弁理士試験の免除制度ってどんなもの?免除条件や免除指定講習についても解説!
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「弁理士試験の免除制度とは?」「免除制度を利用するためにはどうすればいいの?」
といった疑問を持っている方もいいでしょう。
弁理士試験は合格率は一桁代という難関試験です。少しでも試験対策をラクにしたいというのが本音ではないでしょうか。
そこでおすすめしたいのが、「免除制度」です。免除制度に該当する方であれば、短答式筆記試験そのものが免除されるなど、試験としては有利にはたらきます。
今回は、弁理士試験の「免除制度」について内容や、免除を受けるための手続きなど詳しく解説していきます。これを読んでいただければ、免除制度を簡単に理解できるのでぜひ参考にしてください。
免除制度についてざっくり説明すると
- 上手に利用することで合格率を上げることができる
- 自分で免除制度の申請手続きが必要
- メリットとデメリットがある
弁理士試験とは
弁理士は、1899年から施行された国家資格で、特許に関した手続きは、弁理士にしかできません。弁理士になるための試験は年1回行われています。受かる方の出身大学の多くが東京大学や京都大学などといった日本1、2を争うほどの難関大学出身者です。
それだけでもいかに弁理士試験が難関であるかわかるのではないでしょうか。しかし、弁理士試験には「免除制度」といった試験への負担の軽減が期待できる制度があります。
免除制度を活用して弁理士資格を勝ち得る方も多いので、弁理士試験を受ける予定の方は得に注目してください。
弁理士試験の免除制度とは
弁理士は、国家資格である「弁理士試験」に合格したのち、「実務研修」を受けて弁理士登録をした方だけがなることができます。日本弁理士会によると、平成29年度の弁理士試験は受験者数3912名のうち、合格したのは255名と、合格率は約6.5%という狭き門です。
しかし、平成29年度のその合格率も近年では向上しています。その理由としては、ある条件を満たす方が手続きを取ることで、弁理士試験の一部が免除される制度を利用できるようになったためです。
免除される試験内容は、次の3種類があります。
- 短答式筆記試験
- 論文式筆記試験(必須科目・選択科目)
- 口述試験
それぞれ免除される条件や、免除される試験の内容について詳しく解説していきましょう。
短答式筆記試験の免除
短答式筆記試験とは、マークシート式の試験で弁理士が持つべき法律上の知識の試験になります。この短答式筆記試験の免除を受けるためには、3つの条件のうちいずれかに該当する必要があり、該当条件によって免除される内容が異なります。
免除条件 | 免除される内容 | 免除対象期間 |
---|---|---|
短答式筆記試験を合格 | 全ての短答式筆記試験科目 | 合格発表から2年間 |
工業所有権に関する項目の単位を修得し大学院を修了 | 工業所有権に関する法令・条約の試験科目 | 大学院過程の修了日から2年間 |
特許庁で、審判もしくは審判事務を5年以上従事 | 工業所有権に関する法令・条約の試験科目 | ー |
参考資料:工業所有権審議会
弁理士試験のなかでも短答式筆記試験は特に難しいので、免除もしくは一部免除されることで、気持ちのうえでもプレッシャーが軽くなるのではないでしょうか。
論文式筆記試験の科目免除
論文式筆記試験は、短答式試験を合格すると受けることができる試験です。論文式筆記試験には、必須科目・選択科目がありそれぞれの条件に満たすことで免除されます。
論文筆記試験(必須科目)
免除条件 | 免除内容 | 免除対象期間 |
---|---|---|
論文筆記試験(必須科目)合格者 | 必須科目 | 論文筆記試験(必須科目)の合格から2年間 |
特許庁で、審判もしくは審判事務を5年以上従事 | 必須科目 | ー |
論文筆記試験(選択科目)
免除条件 | 免除内容 | 免除対象期間 |
---|---|---|
論文筆記試験(選択科目)合格者 | 選択科目 | 論文筆記試験(選択科目)の合格から永続的 |
・学校教育法第104条に規定する修士もしくは博士の学位を取得・学位授与に係る論文の審査に合格 | その論文に関した選択科目のみ | ー |
・学校教育法第104条1項に規定する文部科学大臣が定める学位を取得・専門職大学院が終了要件として定める単位を取得し、論文の審査に合格 | その論文に関した選択科目のみ | ー |
司法試験合格者、行政書士、司法書士など公的資格を持っている | 各資格に関係する選択科目のみ | ー |
