臨床心理士の仕事内容は?年収や将来性・資格取得の難易度や仕事がないかまで解説!
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医師
安藤広真
「臨床心理士の仕事内容って?なるにはどうしたら良い?」
「年収や将来性は?きつい・仕事がないって本当?」
などと疑問をお持ちの方もいるでしょう。
臨床心理士は心の病を抱えたクライアントの問題解決を、心理学的手法を駆使してサポートする職業です。
今回は臨床心理士の仕事内容について、年収や将来性、資格取得の難易度、きつい・仕事がないと噂される実態などを含めて解説します。
これを読めば、臨床心理士がどのような仕事をしており、それが社会にとってどれだけ必要であるかなどがよく分かるはずです。
臨床心理士の仕事内容についてざっくり説明すると
- 対クライアントの臨床心理面接が主な仕事
- 他にも地域援助や研究なども行う
- なるには臨床心理士試験の合格が必要
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臨床心理士の仕事内容
「こころ」の医師である臨床心理士は、心理学の専門知識を活用して様々な心の問題を解決する職業です。
臨床心理士は主に臨床心理査定・臨床心理面接・臨床心理的地域援助・治療法の研究という4つの仕事を行います。それら4つの詳細は以下の通りです。
臨床心理査定
臨床心理査定は、テストや面接によってクライアントの心理状態を調べ、当人の無意識化にある精神的な問題を発見する作業のことを指します。
また見つかった問題点から、そのクライアントをどのように援助していくかという指針を決めるのも臨床心理士の役割です。なお、援助の方向性を決める際は、他の専門家と合同で検討を行う場合もあります。
臨床心理面接
臨床心理面接が臨床心理士のメインの仕事になります。
クライアントと面接を行い、その人の年齢や性別、状況などを見極めた上で、どのような方法で援助をしていくべきかを判断し、それを実行するという専門的な仕事です。
なお、その際に用いる方法(技法)には、行動療法や集団心理療法、芸術療法、認知療法など、様々なバリエーションがあります。
臨床心理的地域援助
地域の小中学校や企業などで、コミュニティの構成員たちが健全な心理状態を保てるように援助を行うことも、臨床心理士の役割です。
また人々のプライバシーを侵害しないようにきちんと配慮をした上で、精神的な問題を極力引き起こさないうようにするための情報収集や環境整備を行うこともあります。
地域の生活環境が健全に発展していくためには欠かせない、重大な仕事であると言えるでしょう。
治療法の研究
近年の心理学は目覚ましい発展を遂げており、日々新しい病気や効果的な治療法が発見され続けています。
そうした最新情報をチェックし、流行している病状やそれに対する治療法などを研究しておくことによって、臨床心理士として優れた仕事ができるようになるので、そうした研究は非常に重要です。
また心理学だけでなく、クライアントやコミュニティの状況も刻々と変化するため、情報収集などによってそうした変化に対応することも必要になります。
代表的療法を紹介
以下では臨床心理士が業務(特に臨床心理面接)で用いる代表的な療法をいくつか紹介します。
療法 | 内容 |
---|---|
行動療法 | 精神ではなく行動を修正することによって精神疾患の改善を目指す |
集団心理療法 | グループでの交流や活動などで他者に受け入れられる体験や社会性などを獲得する |
芸術療法 | 芸術による自己表現を通じて精神的問題を解決する |
認知療法 | 歪んだ認知を修正することによって改善を目指す |
精神分析 | 週4日以上の面接でクライアントの心の深淵を分析する |
遊戯療法 | 遊びの通して心の問題の解決やストレスケアを行う対子供用の方法 |
臨床心理士の果たす役割
臨床心理士の役割は、クライアントの心の問題が適切に解決されるように、心理学的技法を用いてサポートを行うことです。
それぞれのライアントがどのような問題を抱えているのかを理解し、各々に合ったアプローチを実践していくことで、問題解決を援助します。
以上のような役割を持っていることから、臨床心理士にとってはクライアントと信頼関係を築くことが欠かせません。
臨床心理面接では、クライアントにプライベートな部分を打ち明けてもらわないといけないからです。
また心の問題は風邪のように薬を飲んですぐに症状が改善するという性質のものではないため、ベストなアプローチを試しても即効性がない場合もあります。
