アクチュアリーはAIに代替される?将来性や保険業務のこれからを予想
「アクチュアリーの業務内容とは?AIに代替できるものなのか?」
日本では、保険数理人とも呼ばれているアクチュアリー。その歴史は古く、明治時代まで遡ることができます。
その一方で、カタカナ名の資格によくあることですが、言葉の響きからは仕事内容を想像することが難しい職業としても知られています。
そこで何かと話題にのぼる機会の増えたアクチュアリーについて、主な業務内容である保険会社での仕事の内容から、最近の情勢を踏まえたAIとの将来性に至るまで、将来の予想を交えながら、わかりやすく説明します。
アクチュアリーの業務内容や将来性についてざっくり説明すると
- アクチュアリーの主な業務内容は金融商品のリスク分析
- 日本国内でアクチュアリーを名乗るには試験合格が必要
- 保険商品の開発やコンサルタントとしての収益管理を担う
- AIとの共存が可能な将来有望な資格
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アクチュアリーとは
アクチュアリー(英字:Actuary)とは、英国発祥の専門職を表す資格の名称で、もともとは経済に対するリスクを計算することを専門にしている算定士(数理人)を意味する言葉です。
そこから転じて、現在では、保険業務はもちろんのこと、金融に関わる幅広い分野での活躍が見込まれる、将来有望な資格の一つと言うことができます。
日本国内でアクチュアリーを名乗るためには、公益社団法人の日本アクチュアリー会が行う資格試験に合格し、正会員として日本アクチュアリー会への登録が必要となります。
また、コンピュータ技術の発達に伴い、アクチュアリーの仕事の多くは、将来的にAI(英字:Artificial Intelligence)へと置き換えが進むのではないかと危惧されていました。
しかし、最近の情勢の変化に伴い、需要が高まる傾向にあるアクチュアリーに期待される仕事内容について、わかりやすく説明します。
アクチュアリーの仕事内容
外来語であるアクチュアリーを保険数理人と呼んでいた明治時代から150年が過ぎた今日に至るまで、主な仕事内容は、現在の経済状況から将来的な危険性を分析し、その状態を数値で表現する評価者としての業務でした。
そのため、大正、昭和を経て、後に大きく発達することになる保険業務において、アクチュアリーは、なくてはならない大切な存在として迎えられてきました。
アクチュアリーの専門分野
アクチュアリーは創立の時点から、非常に高度な数理学の知識が要求されてきました。
一般的には、統計学や確率論といった高度な数理処理能力を駆使し、難解な保険料金の算定や、将来的な変化を予測しての企業年金の算出、企業ごとの退職金の金額設定を行うことを専門分野としてきました。
- 各種の保険料の算定
- 災害や事故の発生率の分析
- 退職金給付制度の策定や変更
- 企業年金制度の健全性の検証
保険業務におけるアクチュアリーの仕事
保険数理人と呼ばれる所以となったのが、保険会社におけるアクチュアリーの仕事です。
特に生命保険分野においては、適正な保険料の算定を行い、かつ、企業の健全な資金運用を担保しながら、変化する社会情勢に併せた支払能力を確保するために、その専門的な知識が求められ続けています。
- 分析に基づく新たな保険商品の開発
- 包括的なリスク分析
- 企業価値の最大化を目的するERM(Enterprise Risk Management)業務
- 外部コンサルタントとしての収益管理業務
アクチュアリーになるには試験に受かることが必要
日本国内でアクチュアリーを名乗るためには、公益社団法人の日本アクチュアリー会が、毎年実施している資格試験に合格し、正会員として日本アクチュアリー会への登録が必要です。
試験範囲は7科目に及び、一次試験の5科目と、二次試験の2科目のすべてに合格することで、正会員として日本アクチュアリー会への登録ができるようになります。
アクチュアリーの資格登録までの流れ