特許庁で、審判もしくは審判事務を5年以上従事 | 選択科目 | ー |
論文式筆記試験は、必須科目・選択科目ともに基本的な法条の判断力や理解力、そして理論的に発する力が試験の課題になります。
法条を正しく理解することはもちろん、自分の言葉で伝える技術も必要な試験なので、免除制度を利用できると試験への負担が減るでしょう。
詳しい免除科目と免除資格者については以下を参考にしてください。
参考資料:試験科目の一部免除資格者一覧
口述試験
口述試験はその名の通り、会話での回答になるため弁理士としての知識だけではなく、コミュニケーション能力やその人の人柄なども含めて判断されます。
口述試験の免除制度を受けるためには、特許庁で審判もしくは審判の事務に5年以上従事していることが条件になります。
一部の免除資格は事前確認も可能
これまで自分の培ってきたスキルであれば、弁理士試験の一部の免除資格を得ていることがあります。
一部でも試験が免除になれば、その分ほかの試験科目へ集中して取り組むことができるので、まずは免除資格を持っているかどうか確認をしましょう。
科目免除者の種類別合格率は?
免除制度は、試験への負担が軽減できるというメリットがありますが、その反面手続きが必要とデメリットもあります。そこで、科目免除を受けた場合、どれくらい効果があるのか、解説していきましょう。
短答式筆記試験の合格率
弁理士試験のなかで、最も重要ともいえる短答式筆記試験の合格率は以下のようになります。ただし、免除制度のなかでも全科目免除を受けている方の人数は含まれません。
年度 | 一般 | 一部免除 | 工業所有権法免除 |
---|---|---|---|
H21 | 19% | 83% | 100% |
H22 | 13% | 59% | 73% |
H23 | 30% | 38% | 53% |
H24 | 25% | 50% | 72% |
H25 | 8% | 39% | 50% |
H26 | 11% | 54% | 48% |
H27 | 14% | 53% | 57% |
H28 | 15% | 37% | 19% |
H29 | 9% | 28% | 38% |
H30 | 19% | 73% | 100% |
R元年 | 17% | 57% | 100% |
※特許庁「弁理士試験統計」を元に試算
※「工業所有権法免除」は、特許庁で審判もしくは審査の事務に5年以上従事した方が得られる免除が大半。免除項目として「工業所有権法」が対象となるため記載
多少波はあるものの、免除制度を利用しない方の合格率は安定しているのに対し、平成29年までは、免除制度を利用した方の合格率が低くなっています。
とはいえ、免除制度を利用していない方との合格率を比較すると、免除制度を利用しているケースの方が、合格率が高いという結果なので、免除制度の利用はおすすめです。
得に平成30年以降は、免除制度を利用した方の合格率が回復傾向にあるので、免除制度を利用することは有利に働く可能性が高いといえるでしょう。
論文式筆記試験の合格率
次に論文式筆記試験の合格率を比べていきましょう。まずは以下の表を確認してください。
年度 | 一般 | 一部免除 | 工業所有権法免除 |
---|---|---|---|
H21 | 28% | 33% | 100% |
H22 | 27% | 29% | 0% |
H23 | 24% | 27% | 55 |
H24 | 29% | 35% | 35% |
H25 | 24% | 27% | 47% |
H26 | 28% | 29% | 20% |
H27 | 26% | 28% | 14% |
H28 | 26% | 29% | 0% |
H29 | 25% | 26% | 0% |
H30 | 24% | 25% | 50% |
R元年 | 25% | 29% | 100% |
※特許庁「弁理士試験統計」を元に試算
論文式筆記試験の免除制度は、「必須科目の免除」「選択科目の免除」「一部選択科目の免除」の3種類に分かれます。
論文式筆記試験を受けている方は、一般・一部選択科目が免除・工業所有権法免除のいずれかに該当する方のみになります。
表を見てもわかるように、論文式筆記試験の場合は免除制度を利用した方としない方では、合格率にはあまり差がないのがわかりますね。
そのため、論文式筆記試験においては一部選択科目の免除を利用した方が合格率が上がるとはいえないということです。
つまり、論文式筆記試験の合格を左右するのは必須科目であるということになります。
最終合格者の割合は?
