弁理士と弁護士の関係は?年収や仕事・試験難易度・受験資格の違いまで徹底比較!
「弁理士と弁護士って名前が似てるけど、何か関連があるの?」
「仕事内容や収入の違いについて知りたい!」
このような疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
弁護士と弁理士は字面が似ているので、同じような職業だと勘違いしてしまいがちですが、その仕事内容や資格取得までの道のりは大きく異なります。
そこで資格Timesでは、弁理士と弁護士の関係についてを詳しくまとめていきます。それぞれの業務の違いや年収差など、基本的な違いがバッチリわかるはずです!
弁理士と弁護士の関係・違いについてざっくり説明すると
- 弁理士も弁護士も法律面の専門家という意味では非常に似ている
- 弁護士は弁理士の資格も取ることができる
- 両方の資格を持つことでダブルライセンサーとして活躍できる
弁理士と弁護士の関係とは
弁理士と弁護士はどちらも士業系の国家資格です。どちらも法律の専門家を象徴する資格であり、名前だけでなく内容も似ているとされています。
そのため仕事内容や資格試験においてもそれぞれ影響し合っているのですが、具体的に弁理士と弁護士にはどういった関係や類似点、また相違があるのでしょうか。
弁護士は無条件で弁理士資格を得る
実は弁理士の資格は、弁護士の資格を取った上で一定期間の実務修習を終了すれば取得することができます。
弁理士の資格を取っても実務修習は必要ですから、弁護士の資格を取った上で弁理士の実務修習をすることで二つの資格が同時に取れるというわけです。
これに対して弁理士は、弁理士資格を持っているからと言って弁護士になれるわけではありません。弁護士は修習のみで弁理士登録ができるわけですので、弁護士は弁理士の上位資格であると言えるでしょう。
ちなみに特許庁で審判官もしくは審査官として従事する方も、修習のみで弁理士の資格を取得することができます。こちらの内容は次の段落で詳しくご紹介いたします。
特許庁で審判官関連の業務経験者も試験免除?
弁護士だけでなく審判官もしくは審査官も、修習のみで弁理士登録ができる特権を持っています。審判官や審査官とは、特許庁で特許や商標登録などを審査する職業です。
審判官や審査官として通算7年以上従事いたしますと、弁護士と同じように実務修習のみで弁理士の資格を取ることができます。改めて弁理士試験を受けることなく弁理士登録ができますので、この点はメリットでしょう。
ただし特許庁で審判官や審査官として働くためにも、難しい採用試験を突破する必要があります。
勉強にはかなりの時間がかかりますので、この点も考慮する必要があります。弁理士になることは決して簡単ではないということですね。
なお弁護士はこうした特許庁の審判官や審査官と同等ということになりますので、いかに弁護士資格の格が高いかがうかがえます。
弁護士は文系で弁理士は理系?