日本アクチュアリー会に正会員として登録できるようになるまでは、「研究会員」、「準会員」という名称を使うことができます。
日本アクチュアリー会の「研究会員」は、一次試験の5科目のうち、いずれか1科目以上の合格で名乗ることができるようになります。
日本アクチュアリー会の「準会員」は、一次試験の5科目のすべてに合格することで、名乗ることができます。
アクチュアリー試験の出題傾向
アクチュアリー試験は、年々、問題が難しくなっていると言われています。これは社会環境の複雑化を受けて、より実践的な知識が求められているためだと考えられています。
特に、一次試験の出題範囲となる「数学」、「生命保険関連問題」、「損害保険関連問題」、「年金関連問題」、「KKT(会計・経済・投資理論関連問題)」の5つは、大学での学習相当の専門性が求められます。
出題傾向を把握する上でも、日本アクチュアリー会の過去問題を活用すると良いでしょう。
7科目すべての合格までに必要な勉強期間は、8年前後と言われています。
アクチュアリー試験については、以下の記事で詳しく紹介しています。
アクチュアリー業界は人手不足
アクチュアリーが算出する数値は、保険業務において他に代替することのできないほど、大きな影響力を持ちます。
また、極めて難関な試験科目をすべて合格した上での登録が必要となるため、その総数は日本全国でも1,500名ほどと言われており、慢性的な人手不足の状態にあります。
そのため、引く手数多の人財市場となっており、待遇面や収入面でも十分に魅力的な環境にあると言うことができます。
また、試験問題が難問化していることもあり、急激な資格者の増加が見込めないため、将来性についても十分で、特別な理由が生じない限り、仕事に困ることはなさそうです。
アクチュアリー業界の求人状況については、以下の記事で詳しく解説しています。
アクチュアリーとファイナンシャルプランナーの違い
アクチュアリーは、試験合格の難しさから慢性的な人手不足の状態にあります。そのため、様々な職場で人財として厚遇されることが多い理想的な資格といえます。
また、就職先として保険会社が選ばれるイメージがありますが、保険業界といえば、もう一つの人気資格であるファイナンシャルプランナー(通称、FP)という資格があることを耳にしたことがあると思います。
ファイナンシャルプランナーも、アクチュアリーも金融のプロフェッショナルであることに違いはありません。
しかし、その専門としている内容には違いがあります。
それぞれの資格の専門分野について、分かりやすく説明します。
金融商品開発やリスク分析をするアクチュアリー
アクチュアリーは、主に数学に関する専門的な知識に加え、法律や会計、景気動向や経済指数などの情報を分析し、それぞれの状況からリスクを分析する職務を担っています。
金融関係の商品を開発する役割を負うのも、アクチュアリーの職務の一つと言えます。
また、公務員として年金制度や国債の管理に携わる仕事をこなすアクチュアリーも存在します。
金融商品について顧客の相談を受けるファイナンシャルプランナー
これに対して、ファイナンシャルプランナーは、主に個人を対象とした生涯を通して必要となる資産の運用について相談に答えることを職務として扱っています。
具体的には、「年金」や「税金」といった話から、「不動産」、「保険」、「相続」などの個人の生活に関わるお金について、資産運用の面から最適な方法を指導する立場での仕事に携わっていると言えます。
アクチュアリーの将来性とAI
最近の生活環境における大きな変化の一つとして、AI(英字:Artificial Intelligence)が活発な成長を遂げ、私たちの生活に携わる機会が増えてきました。
スマートフォンや、スマートスピーカー、パソコンなどの情報端末を通して、私たちが呼びかけることで、AIは人間さながらに対応を返し、私たちの指示に従った反応を示してくれています。
現在のスピードでIT(英字:Information Technology)が進歩を続けた場合、技術的特異点と呼ばれるシンギュラリティ(英字:Technological Singularity)の発生を指摘する声が強まっています。