そのため、臨床心理士として働くためには、粘り強く問題解決のために尽力できるだけの根気の良さも必要です。
臨床心理士が頼られる理由
「ストレス社会」と言われることもある現代社会を生きている我々は、大小はあれども皆何かしらの心の問題を抱えています。
その問題が深刻さを増してくると、取り返しのつかない事態に発展することもあるため、程度が酷い場合には適切な治療が必要です。
しかし、心の問題は客観的には見えにくいため、周囲には理解してもらえないことも珍しくありません。そのため、心の問題を適切に理解し、改善に導く臨床心理士の存在が求められるのです。
臨床心理士の主な就職先
臨床心理士には主に4つの仕事があると述べましたが、どの仕事を中心に行うかによって職域・職種には様々なバリエーションが生まれます。
以下ではそんな臨床心理士の代表的な就職先をいつくか紹介しましょう。
医療・保健、教育が多い職場
臨床心理士は医療・保健分野や教育分野で活躍することが多いです。
以下では日本臨床心理士会が実施した「第7回 臨床心理士の動向調査」を参照し、臨床心理士の各就業領域の割合を紹介します。
職場 | 割合(%) |
---|---|
医療・保健 | 42% |
教育 | 36% |
大学・研究所 | 25% |
福祉 | 19% |
産業・組織・労働 | 8% |
私設心理相談 | 8% |
司法・法務・警察 | 4% |
その他 | 4% |
以下では各職業・分野における臨床心理士の業務内容などについて解説します。
医療・保険分野
臨床心理士は医療・保健分野で活躍することが最も多いです。具体的には病院やクリニックの精神科などに所属し、そこの患者に対して心理的サポートを行います。
また病院やクリニックなどで勤務すれば、運営・経営に関する様々なノウハウが得られるため、将来の独立開業を考えて医療・保健分野で経験を積むというケースも珍しくありません。
教育現場のスクールカウンセラー
教育分野は医療・保健分野に次いで臨床心理士の人口が多い分野です。この分野では主に公立の小中学校、高校などのスクールカウンセラーとして活動します。
スクールカウンセラーは1995年に導入され、現在も文科省が推進する事業であるため、需要はそれなりに多いです。
具体的な業務内容ですが、生徒や親と面接をしたり、学業や発達、生活などに関わる色々な問題に対して心理的なサポートを行ったりします。
警察・刑務所
警察署の被害者窓口で、犯罪被害者の心理的なサポートを行う臨床心理士もいます。
また刑務所で受刑者の心のケアを行うことも臨床心理士の重大な役割です。
そもそも受刑者は心理的な問題を抱えていることが多く、さらに多数が収容されている刑務所の生活の中で新たな問題が生まれることもあります。
よって受刑者の健全な社会復帰を促進するためにも、臨床心理士のサポートによって受刑者の精神面を安定させることが重要なのです。
ちなみに臨床心理士が刑務所に勤務するようになったのは、2006年の法改正で刑務所に民間カウンセラーが導入されるようになった以後のことになります。
福祉分野
児童相談所や老人福祉施設で働く臨床心理士も多いです。児童相談所では障害のある子供の支援を行ったり、保育所や幼稚園に赴き、保護者の相談に乗ることもあります。
一方で老人福祉施設では、利用者の心理的支援を行ったり、認知症患者の対応をすることなどが主な仕事です。
さらに福祉分野では女性相談センターやDV相談センターなどで女性関係の業務に携わる臨床心理士もいます。
独立開業という選択肢も
医療・保健分野で経験を積んだのちに、自分のクリニックを開業する臨床心理士もいます。
クリニックを経営するには各種療法に関する確かなスキルやマネジメントのノウハウが必要で、経営者には大きな責任がのしかかるため、決して簡単に為せることではありません。
しかし、成功すればかなりの年収アップにつながるため、挑戦してみる価値は大いにあります。
資格を活かしたちょっと変わった働き方
臨床心理士の資格を活かし、以下のような働き方をすることもできます。
セミナー講師として活躍する
臨床心理士としての勤務経験を活かしてセミナーの講師になるという選択肢もあります。
有料で会員を集め、自らの体験談や心理的支援のノウハウを語る機会を定期的に設けたり、外部からオファーを受けてセミナーをしに行くという仕方も良いでしょう。
心理学の知識やノウハウを本として出版する
自らの経験やノウハウを元に、書籍を執筆・出版する臨床心理士も多いです。
作家としての活動は、他の業務と並行して行うことができるので、作家業や表現・発信することに興味がある方は、ぜひチャレンジしてみると良いでしょう。
就業形態別割合は?