多くのかたがご存知のように、あらゆる法律を扱う弁護士は法学部出身者、つまり文系大学の出身者がほとんどです。
これに対し、弁理士は理系の士業と呼ばれています。これは「特許」を扱うためには特定の技術を理解するために物理や化学といった分野の知識も必要となってくるからです。
ただし、これらはあくまで一般論であり、文系から弁理士資格を取る方も毎年一定数いらっしゃいます。
ダブルライセンスで飛躍
ここまでご紹介してきたように、弁理士と弁護士の資格は親和性が高いものです。ダブルライセンスとして持っておくと非常に相性が良いでしょう。
例えば、弁理士としての特許関係の高度な専門知識は、弁護士としての業務範囲を広げることに役立ちます。知的財産権の案件では特に弁理士としての知識が役立つことが考えられます。
また弁護士の資格を持ちながら弁理士として働く場合も、弁理士の業務を中心として活躍しながら顧客の要望に沿って色々な書類作成をすることができます。
特に知的財産権の訴訟で代理人になる場合、通常は弁護士と二人で担当しなくてはなりません。しかし両方の資格を持っていれば単独で依頼人の代理となることができるのです。
弁理士と弁護士の仕事の違い
弁理士と弁護士は、どちらも独占業務資格です。独占業務とは、その資格を持つ者だけができる仕事という意味です。
そういった意味では弁理士も弁護士も非常に有意義な資格と言えます。どちらも「先生」と呼ばれる仕事ですので、多くの人から尊敬され頼られる立場となります。
あえて比較をするならば仕事の内容は弁理士のほうが専門分野に特化していると言えるでしょう。特許関連の分野においては、弁護士よりも弁理士のほうが精通していると言えます。
弁護士は知的財産権の分野においては書類作成や申請手続きに限定されますが、その他の幅広い分野においても業務が可能です。
弁理士の仕事内容
弁理士は、知的財産に関しての専門家という立場となります。
知的財産とは著作物や何らかの発明など、具体的な形を持たない財産のことです。例えば「商標登録」についてはよくメディアでも取り上げられるのでご存知の方も多いのではないでしょうか。
商標登録をするためにはどのようなことをするのか
商品の名前やデザインはいくら時間をかけて考えても、表に出せば一瞬で真似されてしまいます。これを防ぐために商標登録をします。
商標登録をする際は弁理士の先生に依頼し、出願書類をまとめて登録の申請をしてもらいます。
権利を得るまでには特許庁の審査官などと綿密なやり取りをする必要があり、ここをどのようにクリアするかが弁理士の腕の見せどころとなります。
弁理士が出願に関わるのは、商標登録以外にも企業が何かを発明した時の特許取得、実用新案の申請など多岐に渡ります。
弁護士の仕事内容
弁護士の仕事内容は、法律の専門家として不正が行われないようにすることです。依頼人の法律上での権利を守ることが、弁護士の存在意義となります。
仕事の種類は大きく分けて、民事裁判と刑事裁判の2つとなります。
民事裁判とは、警察が介入しないような個人間のトラブルを解決することです。借金返済について、騒音問題、離婚問題など様々な内容で弁護士の知識と経験が役立ちます。
刑事裁判とは警察が介入するような、いわゆる「犯罪」についてを解決する仕事となります。被害者のために動くこともあれば、罪を犯した被告人の代理として法廷に立つこともあります。
弁護士の存在意義とは
弁護士は犯罪者の弁護をする機会もあることから、人によってはあまり良いイメージを持たないかもしれません。
しかし全ての人間には等しく自由や権利が保障されています。これは法律によって定められていることであり、こうした前提があるからこそ私たちは毎日を安心して暮らすことができるのです。
人々の自由や権利がぶつかり合った時に、どこまでがそれぞれの権利であるかを明確にするために弁護士は存在します。
全ての人にとって中立の立場となり、全ての人が安心して暮らしていくことができる世の中を作ることが、弁護士の大きな役割となります。
やっぱり弁護士の方が稼げるの?
弁護士と弁理士を比べると、一般的には弁護士のほうが遥かに稼げる職業だと考えている方が多いでしょう。
確かに弁護士の平均年収が1000万円前後であるのに対して、弁理士の平均年収は700万円〜800万円前後です。弁護士のほうが稼げる仕事であるのは「平均値」を見れば正しいと言えます。
しかし弁護士・弁理士共に、実力主義の仕事です。実際にどのくらいの年収があるかについては個人差が非常に大きく、例えば弁理士登録をして開業している弁理士の中には、2000万~3000万円もの年収を稼ぐ方もおられます。
弁護士は高収入の分リスクもある
開業弁理士となれば高収入が期待できるというお話をしましたが、弁護士として法律事務所を開業している方の中には、億単位での年収を稼ぎ出す方もおられます。
これを思うと弁護士のほうが遥かに稼げる仕事と言えるかもしれません。
しかし弁護士先生となって法律事務所を開いたとしても、廃業してしまうケースもかなり存在します。やはり単純に比較することは難しいでしょう。
試験難易度が高いのはどっち?
