弁護士が懲戒請求される場合は?戒告処分後は資格が剥奪されるのか等解説します!
「弁護士になっても懲戒処分を受けたら仕事が出来なくなるのでは?」
この様な疑問を抱いている方は多いのではないでしょうか。
弁護士は多くの人の人生に深く関わる仕事です。そのため、弁護士を目指している方の中には、一度処分を受けたら二度と仕事が出来なくなるのではないかと心配している方もいます。
この記事では、弁護士が受ける処分の基本的な知識やその流れ、実際に処分を受けた場合どうなるかという点を解説します。
記事を読み終われば、処分を避けるための心構えや知識が付き、安心して司法試験や業務に挑めるようになれますよ。
弁護士の懲戒処分制度についてざっくり説明すると
- 懲戒処分制度は弁護士会や日弁連が弁護士へ懲戒請求を行う形で受け付けられる
- 懲戒処分の重さによっては、弁護士資格を剥奪される可能性もある
- 処分は弁護士の品位を守る為にあり、処分の重さによっては再スタートの可能性も残っている
弁護士の懲戒処分制度とは
弁護士の懲戒は、弁護士への懲戒請求から発生します。
一般の方を含めたあらゆる方から寄せられた懲戒請求を、弁護士の所属する弁護士会や、弁護士全員が所属する団体である日本弁護士連合会(以下日弁連)が受け止める形で懲戒処分が行われるのです。
これは弁護士制度と弁護士の仕事を取り決めた法律である弁護士法にも記載されています。
弁護士法第五十七条では、弁護士が懲戒を受ける場合の条件と懲戒の内容が定められており、実際に懲戒を受ける際はこの通りに処分をされる形になります。
では実際に受ける処分について確認していきましょう。
懲戒委員会による懲戒
弁護士の懲戒処分は、弁護士が所属する弁護団と日弁連が持つ以下の委員会によって判断されます。
- 懲戒委員会
- 綱紀委員会
- 綱紀審査会
この内、懲戒委員会は以弁護士、裁判官、検察官、学識経験者、学識経験者で構成されています。綱紀委員会、綱紀審査会は弁護士や裁判官、検察官を除いた学識経験者で構成されます。
弁護士への懲戒請求は、この2つの委員会と1つの審査会によって調査・判断され、処分の有無やその内容を取り決めるのです。
実際にクレームを受けた場合の流れ
クレーム、つまり懲戒請求を受けても、その内容が明らかに不当である場合や、弁護士がきちんと仕事をしていた場合であれば、懲戒処分を受けることはありません。
実際、日本弁護士連合会が開示しているデータによると、市民から懲戒請求を受けて実際に懲戒処分まで至ったケースは 全体の2~4%となっています。
近年の懲戒処分の状況に関しては以下のようになっています。
当該年 | 懲戒請求総数 | 除名 | 退会命令 | 業務停止 | 戒告 |
---|---|---|---|---|---|
2018 | 12684 | 3 | 1 | 39 | 45 |
2019 | 4299 | 1 | 7 | 25 | 62 |
2020 | 2254 | 3 | 8 | 35 | 61 |
2021 | 2554 | 2 | 6 | 33 | 63 |
2022 | 3076 | 2 | 6 | 32 | 62 |
普通に仕事をしていれば問題ない
弁護士の懲戒処分は、弁護士がその立場を理解し、品行方正に仕事を進めるためにあるものです。
弁護士の仕事を正しく理解し、それにふさわしい行動をしていれば、懲戒処分を受ける可能性はありません。
弁護士には懲戒処分される可能性がある、と聞くと心配になる方もいますが、弁護士として普通に仕事をしていれば、心配する必要は全く無いのです。
弁護士が懲戒処分される場合は?