先ほども触れた日本臨床心理士会の「第7回 臨床心理士の動向調査」によると、臨床心理士の就業形態別の割合は以下の通りです。
職場 | 割合(%) |
---|---|
非常勤のみ | 45% |
常勤のみ | 34% |
常勤+非常勤 | 14% |
非就業 | 7% |
上記より、臨床心理士の雇用形態としては非常勤が最も一般的のようです。また「常勤+非常勤」も一定数いることから、多様な働き方がある職業であるとも言えるでしょう。
臨床心理士になるには
ここからは臨床心理士のなり方について解説します。
受験資格が必要
臨床心理士になるには臨床心理士試験に合格しなければなりません。なお、臨床心理士試験の主な受験資格は以下の通りです。
- 指定大学院(1種・2種)を修了し、所定の条件を充足する者
- 専門職大学院にて臨床心理士養成過程を修了した者
- 諸外国で指定大学院と同等以上の教育を修了し、国内で心理臨床経験を2年以上積んだ者
- 2年以上の心理臨床経験を有する医師免許取得者
上記より、医師免許の取得者以外は、大学院もしくは専門職大学院に通って臨床心理士試験の受験資格を取得するのが一般的です。
大学院で臨床心理学を学ぶ場合は、入試の倍率が10倍程度であることも珍しくないので、難易度は比較的高いと言えるでしょう。
また通学する時間が取れない会社員や専業主婦などには、通信制の大学院をおすすめします。ただし、通信制の場合もスクーリングの際は通学しなければなりません。
臨床心理士試験の難易度・合格率
臨床心理士試験の合格率は例年62%前後なので、合格率という観点ではそれほど難易度が高くない試験だと言えるでしょう。
ただし、上述したように受験資格を得るのが大変なので、受験のハードルは比較的高めです。
また受験者のほとんどが大学院や専門職大学院でしっかり臨床心理学の勉強を積んできた者たちであることを踏まえると、簡単な試験であると油断することはできません。
臨床心理士の平均年収はどれくらい?
厚生労働省が公表しているデータによると、臨床心理士の平均年収は約350万円です。
そのため、高収入が期待できる職業ではありませんが、臨床心理士の働き盛りである50代では年収が400万円を超えるため、極端に金回りが悪い職業というわけでもありません。
以下では臨床心理士の収入に関するさらなる詳細を年齢ごとに紹介します。
年齢 | 年収 | 月給 |
---|---|---|
20~24歳 | 194万円 | 12万円 |
25~29歳 | 241万円 | 15万円 |
30~34歳 | 265万円 | 17万円 |
35~39歳 | 303万円 | 19万円 |
40~44歳 | 340万円 | 21万円 |
45~49歳 | 381万円 | 24万円 |
50~54歳 | 408万円 | 26万円 |
55~59歳 | 405万円 | 25万円 |
60~65歳 | 275万円 | 17万円 |
上記より、臨床心理士は50代で経済的なピークを迎えるということがわかります。
臨床心理士業務のやりがい・向いている人
ここからは臨床心理士の仕事のやりがいや「きつい」かどうか、臨床心理士に向いている人の特徴について解説します。
臨床心理士の仕事のやりがい
臨床心理士として働く上で最大のやりがいと言えるのが、苦しんでいる人の助けになれるということです。
様々な精神的問題に苦悩している方と向き合い、彼らが元気になる様を見ることには大きな感慨があるでしょう。
また先述した通り、臨床心理士は日々病状や治療法についての研究に勤しまなければならない職業でもあるため、業務を通じて学術的な知的好奇心を満たすことができるというやりがいもあります。
臨床心理士の仕事はきつい?
