認定司法書士と司法書士の違いは?業務内容や特別研修・認定考査の難易度まで解説!
「認定司法書士って、普通の司法書士とどう違うの?」
「特別研修の日程や難易度が知りたい!」
司法書士になろうと思っている人の中には認定司法書士という言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。認定司法書士は特別な研修を終えた、訴訟代理人になれる司法書士です。
ここでは、普通の司法書士よりも幅広い業務を行える認定司法書士について紹介します。
これを読めば認定司法書士の取得難易度や費用、普通の司法書士との違いまでバッチリ押さえられるでしょう!
認定司法書士と司法書士の違いについてざっくり説明すると
- 認定司法書士は訴訟代理人になれる。
- 認定司法書士になるには研修と考査の合格が必要。
- 経済的・時間的なコストが大きく、簡単にはなれない。
- 仕事内容は非常にやりがいがある。
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認定司法書士と司法書士の違い
認定司法書士は特別な研修や試験を受けたより専門的な司法書士です。特定行政書士や認定看護師の司法書士版と言えます。
認定司法書士は普通の司法書士の業務に加えて認定司法書士にしかできない業務も追加で行うことができます。幅広い活躍が期待できるぶんなるためには特別な手続きや研修が必要です。
ここでは、認定司法書士と普通の司法書士との違いを紹介していきます。また、あまり知られていない司法書士の仕事内容も合わせて説明します。
普通の司法書士の仕事内容は?
まず、普通の司法書士の仕事内容から取り上げます。司法書士の基本的な独占業務は登記と申請手続きになります。
登記とは権利や義務といった事柄を法的にはっきりさせることです。不動産や会社での登記が一般的です。
一方、申請手続きは法務局や裁判所・検察庁が主な対象です。申請書の作成、申請代行などの業務があります。
この他にも「成年後見」や「債権整理」などの業務もあります。守備範囲が広いので、イメージがつかみにくいかもしれません。
事務的な業務だけでなく、法律と不動産の専門家として経営や生活の相談に乗ったりすることもあります。相続やM&Aなど幅広い内容を扱うのです。
認定司法書士になるとできること
普通の司法書士にはできず、認定司法書士にのみ許された業務として簡裁訴訟代理関係業務という業務が挙げられます。
簡裁訴訟代理関係業務とは比較的小規模の民事裁判で訴訟代理人になれる業務です。裁判に関する書類を作成したり、出頭して議論したりできるため、こうなると、もはや弁護士のようですね。
もちろん弁護士とは異なり、業務内容も裁判規模も限定的にはなります。とはいえ、デスクワークが中心という普通の司法書士のイメージとは異なります。認定司法書士は、より法律家の印象が強くなります。
普通の司法書士は法律関係の事務仕事を広く浅く担当し、認定司法書士は専門的な内容に踏み込んでいます。よって認定司法書士は法律家として活躍したい人に適していると言えるでしょう。
詳しい認定司法書士と司法書士との業務の違いについては以下の表を確認してください。
業務内容 | 司法書士 | 認定司法書士 |
---|---|---|
登記または供託手続きの代理・相談 | ○ | ○ |
(地方)法務局に提出する書類の作成・相談 | ◯ | ◯ |
(地方)法務局長に対する登記、供託の審査請求手続きの代理・相談 | ◯ | ◯ |
(裁判所または検察庁に提出する書類の作成、(地方)法務局に対する筆界特定手続きの作成 | ◯ | ◯ |
対象土地の価格が5600万円以下の筆界特定手続の代理・相談 | ◯ | ◯ |
家庭裁判所から選任される成年後見人、不在者財産管理人、破産管財人などの業務 | ◯ | ◯ |
簡易裁判所における民事訴訟手続の代理 | × | ○ |
訴え提起前の和解(即決和解)手続の代理 | × | ○ |
支払督促手続の代理 | × | ○ |
証拠保全手続の代理 | × | ○ |
民事保全手続の代理 | × | ○ |
民事調停手続の代理 | × | ○ |
少額訴訟再建執行手続きの代理 | × | ○ |
裁判外の和解について代理する業務 | × | ○ |
ADR(裁判外紛争解決手続)の代理 | × | ○ |
仲裁手続の代理 | × | ○ |
民事紛争の相談 | × | ○ |
筆界特定手続について代理をする業務 | × | ○ |
簡裁訴訟代理等関係業務って何をするの?