弁護士が懲戒処分される場合、処分に当たると判断できる証拠や事実関係を証明するものが必要になります。
懲戒処分につながる内容をまとめた表がこちらです。
職業上の不備 | 弁護士会への背信行為 | 依頼者に対する背信行為 | 犯罪行為 |
---|---|---|---|
依頼者との契約書を作成せず、トラブルにつながった | 弁護士会費の長期滞納 | 依頼業務の放置 | 預り金や管理している金銭の着服 |
事務員に非弁活動をさせた | 過大な報酬請求 | 性犯罪(ストーカーや公然わいせつ、痴漢等) | |
事務員の不正を見過ごした、監督が不届きだった | 無断提訴 | ||
預り金を弁護士自身の私有財産と混在させた | 虚偽の報告 | ||
金銭の出し入れ目的や日付などを記載していない | 依頼人と金銭を貸し借りした | ||
業務ミスで依頼者に損害を与えた |
この表に該当する行為は、全て懲戒処分を受ける行為です。表の右に行けば行くほど、重い懲戒処分を受ける可能性が高くなります。
なぜ懲戒処分制度があるのか
弁護士会は所属している弁護士からお金を集め、そのお金で懲戒処分を判断・実行する委員会や審査会を運営しています。
先程紹介した懲戒処分を受ける行為の中に、弁護士会費の滞納があるのはこのためです。
弁護士懲戒処分検索センターでは、いつでも懲戒処分を受けた弁護士を検索できるシステムを公開しています。
処分を受ければこのシステムに登録されますから、一番軽い処分でも、弁護士としての実力や信頼を落とす要因になります。
この様に、弁護士の懲戒処分制度は他の機関の制度に比べ、独特です。
制度の仕組みに疑問を持っている方も多いでしょう。
この他とは変わった懲戒処分制度が生まれたのは、弁護士の持つ権限の強さが関係しています。
弁護士の権限の強さの裏返し
弁護士は法に基づいて相談を受け、法的な手続きを行う仕事です。業務の範囲が広く、その権限も大きくなります。
弁護士がその権限を悪用すれば、一般の方は太刀打ちできません。弁護士の権限はそれほどに大きいのです。
日本の弁護士は権限を正しく行使できるように、 弁護士による自治を掲げ、あらゆる権力から独立した体制を取っています。
懲戒処分は弁護士を守る為でもある
そのため、弁護士の権限悪用や信頼の失墜を防ぐための制度も、弁護士の手によって運営されます。
懲戒処分は弁護士の権限の悪用を防ぎ、弁護士に対する信頼を守るために設けられているのです。
とても残念なことですが、依頼者の利益や社会的な秩序を守れない弁護士や、自分の利益しか考えられない弁護士が出る可能性はゼロではありません。
弁護士の懲戒処分はこの可能性を少しでも小さくするために設けられています。
懲戒処分は4段階ある
弁護士の品位と信頼を守る為にある懲戒処分には、4つの段階があります。
- 戒告
- 2年以内の業務停止
- 退会命令
- 除名
処分の内容はそれぞれ違いますが、下に行けば行くほどその内容は重くなっています。それぞれの内容について解説していきます。
戒告処分ならまだ反省するチャンスも
戒告処分は、弁護士に反省を求め、戒める処分です。
懲戒処分の中でも一番軽い処分で、弁護士会や日弁連から文書による注意を受けます。
よくあるケースでは、依頼人に対しきつい言葉や暴言を吐いてしまった、仕事でつい我を忘れてしまった場合等に下されます。若手弁護士に注意喚起として行われることが多い処分です。
戒告処分の事由となった出来事も、見解が分かれる内容が多いです。
弁護士とその内容によっては、不服を申し立てる場合もあります。
戒告処分を受けた場合
戒告処分の処分方法は、文書通知を受ければ処分自体は終了となります。戒告処分を受けても、弁護士としての活動に制限が入る訳では無いのです。
実際、一度だけの戒告処分なら、転職の際にどういう理由で処分を受けたのかを聞いてくれる弁護士事務所もたくさんあります。
内容を受け止めしっかり反省すれば、 戒告処分を受けても別の事務所への転職や独立開業できる可能性も残っているのです。
業務停止処分は重い処分
戒告処分に比べ、業務停止処分はかなり重い処分です。
業務停止処分は1カ月以上2年以内の範囲で期間が決められ、その期間内は弁護士業務が一切できません。
これは今まで受任していた案件全てが適応されます。途中の業務があればその業務は解約しなくてはなりません。
業務停止処分を受けた場合