クライアントの心の病を治せるかどうかで、その人の将来を大きく左右するという意味では、臨床心理士の仕事はプレッシャーのかかるものであると言えるでしょう。
また臨床心理士は私生活でどんなイライラやショックがあろうと、クラアントの前では常に平静を保っていなければならないので、プライベートな状況によってはきつい時もあるはずです。
さらにクライアントの気持ちに共感するあまり、気分が落ち込んでしまう可能性もあります。
臨床心理士に向いている人
臨床心理士は大抵の場合、対クライアントの業務を行うため、コミュニケーションに長けている人の方が適性があると言えるでしょう。
またクライアントの状態を冷静に見極め、適切な対処法を判断しなければならないため、優れた観察眼を持っている必要もあります。
さらに上記で述べた通り、臨床心理士の仕事はプレッシャーのかかるものであり、自身の私生活やクライアントの病状にかかわらず、常に冷静でいなければなりません。
よって時には「きつい」と感じることもあるでしょうから、それに耐えられるだけの精神的な強さも求められます。
臨床心理士は仕事がない?
収入の水準が比較的低いことなどから「臨床心理士は仕事がないのでは?」と懸念する人もいるでしょう。実際、そのような噂も多いです。
しかし、臨床心理士の仕事がないという事実はありません。
臨床心理士の就職・転職の実態
先に紹介したデータで「非常勤」の割合が多かったことからも推察できるかもしれませんが、臨床心理士は転職する人口がかなり多い特殊な職業・業界です。
正規では就職せず、興味のある仕事をいくつか掛け持ちしたり、比較的短期の契約が切れたら、より自分に合うと思う仕事に切り替えるというようなことがよくあります。
キャリアアップ・昇給のための転職も
一定の経験を積んだ臨床心理士は、キャリアアップや昇給を求めて転職するケースがよくあります。
そのため、高収入や高待遇の求人はベテランの心理士によって取られてしまうことが多いので、若手にとってはやや不利な状況であると言えるでしょう。
よって新卒の場合は、しっかりと知識やスキルを習得することができそうな就職先を選ぶのがおすすめです。
若手時代の職場でしっかりと実力を培い、例えば10年後などに先人たちのように転職してキャリアアップ・昇給を目指すと良いでしょう。
臨床心理士の将来性
職業選択の際に気になることは「将来は安泰か?」ということでしょう。
そこで以下では臨床心理士の将来性について解説します。
臨床心理士の活躍の場は増えている
現代社会では「心の病」を抱える人、またはそれを明確に意識して問題視する人が各所で増えてきているため、臨床心理士の活躍の場は多いと言えるでしょう。
その証拠に、医療・保健分野や教育分野、刑務所、福祉施設など、臨床心理士にはバリエーション豊かな働き口があります。
特に学校では公立・私立を問わず、スクールカウンセラーを設置するところが増えてきているため、学校だけに限っても就職先・転職先はかなり多いです。
ちなみにスクールカウンセラーになるなら資格は必須ではありませんが、資格は持っておくことをおすすめします。
特に臨床心理士は抜群の信頼性を誇るため、保有していれば年収アップや将来性の安定に繋がるでしょう。
国家資格化の可能性も
今やうつ病をはじめとする精神疾患は社会問題になっており、コロナウイルスの存在はその流れを助長していると考えられます。
よって臨床心理士の需要はさらに高まっていると言えるでしょう。
また近年、心理系では初の国家資格となる「公認心理師」が誕生しましたが、今のところ公認心理師よりも臨床心理士の方が知名度や人気が高いのが現実です。
こうした状況を踏まえると、臨床心理士が今後国家資格になる可能性もあるため、それならば今取得しておくことは非常に有意義だと言えます。
臨床心理士の仕事内容まとめ
臨床心理士の仕事内容まとめ
- 心の病に苦しむ人の手助けをする
- 時には「きつい」状況もある
- 需要や将来性は十分な仕事
- 今後、国家資格になる可能性もある
臨床心理士の仕事内容について解説しました。
臨床心理士のメインの仕事は、心の病を抱えたクライアントと向き合う臨床心理面接です。また他にも臨床心理査定や地域援助、治療法の研究なども行います。
いかなる時でも平静でいなければならないので、私生活やクライアントの病状によってはきつい時もあるでしょうが、苦しんでいる人の助けになれる非常のやりがいの大きな仕事です。
さらにうつ病などの精神疾患は社会問題ともなっており、臨床心理士の需要・将来性は十分だと言えます。将来国家資格になる可能性もあるでしょう。
このように臨床心理士は大変魅力的な職業であるため、ぜひ自身の将来の選択肢として検討してみてください。