認定司法書士になると簡裁訴訟代理等関係業務ができるようになります。これは普通の司法書士にはできない業務です。
簡裁訴訟代理等関係業務とは司法書士が訴訟代理人として行う業務です。訴訟代理人とは当事者に代わって訴訟を行う人です。
訴訟に関する書類作成だけでなく、実際に法廷に立って弁論を行うこともできます。また、朝廷や仲裁、和解の手続きを進めることもできます。
ただし、認定司法書士が扱えるのは比較的小規模の訴訟だけです。具体的には140万円以下の民事訴訟に限られます。140万円より高い金額の訴訟は弁護士の独占業務ですので、認定司法書士が行うことはできません。
具体的には、140万円以下の過払い金返済訴訟や家賃催促などが挙げられます。不当解雇や交通事故の損害賠償なども認定司法書士が扱えます。
140万円を超える訴訟では訴訟代理人として法廷に立つことはできません。しかし、訴訟に関する書類作成は可能です。書類作成には金額制限がありません。
過去には140万円を超える訴訟を請け負い、処罰された例もあります。裁判の規模によって扱えるかどうかが別れるので注意しましょう。
認定司法書士になると年収が上がる?
認定司法書士と普通の司法書士では年収に違いはあるのでしょうか?認定司法書士にしかできない簡裁訴訟代理等関係業務は専門的である分、収益が上がることが予想されます。
簡裁訴訟等関係業務の相場は、着手金が3万円から10万円程度、成功報酬が10%から20%程度です。1件あたりの報酬単価は30万円前後とかなりの高額です。
しかし、司法書士が簡裁訴訟等関係業務を行う機会はあまり多くないのが欠点です。そのため、認定司法書士になったからと言って年収が大幅に上がるということはありません。
認定司法書士になっても業務の幅が広がるだけです。年収アップには認定司法書士の登録に加えて業務に巡り合うための営業力が必要です。認定司法書士になったからといって直接年収アップには結び付きにくいでしょう。
その一方で、認定司法書士は大変やりがいのある仕事です。法律家として依頼者を助けることができることができるので、普通の司法書士には味わえないやりがいがあるのです。
このように、認定司法書士になったからと言って必ずしも年収増加に繋がるとは言えません。認定司法書士の魅力は年収よりも仕事におけるやりがいにこそあると言えるでしょう。
独立・開業後の選択肢が広がる
司法書士は独立・開業する方が多い資格でもあります。認定司法書士の資格を取得することで、独立・開業した後の受けられる仕事の幅が大きく広がります。開業後には、現在の業務で手一杯になってしまいがちなので、開業する前に認定司法書士の資格を取得できると良いでしょう。
転職の選択肢も広がる
司法書士の資格を活かして転職しようとする際にも、認定司法書士の資格があることで、司法書士よりも選考の際にアドバンテージがあると言えます。
ただし、司法書士としての実績や人柄なども考慮されるため、認定司法書士でなければ、転職できないということは決してありません。
認定司法書士になる方法と費用
認定司法書士になるには大きく二段階のステップがあります。それぞれ研修と試験です。
最初に司法書士特別研修という研修を受講する必要があります。その後、認定考査試験に合格すれば大臣の認定を受けられます。以下で詳しく見ていきましょう。
特別研修の日程と会場
司法書士特別研修は1月の末から3月の初め頃までおおよそ一か月ほどの期間にわたって実施されます。合計で100時間と密度の濃い内容です。
開催される会場は全国に複数あり、各人が好きな会場を選択できます。ただし、会場選択は先着順です。定員に達した場合、希望の会場で受けられなくなってしまいます。早めに申し込みましょう。
特別研修の内容
研修では6種類の講義が合計100時間行われます。それぞれの時間は以下のようになっています。
講義名 | 時間 |
---|---|
基本講義 | 12時間 |
グループ研修 | 37時間 |
ゼミナール | 18時間 |
実務研修 | 16時間 |
模擬裁判 | 13時間 |
総合講義 | 4時間 |
それぞれの講義内容を少しですが紹介していきます。どの講義も深い内容を取り扱っています。
基本講義
