
  • 著作権法、実用新案権法、意匠法、商標法の四法がメイン。
  • 科目免除制度もあるので翌年の再チャレンジは楽になる。

弁理士試験の試験科目と試験制度

クエスチョンマーク

弁理士試験は弁理士の資格を取得するための国家試験です。試験は大きく短答式試験と論文式試験、口述試験の三段階に分かれています。短答式試験はマークシート式で七科目、論文試験と口述試験はどちらも四科目あります。

そもそも弁理士とは?

弁理士は知的財産権の専門家です。特許権や商標権などの申請や登録の手続きを代行したり戦略に関するコンサルティングを行ったりする職業になります。

特許権や商標権は管轄している特許庁に申請して登録しなければ認められません。

しかし、専門知識などが必要なため一般人が自分で申請するのは大変です。不備があれば受理されず、時間がかかれば他者による侵害も起きやすくなるでしょう。

そのため、知的財産権の専門家として弁理士が求められます。弁理士は申請から登録、侵害への対応などをサポートする法律家です。最新技術に関わるため、他の法律職よりも理系の知識が必要です。

弁理士試験の概要は?

弁理士試験は弁理士になるための試験です。国内でもトップクラスに難易度が高い試験であり、合格までに十年近くかかる人もいます。弁護士や税理士のような受験資格の制限がないため、誰でも受験できます。

弁理士試験の合格率は非常に低く、試験公式HP によると令和4年度の合格率は6.1%でした。合格までの受験回数は平均4回です。

試験日程及び試験開催都市は次のようになっています。

試験の種類 受験日 試験会場
短答式試験 5月中旬 東京、大阪、仙台、名古屋、福岡
論文式試験(必須) 7月初旬 東京、大阪
論文式試験(選択) 7月中旬 東京、大阪
口述試験 10月中旬 東京

論文式試験には科目合格制度が存在する

弁理士試験では短答試験と論文試験に科目合格制度が設けられています。論文試験の免除期間は必修科目と選択科目で異なります。必修科目は二年間だけ有効で、選択科目は永続的に有効です。

つまり、必修科目は合格から二年経つともう一度論文試験に合格しなければいけないということです。短答試験の有効期間も同じく二年間です。

一方、選択科目は一度合格すれば再度受験する必要はありません。また、選択科目には各種資格による免除制度もあります。利用する場合には行政書士や応用情報技術者などが取得しやすいのでおすすめです。

このような事情から、税理士試験のように一科目ごとに時期をずらして合格を狙う必要はありません。

短答式試験では一度に全科目分の対策をする必要があるため、短答式試験と論文試験の両方に合格できるくらいの実力を身につけることが望ましいでしょう。

各試験での試験科目・配点

短答式試験

短答式試験は五肢択一式のマークシート式試験で実施されます。マークシート式といっても、「正しい文はいくつあるか」のような形で出題されるため正確な知識が求められます。そのため、勉強時間もかなり必要です。

試験時間は3時間30分です。合格基準は満点の65%の得点とされていますが、試験を行っている工業所有審議会の判断で前後する可能性があります。なお、40%を下回る科目があると不合格です。

試験は全部で60問あります。試験科目とそれぞれの出題数の内訳は次の表の通りです。

試験科目 問題数
特許法 17問
実用新案法 3問
意匠法 10問
商標法 10問
条約 10問
著作権法 5問
不正競争防止法 5問

論文式試験

論文式試験は必修科目が三問と選択科目が一問の合計四問が出題されます。論文を作成するための法文は貸し与えられます。

必修科目の合格基準点は54点です。ただし、47点以下の科目が一つでもあると不合格です。

ここから、口述試験の適切な実施が可能な人数になるように調整されることもあります。選択科目は60%が合格ラインとされています。

論文試験の試験時間は以下の表の通りです。

試験科目 試験時間
特許・実用新案 2時間
商標 1時間30分
意匠 1時間30分
選択科目 1時間30分

口述式試験

口述式試験は面接方式で行われます。受験者は複数の部屋を移動していき、各部屋で一科目ずつ試験を受ける方法で実施されています。

試験時間はどの科目も10分程度です。許可を受ければ法文を借りることができます。

試験科目は以下の三つです。

  • 特許・実用新案に関する法令
  • 意匠に関する法令
  • 商標に関する法令

解答は最高のAから最低のCの三段階で採点されます。合格基準は三科目のうち二科目以上でC評価がないことです。一つだけなら大丈夫です。

科目ごとの合格基準は?