業務に関すること全てを禁ずるため、事務所に入る、依頼者と連絡を取るといったことすらできなくなる場合もあります。
弁護士としての業務が出来ませんから、依頼人をはじめとした多くの方々の信用を失うのはもちろん、収入を立たれる可能性も大いにあります。
業務停止処分は戒告処分よりもはるかに重い処分なのです。
弁護士身分を失う退会命令
退会命令は問題のあった弁護士を弁護士会から退去させる処分です。
弁護士としての身分を失い、弁護士としての仕事が出来なくなります。
弁護士になる資格は失いませんが、新たに別の弁護士会が入会を認めないと、弁護士としての仕事は再開できません。
また、退会処分を受けた弁護士は弁護士会に入会する前に審査を受ける必要があります。
この診査を合格しても、退会処分を受けた記録は残ります。通常の場合に比べ、大幅に信頼を失った状態で仕事を再開する事になるのです。
除名処分はさらに重い
除名処分は懲戒処分の中でも一番重い処分です。
弁護士の身分を剥奪し、弁護士としての仕事が出来なくなる上に、3年間は弁護士になる資格を失います。
犯罪行為等、悪質な行為をした弁護士に下されることが多い処分です。
また、3年を過ぎてから弁護士の登録請求をした場合 「弁護士の職務を行わせることがその適性を欠くおそれがある者」に該当するとして、資格審査会の決議を受ける必要があります。
実際に重い懲戒処分を受けた場合どうなるか
退会命令と除名処分は懲戒処分の中でもかなり重たい処分です。ですが、法律上は弁護士会の入り直しや弁護士資格の再受験をすれば、弁護士としての仕事を再開できるようにはなっています。
では実際に働く場合、本当に弁護士として活動を再開できるのでしょうか。
退会命令と除名処分後の再開は難しい
まず、退会処分を受けた場合ですが、これは弁護士法12条1項柱書にある 「弁護士会の秩序若しくは信用を害するおそれがある者」に該当します。
これに該当する場合、弁護士会の資格審議会は議決で登録や登録替えの請求を拒絶できます。
つまり、弁護士会に登録しようとしても、出来ない可能性が高くなるのです。
また、懲戒処分の中でも重い処分ですから、再スタートの際は通常よりも大きく信頼を失った状態からスタートすることになります。
除名処分はより絶望的
弁護士資格を剥奪される除名処分はどうでしょうか。
弁護士として活動するには、弁護士資格の取得だけでなく、弁護士会に所属しなくてはなりません。
しかし、日本の弁護士会では、除名処分を受けた元弁護士を受け入れてくれるような所はほとんどありません。
法律上、時間を置き、審査会の決議を受ければ弁護士の仕事が出来るようにはなっています。
しかし、実際は重い懲戒処分を受けた時点で、弁護士としての活動は不可能になるのです。
過ちを許容する土壌も
最も重い除名処分以外の懲戒処分であれば、再起することも不可能ではありません。
確かに、過去に懲戒処分を受けたことは、転職活動において不利な要因となるでしょう。
しかし、弁護士の世界においては、過去の過ちを乗り越えてきた者を受け入れる文化が根付いています。刑事裁判のように、過去の犯罪歴が刑罰の基準となることはありません。
面接の際、懲戒処分の事実を隠すのではなく、正直にその経緯を説明することが重要です。もし、その処分に対して納得のいかない理由や背景があれば、それを強く主張すべきです。逆に、過去の事実を隠すような行為は、信頼を損なう原因となります。
あなたが過去の過ちから学び、真摯に反省し、新しい場所での業務にどのような価値をもたらすことができるのか、それが最も大切な点です。
もしあなたが何度も懲戒を受けた経歴を持つわけではなく、一度だけの過ちであれば、その経験を受け入れ、新たなチャンスを与えてくれる法律事務所は存在します。実際に問題となるのは、その失敗から得た教訓や、それを補う十分な能力を持っているかどうかという点です。
弁護士の懲戒処分まとめ
弁護士の懲戒処分まとめ
- 弁護士の懲戒免職制度は弁護士の権限を正しく使うためにある
- 戒告処分ならまだ復帰できる可能性がある
- 犯罪行為など悪質な行為は弁護士生命を絶たれる可能性も
懲戒処分を受けたとしても、軽い処分であれば転職や独立のチャンスもまだあります。
こうした処分が設けられているのも、弁護士がいかに強い権限を持っているかを裏付ける事実と言えるでしょう。
弁護士の仕事に興味を持たれた方は、ぜひ司法試験に挑戦してみてはいかがでしょうか。