基本講義では認定司法書士になるために必要な基礎知識や心構えを学びます。裁判に携わる上で前提となる知識はもちろん、道徳観や責任感などを身に着けることも目的です。
講義は映像学習の形で行われます。事前に撮影された動画を元に実施されます。研修の前半に集中的に行われます。後半に行われる実務的な講義にも関わる内容を取り扱っているので、しっかり理解しましょう。
グループ研修
グループ研修では主に各種書類の作成や事例研究を行います。訴状や答弁書など、裁判に関して認定司法書士が作成する必要のある書類に関して学んでいきます。
10名程度のグループに分かれ、チューターと共に事例学習を通して行います。また、グループ研修はこの後に実施されるゼミナールの準備としても位置付けられています。
ゼミナール
ゼミナールでは訴訟代理人に求められる実践的な知識や実務能力について学習します。具体的な訴訟事例を取り上げ、ケーススタディで知識や能力を身に付けます。
グループ研修よりも人数が多く、講義を中心とした対面式で実施されます。基本講義やグループ学習の知識を前提としつつ、より実務的にした内容を取り扱っていきます。
実務研修
実務研修は実際に起きている現実の裁判を通して実践的な知識や能力を身に着けるための研修です。座学の講義だけでなく、実際に簡易裁判所へ行き裁判を傍聴します。
本当の裁判を傍聴することで、ゼミナールまでに学んだ知識がどう使われるのか理解できるでしょう。傍聴した裁判に関する講師からの説明や質疑応答を通じて理解を深めるという実践的な内容です。
模擬裁判
模擬裁判は受講者に役を割り振って架空の裁判を行い、実践的な能力を身に着ける講義です。裁判官や訴訟代理人などの役を演じることで知識や技術を習得することが目的です。
模擬裁判は研修でも終盤に実施される予定です。これまで座学で学んだ内容の応用編とも言えます。言い換えれば研修で学んできた内容が前提になっているとも言えます。
総合講義
総合講義は訴訟代理人として求められる事柄全般に関する講義です。知識や技術というよりはむしろ倫理観や責任感、道徳観など意識的な内容を中心に扱います。
総合講義は受動的な内容ではなく、講師からの質問に対して答えていくというスタイルで行われます。ゼミナールや模擬裁判がそうであったように、知識だけにならないような内容になっているとも言えますね。
認定考査の難易度・合格率
研修を終えた後には認定考査があります。認定考査は難易度が高く、ただ講義に参加していただけで合格できるような易しいものではありません。
認定考査は全て記述式です。70点満点中40点を取れば合格できます。直近10年の合格率を見てみましょう。
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2022年 | 643人 | 420人 | 65.3% |
2021年 | 591人 | 417人 | 70.6% |
2020年 | 625人 | 494人 | 79.0% |
2019年 | 936人 | 746人 | 79.7% |
2018年 | 874人 | 337人 | 43.1% |
2017年 | 915人 | 526人 | 57.5% |
2016年 | 940人 | 556人 | 59.1% |
2015年 | 987人 | 649人 | 65.8% |
2014年 | 1,062人 | 741人 | 69.8% |
2013年 | 1,196人 | 830人 | 69.4% |
データ出典:法務省 簡裁訴訟代理等能力認定考査
表を見てわかる通り、2019年から合格率が急激に上昇し、近年は6~7割の合格率となっています。
ただし、2018年度までは4-5割の合格率であったために、合格率が大きく変動する可能性もあります。 よって来年度はどちらに難易度が転ぶかわからないため、考査を受けるまでにしっかりと研修内容を復習しておくとよいでしょう。
特別研修の費用
特別研修の受講には145,000円の費用が掛かります。これに加えて、認定考査も別途10,900円掛かります。つまり、認定司法書士になるには合計で155,900円もの大金が必要です。
純粋な費用はこれだけですが、住居と研修開催地によっては宿泊費や交通費なども必要です。研修は1度でも欠席すると無効になるので、宿泊地も意識して選びましょう。