上述のように、弁理士試験では各試験に合格基準点が設定されています。この基準点を超える得点でなければ合格できません。

短答式試験では総合点が満点の65%以上かつすべての科目で40%以上の得点です。論文式では必須科目の平均点が54点を超えることと47点以下の科目がないことです。

このように、苦手科目があると足切りに引っかかってしまう制度になっています。

そのため、単純に得意科目を伸ばして総合的な点数を伸ばすだけでは不十分です。苦手科目の対策が重要であると覚えておきましょう。苦手科目をつぶすことさえできていれば、頻出範囲中心の対策でも合格は十分狙えます。

なお、短答式試験も論文式試験も主催者側の判断で合格基準が変動する可能性があります。試験が簡単すぎて多数の合格者が出そうな時などは覚悟しておきましょう。

科目免除制度の利用者も多い

弁理士試験には科目免除制度があります。特に論文式試験(選択科目)では免除制度の利用者も多いので、狙えるなら積極的に狙っていきましょう。短答式試験・論文式試験それぞれで内容が異なるので、一つ一つ確認していきましょう。

まずは短答式試験と論文式試験(必須科目)です。免除対象者は大きく二つのグループに分かれます。

  • 短答式試験合格から二年以内の人
  • 特許庁で五年以上事務に従事した人

短答式試験に合格した人は二年間だけ受験が免除されます。二年以内に合格できなかった場合には再度合格しなければいけないので頑張りましょう。特許庁で仕事をしていた人は書類を用意しましょう。

次に論文式試験(選択科目)です。こちらは大きく三つのグループがあります。

  • 論文式試験合格者
  • 学位による認定を受けた人
  • 一部の公的資格の保有者

選択科目では一度論文式試験に合格すると永久に試験が免除されます必須科目とは異なり再度の受験は不要です。

修士・博士・専門職などの学位を大学院で受けた人も永久免除の対象になれます。ただし、単に学位を得るだけでは駄目で、あらかじめ免除科目の認定を受ける必要があります。この際に研究内容や学位論文などが吟味されます。

最後は一部の科目合格者です。対象となるのは以下のような資格です。

  • 技術士
  • 一級建築士(一部資格を除く)
  • 電気主任技術者(第一種・第二種)
  • 薬剤師
  • 電気通信主任技術者
  • 情報処理安全確保支援士
  • 情報処理技術者(一部資格を除く)
  • 司法試験合格者
  • 司法書士
  • 行政書士

資格によっては条件があったり対象外であったりします。例えば、情報処理技術者で言えばITパスポートや基本情報処理技術者などの基礎的な資格は免除対象になりません。免除対象になるかどうかはあらかじめ確認しておきましょう。

弁理士の免除制度については、以下の記事でより詳しく紹介しています。

科目別の難易度・合格率を目安の勉強時間

時計

弁理士は難易度が高い試験です。必要な勉強時間は3000時間にもなると言われています。何年もかけて勉強する人も多く、計画的な勉強がなによりも重要です。

短答式試験の試験科目は7科目です。

  • 特許法
  • 実用新案法
  • 意匠法
  • 商標法
  • 条約
  • 著作権法
  • 不正競争防止法

論文式試験では必須科目として次の3科目(工業所有権)に関する法令が出題されます。なお、口述試験でも論文式試験(必須科目)の同じ科目が出題されます。

  • 特許・実用新案
  • 意匠
  • 商標

さらに選択科目としてこれらの中から申し込み時に選んだ一つが出題されます。申し込み後の変更はできません。

  • 理工Ⅰ
  • 理工Ⅱ
  • 理工Ⅲ
  • 理工Ⅳ
  • 理工Ⅴ
  • 法律

特許・実用新案に関する法令

特許法と実用新案法は発明者の利益保護と技術の進歩という一見矛盾する二つの目的をもった法律です。

新たな知識や技術というのは広く公開することで社会の役に立ちます。しかし、ただ模倣・公開するだけでは発明者の利益になりません。そこで、発明者に一定期間特別な権利を与えるというのがこの二つの法律です。

特許法・実用新案法の勉強を進める際には、全体像や法律の目的を把握することから始めると良いでしょう。最初からすべての内容を理解する必要はありません。地図や見取り図のような感覚で概要や枠組みを把握することが優先です。この段階では法文を読むよりもわかりやすいテキストや参考書を利用することを勧めます。

その後、覚えなければならない内容に入っていきましょう。要件や効果、主旨・凡例とどんどん詳しく掘り下げていきましょう。弁理士試験では補正、優先権、審判、権利行使、実施権、国際出願、最高裁判所判例などが頻出分野です。