弁理士と弁護士、資格試験の難易度はどちらのほうが高いのでしょうか。
試験の内容が異なりますので単純に数値を比較することはできませんが、一般的には最難関と言われる司法試験に合格しなければならない弁護士のほうが難易度としては難しいとされています。
以下の段落で詳しく比較してまいります。
試験の合格率を比較
まずは弁理士と弁護士について、試験の合格率を比較してみましょう。
直近6年間の合格率を比較したものを表にまとめました。まずはこちらをご覧ください。
年度 | 司法試験合格率 | 弁理士合格率 |
---|---|---|
2014年 | 22.6% | 6.9% |
2015年 | 23.1% | 6.6% |
2016年 | 22.9% | 7.0% |
2017年 | 25.9% | 6.5% |
2018年 | 29.1% | 7.2% |
2019年 | 33.6% | 8.1% |
2020年 | 39.2% | 9.7% |
データで見ますと、弁理士よりも弁護士のほうが合格率は高いことになります。しかもかなり大きく開きがありますので、合格率だけで見ると弁理士のほうが遥かに難しい資格であるように見えます。
司法試験合格率の方が高いワケとは?
実は弁理士試験には受験資格が存在しません。どのような方でも弁理士試験に挑戦することができます。
これに対し、弁護士になるための司法試験を受けるには、法科大学院課程を修了、もしくは司法試験予備試験に合格するという条件を揃える必要があります。
しかもこれらの条件を満たしたとしても、5年以内に5回以内の受験で合格しなければ権利がなくなるという非常に厳しいものです。
つまり弁護士を目指す時点で、ほとんどの方が司法試験に受かるための土台をある程度整えているのです。
弁理士試験は特に勉強しなくても記念受験のように受けることができますから、結果として合格率が低くなっていることが考えられます。
勉強時間を比較
弁理士と弁護士、それぞれの資格を取るための勉強時間も比較してみましょう。
弁護士になるための司法試験に合格するためには、およそ3000~8000時間の勉強時間が必要だとされています。
これは毎日8時間勉強したとしても1年強~3年弱かかる計算で、司法試験を目指す方は法科大学院で授業を受けた後に平日は5時間、土日は8時間という勉強を毎日重ねているのです。
一方、弁理士試験の合格には3000時間程度の勉強時間で足りると言われています。
3000時間という数字も他の資格から見ると大変なものですが、司法試験と比較するならば弁理士試験のほうが難易度は低いと言えるでしょう。
弁護士試験と弁理士試験の比較
最後に、弁護士試験と弁理士試験について、試験範囲や費用なども比較してみましょう。
試験範囲
弁理士の試験範囲は以下のようなものです。
- 工業所有権に関する法令についての「短答式筆記試験」
- 工業所有権に関する法令についての「論文式筆記試験(必須科目)」
- 理工I~Ⅴ、もしくは法令から1科目を選択した上での「論文式筆記試験(選択科目)」
- 工業所有権に関する法令についての「口述試験」
1~4について、それぞれを合格しないと次の試験に進むことができません。
次に弁護士(司法試験)の試験範囲は以下のようになります。
- 短答式の筆記試験(憲法、民法、刑法)
- 論文式:(公法系科目、民事系科目、刑事系科目、選択科目)
司法試験には口述試験はありませんが、弁理士よりも広範囲の内容が出題されます。
弁理士試験の短答式筆記試験の内訳とは
弁理士試験の短答式筆記試験は、以下のような内容が出題されます。
- 特許・実用新案に関する法令:20題
- 意匠に関する法令:10題
- 商標に関する法令:10題
- 工業所有権に関する条約:10題
- 著作権法及び不正競争防止法:10題
回答方法は五肢択一のマークシート方式です。
なお、論文式の筆記試験においても上記の法令の中から出題されます。これらの内容は弁理士の仕事内容である「工業所有権」についての必須内容ですから、受験対策の際は全てを網羅しておきましょう。
試験方式
弁理士の試験は、一つずつクリアしながら次の試験に進む形になっています。
まずは3月中旬~4月上旬に願書を提出し、5月中旬~下旬に「短答式筆記試験」に挑みます。これに合格しますと、6月下旬~7月上旬に「論文式筆記試験(必須・選択科目)」、10月中旬~下旬に「口述試験」となります。
つまり弁理士試験は、約半年をかけて行われることになります。
これに対して司法試験(弁護士)は、全ての試験が連続する4日間で行われます。参考までに、2021年度の司法試験日程は5月12・13・15・16日です。
弁理士試験の合格基準は?