シンギュラリティを迎えることで、人間の能力を凌駕するAIが作り出され、それまで人間が行ってきた仕事をAIが行うようになると言う未来の姿を予想する声もあります。
統計や分析はAIの仕事に
私たちの未来が、どのような姿を迎えているのかは、今のところは科学者の予測に過ぎません。仮に、シンギュラリティが実際に発生するのだとしても、それにはまだ、しばらくの時間が必要です。
しかし、その時を迎えるまでもなく、これまでの時間の流れの中でも、コンピュータの発達によって、いくつかの仕事はより効率的な手段へと置き換えられてきました。
今後は、アクチュアリーの仕事の中でも、単純な作業と言われる統計資料の作成や資料を読み解く数値分析の業務については、AIへの置き換えが起きる可能性が高いと考えられます。
これまでの様に、膨大な資料に目を通して、従来の計算ソフトや統計ソフトを使った入力作業を人間が行う機会は、減っていくと考えられています。
AIには代替できないことがある
計算ソフトやプログラムを使った統計作成や分析資料の作成は、瞬時に計算することを得意とするAIの分野として定着することが予測されています。
その結果、私たち人間が、それらの作業を目的とする業務に関わる機会は減り、徐々にAIの仕事として認識されるようになる、そんな未来が訪れるだろうと予想している科学者も数多く存在します。
しかし、どんなに学習を積んだAIであっても、代替することが難しいと考えられている仕事が、アクチュアリーには数多く存在します。
相手に合わせた提案を行うコミュニケーション能力
例えば、相手に自分の考えを伝え、納得を得られる内容の提案を示すことは、得られた情報を分析することで、瞬時に結果を予測することに長けた人工知能であるAIであっても、とても難しい作業だと考えられています。
現在のところ、AIは提示された条件に基づき、その条件に当てはまる内容で絞り込まれた検索結果を人間に対して、提示することができます。
これからも学習を続けることで、AIは相手の考える内容をこれまで以上に深く理解できるようになり、言葉で提示された内容以上の要求条件まで予測して、より高精度な回答を返すことが可能になるかもしれません。
しかし、相手の考えを理解した上で、それとは異なる自分の考えを示し、より望ましい結果が得られるように、一つずつ、細部に至る理由を相手に説明することは、AIにはとても難しい作業だと考えられています。
将来的にアクチュアリーに必要になる能力
AIの発達は、まさに日進月歩です。
繰り返し学習を重ねることで成長したAIは、これまで以上に多くの物事を人間が行うよりも短い時間で処理することができるようになることは間違いありません。
科学者らが唱えるシンギュラリティの真偽は別として、将来的には、AIが私たち人間の代わりとなって社会で働く時代が訪れたとしても、少しも不思議ではないのです。
しかし、それでも、すべての仕事をAIに任せることができるとは思えません。
AIに代替することの難しいアクチュアリー本来の能力を伸ばすことで、AIの長所である高い分析能力を活かし、業務に欠かせないパートナーとして、新しい価値観を提供できるようになることでしょう。
プレゼンテーション能力を磨く
現在、保険業界は金融庁をはじめとした各省庁の監督のもとで事業を行っています。
そのため、保険業界全体に対して現状を説明し、指導的立場から必要となる行動を促すためには、アクチュアリー本来の高い説明能力が要求されます。
中でも、公務員として業界を把握する職務を担うアクチュアリーにとっては、現在の社会環境に照らした丁寧な説明が求められます。
誰のためのプレゼンテーションなのか
とかく、プレゼンテーションと言うと、聞き手にとって分かりやすいことが必要と思われやすいものです。
しかし、アクチュアリーにとっては、自らが分析した内容を示し、所属する組織の立場から相手の理解を得られるように最善を尽くすことこそがプレゼンテーションです。
例えば、金融商品であれば、自社が販売する商品の特徴や、潜在的な危険性、具体的な安全性についてもアピールしなければならない立場にあるのがアクチュアリーです。