研修参加中は研修にかかりきりになることが予想されるため、収入も低下します。そのため、研修は時間もお金もかなりのコストが必要になると覚悟しておきましょう。
認定考査の受験における注意点
認定考査にはいくつか重大な注意点があります。ある意味で司法書士試験よりも重大な注意が必要です。
まず、受験資格が厳しく制限されていることです。特別研修に参加するのは当然として、1つでも参加していない講義があると考査を受けられません。
また、研修で出された課題もすべて提出する必要があります。こちらも課されたすべての課題です。研修を修了するだけでもかなり大変です。
次に、認定考査が年に1度しか行われないことにも注意しましょう。このチャンスを逃すと自ずから翌年に再受験することになってしまいます。
そして、考査そのものの難易度が高いことが挙げられます。まじめに研修を受けたとしても、おおよそ40%ほどの人が不合格になってしまいます。
考査では、司法書士試験の内容に関連した内容も問われます。そのため、司法書士試験から間を開けずに考査試験を受けた方が司法書士試験の知識を役立てられて有利でしょう。
最後に、研修及び考査の費用の高さです。合計15.5万円なので、再受講することになってしまうとかなりの負担です。絶対に一度で研修をパスし、考査も合格しましょう。
認定司法書士と弁護士の業務争い
認定司法書士は小規模の訴訟であれば訴訟代理人になることができます。しかし、本来は法律行為を代行できるのは弁護士の本業のはずです。それゆえ、認定司法書士と弁護士との間で業務争いになることもあります。
基本的に裁判業務は弁護士が行う業務です。弁護士は司法書士や税理士、弁理士などとは異なり、法律業務全般を制限なく行える唯一の資格です。
司法書士の元々の主な仕事は登記などの法的文書の作成代行や法務局への申請手続きです。認定司法書士の簡裁訴訟代行等業務はあくまで付加的な業務です。
そのため、司法書士が法律行為を行うことに意義を唱える弁護士もいます。弁護士の業務範囲を犯しているということですね。
一方で、認定司法書士の側に問題があることもあります。認定司法書士が訴訟代理人になることへの制限を犯していることがあるのです。権限を越えているということです。
また、裁判の規模が当初の予定よりも大きくなることもあります。140万円を超えた場合、認定司法書士の行った和解や調停は無効であるという判例もあります。依頼人、相手方双方にとっても厄介ですね。
認定司法書士が行えるのは簡易裁判所が扱うもののみです。当然、控訴や上告が起きると以降は弁護士の業務となります。複雑な訴訟ならば初めから弁護士に依頼する方が良いという人もいます。
上記のような理由から認定司法書士と弁護士との間には争いが起きています。認定司法書士を目指す場合には業務範囲を逸脱しないようにくれぐれも注意しましょう。
認定司法書士になるのは意味がない?
認定司法書士は訴訟代理人になれますが、取り扱える業務範囲には厳しい制限があります。では、認定司法書士になる意味はないのでしょうか?
意味がないとは言えません。そもそも認定司法書士制度が導入されたのは弁護士不足や法律過疎地の問題に対応するためです。
簡易裁判を頼める法律家が増えるることで法的インフラが整っていくとも言えます。認定司法書士のおかげで困っている人が相談しやすくなるのも事実です。
司法書士にとっても、厳しい研修や考査を突破することで箔がつきます。実際、多くの司法書士が研修と考査を受けています。変化の激しい時代なので、少しでも業務範囲を広げておいて損はないでしょう。
認定司法書士と司法書士の違いまとめ
認定司法書士と司法書士の違いまとめ
- 認定司法書士は小規模な訴訟で代理人になれる。
- 研修と考査で15万円もの大金が必要。
- 考査の合格率は60%ほど。
- やりがいは大変大きい。
この記事では認定司法書士と司法書士の違いについて紹介してきました。認定司法書士は普通の司法書士よりも幅広い業務を行うことができます。
認定司法書士になるには特別な研修と考査を受ける必要があります。かなりの高額が必要なうえ、合格率も低くハードルは高いです。
しかし、認定司法書士は弁護士のように直接依頼人を助けることができるので、とてもやりがいがあります。やりがいや司法書士としての箔を求める人にはぜひおすすめです!