弁理士試験の合格基準は以下のようになっています。
試験 | 合格基準 |
---|---|
短答式筆記試験 | 65%以上の得点率で、なおかつ工業所有権審議会が相当と認めた得点以上 |
論文式筆記試験(必須科目) | 標準偏差値を算出した上で、工業所有権審議会が相当と認めた得点以上 |
論文式筆記試験(選択科目) | 60%以上の得点率であること |
論文式筆記試験(口述試験) | A、B、Cの採点基準において、C評価が2つ以上ないこと |
司法試験の合格基準は?
司法試験の合格基準ですが、例年短答式・論文ともに60%以上で合格ラインに達すると言われています。ただし合格ラインは毎年細かく変化します。
司法試験の論文式試験においては、「優秀」、「良好」、「一応の水準」、「不良」に答案が分類されます。合格ラインとなる60%以上という点数を取るためは「一応の水準」以上の評価が必要になります。
この「一応の水準」の答案とする概念についてですが、「良好な答案の例と比べた時に、検討すべき内容のほぼ全ての言及しているが、全体の説明が平板で不十分、もしくは制度の基本的な理解に問題があり、明晰さを欠いており一貫性の面でやや劣るもの」という採点がされたものが「一応の水準」となります。
つまり「全て正確に論じているわけではなくとも、基本的な事項をほぼ書くことができている」という論述ができていれば「一応の水準」に達することができ、合格になると考えられます。
かかる費用
弁理士と弁護士、それぞれを目指すためにかかる費用も知っておきましょう。
まず弁理士ですが、受験資格が存在しない分、必ず学校などに通わなければならないというわけではありません。ですから弁護士ほどの費用は必要ないでしょう。
ただし試験では法的に専門性が高い内容が問われますし、受験者の多くは大卒もしくは院卒の方です。この中から合格を勝ち取るためにはできれば予備校などに通ったほうが良いでしょう。
弁理士の予備校は1年間で30万円~40万円ほどが相場だと言われています。通信講座の場合でも7万円~10万円程度の費用が必要です。
対して弁護士は法科大学院課程を修了、もしくは司法試験予備試験に合格する必要がありますので他の資格に比べて時間も費用もかなりかかります。
一般的には弁護士を目指すのに必要な費用は400万円~600万円程度とされています。
弁理士と弁護士の関係まとめ
弁理士と弁護士の関係まとめ
- 弁理士と弁護士は似た資格だが弁護士のほうが上位資格と言える
- どちらも実力主義の独占業務となるので稼げる人はかなりの高収入となる
- 弁理士には受験資格がないのに対して司法試験は誰でも受験できるわけではない
- どちらを受験するにしても万全の準備をして臨むべし
弁理士と弁護士は名前も内容も似ている部分がありますが、単純に比較できるものではありません。
どちらにも優れている点、魅力的な点がありますので、ぜひご自身に合ったほうに挑戦してみてください。
特許に特化した弁理士、もしくは法律全般を網羅する弁護士となって、「先生」と呼ばれる人生を送りましょう!