行政書士は源泉徴収を受けないの?報酬やマイナンバーについての規定を解説
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行政書士
宮城彩奈
「行政書士の先生に報酬を支払う場合、源泉徴収は必要なのだろうか?」
「税理士や社労士の先生と、報酬の支払い方法が違うって聞いたことあるような・・・」
源泉徴収の概念はなかなか難しく、このような疑問を持っている人も多いかと思います。
そこでここでは行政書士の源泉徴収に関して、必要の有無やその理由・根拠などについて紹介します!
この記事を読めば、行政書士の源泉徴収についての理解が深まることでしょう。
行政書士の源泉徴収についてざっくり説明すると
- 行政書士の報酬に対しては源泉徴収を行わなくてもよい
- ただし、行政書士の本来業務外の場合などは例外あり
- 理由は様々な説があるが、報酬が少額で細かく、顧客が不特定多数にわたるため把握が大変ということが理由
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行政書士の報酬には源泉徴収が不要?
サラリーマンやアルバイトなど、いわゆる勤め人にとっては「源泉徴収」という言葉は馴染みのあるものだと思います。
簡単に説明すると、会社から支払われる給与に対して課される所得税について、あらかじめ給与から天引きされる仕組みのことを指します。
実は行政書士にはこの源泉徴収というものが存在しないということをご存知でしょうか?
行政書士には源泉徴収欄がない
企業として行政書士に申請書の作成などの専門業務を行ってもらった場合には、その行政書士に対して報酬を支払うことになります。
この時、請求書の内容をよく見てみると、社労士や税理士など他の士業の場合には所得税が天引きされた額が請求金額となっていますが、一方で、行政書士の場合には所得税が差し引かれていません。
このため、所得税の天引きをしないで報酬を払ってもよいのか悩む人が多いようです。
行政書士には源泉徴収をしなくてよい
結論としましては、「行政書士には源泉徴収を行わなくてもよい」ものとなっています。
また、行政書士に報酬を渡す企業についても、その行政書士に対して「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を発行する必要がないこととなっています。
この主な根拠として、以下で紹介する法的な根拠が大きく絡んでくるのです。
マイナンバーの収集も不要
上記のとおり、行政書士には支払調書を作成する必要がないため、その行政書士のマイナンバーを収集するということも、当然のことながら必要ありません。
この点は源泉徴収と並んで、行政書士の非常に特異な点であるといえるでしょう。
源泉徴収が不要である理由
では、なぜ行政書士だけが源泉徴収を受けずに済むのでしょうか?
そんな疑問を抱いている人も多いかと思いますが、それには明確な理由があるのです。
立法根拠は所得税法
源泉徴収が不要な根拠は所得税法にあり、所得税法204条第1項第2号には以下のとおり記載があります。
居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない。 所得税法204条第1項第2号
続いて、その対象としては以下のとおり記載があり、この中には行政書士が含まれていないことが分かります。
弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、測量士、建築士、不動産鑑定士、技術士その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金 所得税法204条第1項第2号
さらに、念のため、条文中の「その他これらに類するもの」の中に行政書士が含まれているかどうか調べてみます。
すると、所得税法施行令第320条第2項には以下のとおり記載があり、ここにも行政書士が含まれていないことが分かります。
法第204条第1項第2号に規定する政令で定める者は、計理士、会計士補、企業診断員(企業経営の改善及び向上のための指導を行う者を含む。)、測量士補、建築代理士(建築代理士以外の者で建築に関する申請若しくは届出の書類を作成し、又はこれらの手続を代理することを業とするものを含む。)、不動産鑑定士補、火災損害鑑定人若しくは自動車等損害鑑定人(自動車又は建設機械に係る損害保険契約(保険業法第2条第4項(定義)に規定する損害保険会社若しくは同条第9項に規定する外国損害保険会社等の締結した保険契約又は同条第18項に規定する少額短期保険業者の締結したこれに類する保険契約をいう。)又はこれに類する共済に係る契約の保険事故又は共済事故に関して損害額の算定又はその損害額の算定に係る調査を行うことを業とする者をいう。)又は技術士補(技術士又は技術士補以外の者で技術士の行う業務と同一の業務を行う者を含む。)とする。 所得税法施行令第320条第2項
以上の法的根拠から、行政書士は法律上源泉徴収を行わなければならない対象者に含まれていないことから、報酬の支払者も源泉徴収を行わなくても良いことになります。
徴収しなければならない時も存在
これまで見てきましたとおり、行政書士は基本的に源泉徴収を行わなくてよいものとなっていますが、例外的に徴収しなければならないケースも存在します。
例えば、先ほどの法令の定めにより建築基準法関係の申請や届出のための書類作成を行う場合や、セミナー・講演会など行政書士本来の業務から外れたことを行う場合です。
このような対象業務にカウントされない場合には、源泉徴収の対象になり得るということを留意してください。
どうして行政書士だけ得するの?
次に疑問に思うこととしては、「どうして行政書士だけ得するのだろうか?」ということだと思います。
行政書士だけ源泉徴収を行わなくてよいことになっている理由については、様々な説が存在しています。
様々な憶測があった
行政書士が所得税の源泉徴収を受けなくてもよくなった理由については、代表的なものとして2つあります。
1つめは、「行政書士は1つの案件当たりの平均報酬額があまりにも低いため、わざわざ税金を徴収しなくてよい」という説です。
2つめは、「法律を作ったときに『昔からある信頼できる資格だから税金徴収しなくても良くない?』という優しい雰囲気があった」という説です。
この憶測の答えとしては、所得税法制定時に、行政書士が不特定多数のクライアントからそれぞれ細かく報酬を受け取っており、その実情を把握しきれなかったという行政書士特有の業務事情が考慮されたためです。
業務事情を配慮
実際のところは、法律を作る際に「報酬が少額で細かく、枚数主義である上に顧客が不特定多数となってしまい把握が大変」という行政書士特有の業務事情が考慮されたため、源泉徴収を免れることができたとされています。
ちなみに、このことは1992年の北海道行政書士会の調査によって明らかとなった経緯にあるのです。
本記事に関することは、国税庁のホームページにも掲載されていますので、是非ご参照ください。
行政書士の源泉徴収まとめ
行政書士の源泉徴収まとめ
- 行政書士の報酬に対して源泉徴収は必要なし
- ただし「建築基準法関係の申請・届出のための書類作成」や「セミナー・講演会といった本来業務外」の場合には例外的に源泉徴収の必要あり
- 理由は「報酬が少額で細かく、枚数主義である上に顧客が不特定多数となってしまい把握が大変」であるため
今回は行政書士の源泉徴収について、様々な観点から解説しました!
なかなか難しい概念ではありますが、少しでも皆さんの理解の一助になれば幸いです。