意匠に関する法令

意匠とは人に美観を起こさせるものです。ただし、弁理士試験では工業上利用できる、物体の形や色の組み合わせであるなど細かな定義が決まっています。このような定義を決めている法律が意匠法です。特許法などと同じく、意匠を保護することで産業の発達に寄与することが目的です。

基本的な勉強法は特許法と同じです。概要から理解を広げましょう。弁理士試験では部分意匠、組物の意匠、関連意匠、秘密意匠等、特殊な衣装に関する問題の出題頻度が高い傾向にあります。

商標に関する法令

商標とは商品やサービスを区別するための標識です。ロゴやブランドのようなものですね。商標法はこの商標について定めている法律です。誰が提供しているのか示すことで、信用や信頼を保護したり産業の発展に寄与したりすることを目的としています。

商標法の出題傾向を見てみましょう。地球団体商標及び防護商標等特殊な商標制度、不正使用取消審判や不正使用取消審判等商標法特有の審判制度などからの出題が多く見受けられます。このあたりを中心に学習すると良いでしょう。

工業所有権に関する法令

工業所有権に関する法令では条約や協定などの国際的な取り決めが出題されます。具体的には、パリ条約、特許協力条約(PCT)、TRIPs協定、マドリッド協定の議定書、ハーグ協定のジュネーブ改正協定等、産業財産権に関連する国際条約です。

出題の中心はパリ条約と特許協力条約です。最近は特許協力条約の細かい規則について多く出題さているため、やや軟化傾向にあると言えます。細かい部分まで読み込むなど重点的に対策しておきましょう。

著作権法および不正競争防止法

弁理士試験では著作権や不正競争防止法についても出題されます。著作権は文化庁の、不正競争防止法は経済産業省の取り扱いなので短答式試験でしか出題されません。短答式試験が解答できる程度の対策で十分です。

著作権法は学術や芸術に関する精神的表現を保護する法律です。そして不正競争防止法は産業スパイなど悪質な企業競争を防ぐための法律です。

弁理士試験で出題されるポイントは、著作権法では著作権等に含まれる権利の種類や著作権の制限などです。不正競争防止法では営業秘密にかかる不正行為などの問題が中心です。

理工Ⅰ(機械・応用力学)

理系科目は選択科目なので自分の専門領域を選んでOKです。それぞれ内容が異なり、理系Ⅰは機械や応用力学の科目です。出題範囲は次の4分野です。

  • 材料力学
  • 流体力学
  • 熱力学
  • 土質工学

この中で出題頻度が高いのは流体力学や熱力学です。流体力学では粘性流体の層流、流体の無次元数に関する基礎知識が頻出です。熱力学ではエントロピーやガスサイクル、湿り空気に関する問題が多く見られます。論文が書けるようにしっかり対策しておきましょう。

理工Ⅱ(数学・物理)

理系Ⅱは数学や物理から出題される科目です。半導体業界出身の方や関連業界の方にはお勧めの試験科目です。この科目での試験範囲は主に以下の内容です。

  • 基礎物理学
  • 電磁気学
  • 回路理論

電磁気学では静電場や定常電流が作る磁場や荷電粒子の磁場中での運動についての出題が多い傾向にあります。回路理論では抵抗回路網やオペアンプを用いた電子回路、論理回路の出題が中心です。

基礎物理学や回路理論などは得点を稼ぎやすい方と言われています。とはいえ、文系の初学者が受験するのはあまりお勧めできません。

理工Ⅲ(化学)

理系Ⅲでは化学分野が出題されます。化学は以下のような一般的な分類で出題されます。難易度に差が大きく、大学教養程度の問題が多い一方で高校程度の問題も見られます。どちらかといえば勉強しやすい科目です。

  • 物理化学
  • 有機化学
  • 無機化学

物理化学では熱化学、化学反応速度論、金属錯体、物質の光吸収、発光などの分野からよく出題されます。作図問題も出題実績があります。

有機化学では各種有機反応、π電子を持つ化合物、有機反応機構、有機反応中間体、アルドール反応、分子構造解析、環状分子の立体配座など幅広い内容が問われます。

無機化学では分子の構造、酸・塩基、水溶液中の電気化学反応などが出題されています。

理工Ⅳ(生物)

理系Ⅳでは生物系科目が出題されます。出題されるのは以下の二分野です。遺伝学や生理学などはメインの出題範囲にはなりにくいと言えます。

  • 生物学一般
  • 生物化学

生物学では一般的知識や生物学の概論が出題されます。やや情報伝達系からの出題が多く見られます。

生物化学では生物化学に関する基本的な知識はもちろん、タンパク質と脂質等の知識や理解、生物化学の実験技術などが問われます。

理系Ⅳは論述問題が多いため計算より論述が得意な人にはおすすめです。当然、考察が重要なので暗記だけでは乗り切れません。

理工Ⅴ(情報)