このような詳細かつ、分かりやすい説明は、結果の正確性や生合成についての説明を不得意とするAIには、代替されにくい分野ということができます。
将来性のあるアクチュアアリーを目指すためにも、プレゼンテーション能力は、意識して磨く必要のある能力といえます。
対人折衝能力
将来的に、AIとの共存が求められるようになると、アクチュアリーの職務として、これまで以上にコンサルタントとしての割合が大きくなると考えられます。
コンサルタントとしてのアクチュアリーに仕事は、AIの分析によって得られたデータを適切に解釈し、価値観を見出し、新しい営業戦略を提案して実行まで持っていくことです。
コンサルティング業務では、それまでとは異なる、まったく新しい提案をしなければならない場合も多く予想されるため、現場においては反対意見に会うことも、しばしばあります。
より望ましい関係を構築し、遅滞なく計画を履行するための高い対人折衝能力や、物事を解決に導くための提案能力が必要になると考えられます。
そのため、これからのアクチュアリーは、対人折衝能力を磨く必要があると言えます。
英語力
英語力と言うと、日常的な英会話を連想してしまいますが、数値やグラフによって分析結果を示すアクチュアリーにとっては、業務のグローバル化に伴う外国企業との業務を行う上で、英語力は必須になりつつあります。
依頼主に対して、英語による提案や折衝をこなせるように英語力を磨くことはもちろんのこと、文書の作成においても、多言語での情報流通が前提になりつつあるため、注意深い言葉選びが求められます。
流暢な英語力は、誤解を避ける際に、とても有効に働きます。同じ単語であっても、使われる場面によって意味に差が生じてしまう言葉を避け、具体的な心情を意味する単語を使った意思疎通の実現は成功に欠かせません。
ITに関する知識
AIの台頭が懸念されている現在の状況では、様々な分野において、業種を問わずにITの進歩に伴うAI技術との融合が行われると考えられています。
そのため、どのような業種であったとしても、ITやAIに対して求められる知識量を増やすことが、継続的なクライアントの獲得につながると言うことができます。
特に、金融や経済は、これまでもコンピュータによる計算技術の発達による恩恵を受けてきた分野と言えます。その延長線上にあるAIとの共存関係は、アクチュアリーに新たな価値観を与えることになるでしょう。
アクチュアリーに期待される未来像
AIとの職務分担が問い質される現状において、アクチュアリーには、より高度なITの知識が求められていると言うことができます。
確かな発言力に期待されるのは、高度なIT技術と、培われた金融、保険の知識に加え、事態を正確に把握し、それを分かりやすく伝えるための言語力です。
その一つ一つが重なり合うことで、独自の価値を提供することができるAIに代替されないアクチュアリーとして、クライアントからの強い信頼を得ることができるようになります。
アクチュアリーの将来性についてまとめ
アクチュアリーの将来性についてまとめ
- アクチュアリーの主な業務内容は金融商品のリスク分析
- 日本国内でアクチュアリーを名乗るには試験合格が必要
- 資格取得者が1,500名ほどで、待遇面や収入面が魅力的
- AIに代替されないアクチュアリーを目指すことができる
アクチュアリーは、金融商品の開発に取り組むことができる人気の職業です。公務員として専門的な業務を行う上で必要な資格の一つでもあります。
AIに代替されるとの懸念の声もありますが、需要に対して資格者が極端に少なく、様々な職場で人財として厚遇されることが多いといえます。
保険会社はもちろん、保険会社のための保険を扱う再保険会社や、金融の専門家としての見地から金融会社に対してのコンサルティングを扱う専門機関に至るまで、引く手数多の状況にあります。
合格に向けて着実に勉強を重ねることができる「研究会員」、「準会員」制度が設けられている点も魅力の一つ。
大学卒業資格によって受験できるため、将来性豊かなアクチュアリーを目指してみてはいかがでしょうか。