免除制度を利用した方の弁理士試験合格率はどうなのか、確認しましょう。
年度 | 一般 | 短答式筆記試験免除 | 論文式筆記試験免除 | 工業所有権法免除 |
---|---|---|---|---|
H21 | 18% | 72% | 9% | 1% |
H22 | 13% | 60% | 24% | 3% |
H23 | 40% | 38% | 16% | 6% |
H24 | 28% | 47% | 18% | 7% |
H25 | 14% | 45% | 36% | 6% |
H26 | 35% | 43% | 16% | 6% |
H27 | 42% | 39% | 16% | 3% |
H28 | 34% | 60% | 5% | 1% |
H29 | 26% | 64% | 8% | 2% |
H30 | 40% | 56% | 2% | 3% |
R元年 | 40% | 61% | 5% | 1% |
※特許庁「弁理士試験統計」を元に試算
特許庁の弁理士試験の統計によれば、「短答式試験免除制度」を受けた方の合格者数が圧倒的に多いのがわかりますね。そのため、免除制度を利用するのであれば、「短答式筆記試験」の免除を受けるのが得策といえます。
科目免除利用時の点数の算出方法
免除制度を利用した場合、どう算出されるのか解説します。
それぞれの試験の免除制度を利用するのであれば、「免除」なので試験に対し点数はつけられません。しかし一部科目の免除の場合、受けた科目と免除されている科目との兼ね合いで合否の判定をするため、点数として算出しなくてはいけないことになります。
一部科目が免除されたからといって、その科目が「満点」として算出されるわけではないので注意が必要です。免除された科目の算出方法としては「各科目の合格基準の点数」が算出されることになります。
たとえば、50点が合格基準であれば、50点として算出されます。そのため、総合点数で見ると、通常通り試験を受けていた方が高い点数であることもあるので覚えておいてください。
免除外の科目に自信がない場合は、一部科目の免除制度を利用せずに受験をした方が、高い点数を取る可能性もあるため、試験対策の戦略としてよく考慮しましょう。
免除申請の方法
弁理士試験の免除制度を利用するためには、自分で申請をする必要があります。各免除制度の申請方法について解説します。
(1)短答式筆記試験合格者
短答式筆記試験合格した方は、合格した年から2年間免除を受けることができます。願書とともに、短答式筆記試験合通知書のコピーを提出しましょう。
(2)短答式筆記試験(一部科目免除)
工業所有権審議会より届いた免除資格認定通知書と願書を提出します。工業所有権審議会へは、以下の書類の提出し認定してもらう必要があるので確認してください。
- 弁理士試験短答式筆記試験一部科目免除資格認定申請書
- 大学院修了証明書もしくは大学院修了見込み証明書
- 大学院成績証明書
- 授業概要証明証
特に、大学院修了証明書・授業概要証明書類は大学側に記載してもらうものなので早めの行動が大切です。詳しくは、特許庁の「弁理士試験短答式筆記試験一部科目免除について」を参考にしてください。
(3)論文式筆記試験(必須科目)合格者
論文式筆記試験(必須科目)の合格者は、合格した年から2年間免除を受けることができます。「論文式筆記試験科目免除資格通知書」のコピーを願書と一緒に提出しましょう。
(4)論文式筆記試験(選択科目)合格者
論文式筆記試験(選択科目)の合格者は、合格した年から期限なく免除制度を利用することが可能です。
願書とともに「弁理士試験論文式筆記試験科目免除資格通知書」のコピーを提出します。
(5)選択科目の研究によって修士・博士・専門職の学位がある者
論文式筆記試験(選択科目)のうち、研究対象となる科目の免除を受けることが可能です。そのためには、次の表を元に必要書類を工業所有権審議会へ提出し、免除認定を受ける必要があります。
対象者 | 必要書類 |
---|---|
修士 | ・選択科目免除資格認定申請書・学位取得証明書もしくは大学院修了(見込)証明書・指導教授の証明のある学位論文概要証明書 |
博士 | ・選択科目免除資格認定申請書・学位取得証明書もしくは大学院修了(見込)証明書・大学院成績証明書・指導教授の証明のある学位論文概要証明書 |