理系Ⅴは情報についての問題が出題される科目です。どちらの分野でも理論や考察系の問題よりも知識の有無を問う形式の問題がメインです。普段から実務に携わっているような人でも勉強し直すことをお勧めします。 頻出科目は次の二つです。

  • 情報理論
  • 計算機工学

情報理論のポイントはマルコフ過程、ハフマン符号、情報理論です。これらの知識問題くらいは解答できるようにしておきましょう。計算機工学では、論理回路、プログラムの変換と実行、計算機工学についてよく問われます。

法律(選択科目)

選択科目では理系科目以外にも法律科目も選択できます。ここでの法律とは特許法や著作権法ではなく民法を指します。頻出分野は総則、物権、債権です。

論文式試験(必須科目)と同様の形式で出題されますが、1000条以上ある膨大な民法の知識が必要になるため楽な科目ではありません。あくまでも理系科目が得意ではない文系出身者の救済科目であると考えておきましょう。

なお、受験科目は学歴に左右されないため理系出身者がこの法律科目を選ぶこともできます。文系の人が理系科目を選択できるのと同じ理屈ですね。

それぞれの対策は?

ノート

始めはインプットが重要

弁理士試験の対策はまず基礎的な内容や概要の理解から始まります。初歩的な論点や判例などのインプット学習から手を付けましょう。基本書を読んだり予備校の講義を聞いたりするのがおすすめです。

弁理士試験では理解したり覚えたりする量が多く、一度に習得するのは困難です。同じ内容を二回三回と繰り返して理解しましょう。

ある程度インプット学習が進んだら{primary(問題集や過去問を利用したアウトプット学習)も始めましょう。手を動かすことでも知識は定着していきます。このようなサイクルの繰り返しは論文試験対策にもつながるのです。

過去問の活用

短答式試験の過去問はLEC東京リーガルマインド、TACなど予備校各社から丁寧な解説付きで市販されています。解説には各社の特徴があるので好みのものを選ぶと良いでしょう。

短答式試験では過去に出題された問題が繰り返し出題されることが多く、過去問を利用した対策は非常に有効でしょう。

過去問の利用法はいろいろありますが、不安な問題や間違えた問題を繰り返し解くというスタイルがおすすめです。

不安な問題には△、間違えた問題には×などのしるしをつけておき、二週目以降はしるしの付いた問題をなくしていく方法です。周回するごとにペースと正答率が上がるため実力がついていると実感することができます。

論文試験のポイントは?

弁理士試験の論文試験にはいくつか注意点があります。特に陥りやすい誤解として「論文の試験だからその場で自分の考えを書けばよい。」という考えがあります。

論文試験という名称が紛らわしいのですがあくまでも記述・論述形式の試験と考えてください。

弁理士試験では複数の採点者が採点を行います。この際、採点者による格差が生じないように共通の採点基準が設定されています。

そのため、基本的にはこの採点基準に従った答案を作成することになります。模範解答を確認して、どのような内容が求められているかを意識して作成しましょう。

口述では模擬試験を利用する

口述試験は独学では対策がやや難しい試験です。そこで、予備校などが実施している口述試験の模擬試験を利用することを勧めます。

実際に予備校に入学しなくても、体験講座を開催していることも多く、無料や低価格で利用できます。知識の最終確認や試験の流れを理解するのに役立ちます。

口述試験では特に次のような内容を覚えておきましょう。

  • 条文を参照したい際に聞いてから開く
  • 参照してわかったことでも条文を閉じてから回答する
  • 試験官の誘導には基本的に乗る
  • 問題文が長いときに聞き直すこと

弁理士試験の試験科目についてのまとめ

弁理士試験の試験科目についてのまとめ

  • 著作権法などはかなり細かい知識が必要になる。
  • 理系科目は選択科目なので、得意分野を選べばよい。
  • 選択科目は免除制度を利用するのも一つの手。

この記事では弁理士試験の試験科目について紹介しました。弁理士試験は合格率が低い難関試験です。

試験範囲そのものは極端に広いというわけではなく、むしろ狭い範囲で深く出題されると思って良いでしょう。マークシート、論述、口述と同じ範囲で何度も答えることになります。

弁理士試験な難関試験ですが、合格できない試験ではありません。受験資格の制限などもないため、諦めなければきっと合格できるでしょう!

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