専門職 | ・選択科目免除資格認定申請書・学位取得証明書もしくは大学院修了(見込)証明書・大学院成績証明書・指導教授の証明のある学位論文概要証明書・修了要件証明書 |
工業所有権審議会より送付される認定書類とともに、願書を提出してください。
(6)行政書士など免除対象の資格を有する者
免除対象となる資格を持っている方は、その資格に関係した科目の免除を受けることが可能です。たとえば、行政書士であれば弁理士業務に関する法律の科目が、免除対象となります。
願書とともに提出する書類は、その資格を有するという証明書になります。登録事項証明書(原本)や資格免許証のコピーなどが証明書類になりますが、なかには取得に時間がかかるものもあるので、早めに用意しておきましょう。
(7)特許庁で審判もしくは審査の事務に5年以上従事
特許庁で審判もしくは審判の事務に5年以上従事したという方は、論文式筆記試験(必須科目・選択科目)と短答式筆記試験の工業所有権に関する法令や条約の試験科目が免除されます。
つまり、短答式筆記試験の、特許法や商標法などといった主要の四法、そして著作権法や不正競争防止法などで合格点を得れば試験を受かることができます。
そのためには、特許庁長官より「審判もしくは審査の事務に従事した期間が5年以上ある」という証明する書面を発行してもらい、願書と一緒に提出しましょう。
免除制度はいいことばかり?
ここまでの解説から、免除制度はメリットが大きいと判断している方も多いでしょう。しかし、本当にメリットだけなのでしょうか。
総合的に合格という観点から見ると、免除制度を利用した方が合格率が高いという結果は出ています。しかし、免除制度を利用する場合は次のデメリットも合わせて検討する必要があります。
- 免除された科目も熟知している必要がある
- 精神的にスキができる
弁理士試験の特徴として、短答式筆記試験では細かい法令など、論文式筆記試験では基本的なものを試験されます。つまり、短答式筆記試験に出るような内容と、論文式筆記試験に出るような内容のどちらも把握していなければ受かることができないのです。
また、科目や試験が免除されることによって、どうしても心に緩みが生まれてしまうことがあります。すでに知識とスキルを持っているため、免除されるという方も同様です。
普段であれば問題ないのに、その油断があるために試験に受からないというケースも少なくありません。
免除制度はメリットも大きいですが、同時にデメリットもあると認識しておきましょう。
免除制度は使っておくべき
免除制度は利用しない方がいいのかといえばそうとは言い切れません。
確かにデメリットは十分に考慮する必要があります。また、論文式筆記試験の一部科目免除に関しては、一般に受けた方と合格率がそう変わらないという結果もあります。
しかし、免除制度は利用した方がいいでしょう。ここまで解説した、免除制度を利用した方が合格率が高いという理由の他に、
- 精神的負担が減る
- 学ぶ範囲のマトを絞りやすい
といった2つのポイントもあります。
短答式筆記試験と論文式筆記試験のどちらか一方でも免除されることで、精神的な負担や勉強の仕方を変えることができます。気を抜かず試験勉強に取り組むことができるのであれば、免除制度の利用はリットの方が大きいといえるのではないでしょうか。
理系の大学出身者や、資格所有者であれば免除を受けることができる科目もあるので、でデメリットと比較したうえで利用しない手はないでしょう。
短答式試験免除制度導入後の変化
短答式試験免除制度を導入後、弁理士の資格試験の傾向が変わりました。出題傾向としては、短答式筆記試験と論文式筆記試験との内容が重なるようになったのです。
つまり、初めて試験をする方にとって、条例や法律の部分での理解や解釈、そして応用などを網羅しておかなくては、試験に受かることが難しくなりました。
すでに免除対象となる方にとっては、より深く理解るために油断せず対策を取ることが大切になるのでです。
弁理士試験の免除制度についてまとめ
免除制度の利用についてまとめ
- 願書とともに各免除制度を受けるための書類提出が必要
- 免除制度を利用した方が弁理士試験の合格率が高い
- 免除制度のメリット・デメリットをふまえて受験の対策が必要
弁理士試験の免除制度について解説しました。少々複雑な免除制度ですが、試験勉強の負担を軽減することにつながります。
メリットばかりではありませんが、受験対策としても有効なので上手に活用して難関と言われる弁理士試験を突破しましょう。