保育士の人数は不足している?潜在保育士の現状から改善のための対策法まで解説!
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「保育士の人数はどうして不足しているの?」
「潜在保育士をもっと活用できれば良いのに」
そう思っている方は多いのではないでしょうか。
保育士が不足していることは以前から問題になっていますが、実は保育士の免許を持っている人は多くいると言われています。
ですが、保育士の人数が不足している背景には、様々な事情が隠されています。
そこでこの記事では、保育士の人数不足の問題を中心に、潜在保育士の現状や活用方法まで保育士不足に関する情報を網羅してまとめました。
保育士を目指している方だけでなく、既に保育士の資格を持っている方も、ぜひしっかり読んで参考にしてくださいね!
保育士の人数不足についてざっくり説明すると
- 保育士はここ数年かなり不足しており、なかなか理想の数には達していない
- 保育士の資格がありながら保育士として働いていない「潜在保育士」がかなり多いと言われている
- 潜在保育士が保育士として働くための取り組みが全国で行われている
- 保育士の待遇改善について国主導の改革が急ピッチで進んでおり、効果が期待される
保育士の人数はどれくらい?
保育士の人数は2020年(令和2年)時点で約64万5000人とされています。
また、社会福祉士施設等に従事していない保育士は全国で102万8000人となっています。
しかし、実は保育士の資格登録をしている人は全国で167万3000人にものぼります。実際に保育士として働いている人と比較すると、かなり多いことがわかりますね。
保育士の資格を持っていても働いていない人が半数以上いるというのが、今の日本の実態なのです。
保育士の人数は不足しているのが現状
平成26年に厚生労働省が発表した「保育士人材確保のための「魅力ある職場づくり」にむけて」によると、「平成29年度には約46万人の保育士が国内に必要」とされていました。
しかし先ほどのデータを見ますと、平成25年(2013年)の時点で保育士の人数は約40万人弱で、以降もさほど増えていません。
保育士の人数は理想と比べるとかなり少なく、供給が追い付いていません。2020年現在でもかなり不足しているのが実情です。
多くの都道府県で人材が不足している
保育士の求人は、1月にピークになると言われています。そのため先ほどご紹介した厚生労働省のデータは、1月の求人倍率をもとにしています。
保育士に関するデータをもう少し詳しく見ると、各都道府県の1月の求人倍率は1倍、もしくは1倍を切っている地域もあります。特に地方部では倍率がかなり低い傾向があります。
倍率が低いということは、求人に対して応募少ないことを表します。多くの県では保育士の人手が不足し続けており、現在においても回復の見込みは立っていません。
人材不足を解消するための対策
保育士の人材不足を解消するためには、どのような対策を取れば良いのでしょうか。
保育士確保プランを実施
平成27年1月に厚生労働省から「保育士確保プラン」という施策が打ち出されました。
これは平成29年度末までに保育士の数を必要数確保するための施策で、主に以下のような内容を実施しています。
- 保育士試験を年2回実施
- 処遇改善の実施
- 学生への保育所就職支援
- 保育士受験のための学費支援
- 保育士の再就職支援の強化
- 福祉系国家資格所持者に向けて、保育士の受験科目の免除
- 保育士確保施策の「4本柱」の強化
最も大きな変化は、保育士試験が年1回から2回に増えたことです。以前よりも保育士の資格が取りやすくなったため、保育士の人数増加に期待が持てます。
さらに「処遇改善の実施」では、主に給料の改善が試みられました。月収を6000円程度上げ、さらに役職や勤続年数に応じても給料が上がるように改善されています。
2019年度からは「保育士確保集中取り組みキャンペーン」も開始
「保育士確保プラン」の実施により若干の効果はあったものの、2019年時点においても、保育士の人数は必要水準には達しませんでした。
そこで厚生労働省では、新しく「保育士確保集中取り組みキャンペーン」も開始しました。
これは、2020年度末までに「約32万人分の保育の受け皿を確保する」という目標の上に実施された施策です。主な内容は以下のとおりです。
- 私立保育園などで働く保育士の給料を13%改善(平成25年度以降)
- 技能や経験による最大4万の給料改善
- 保育士の勤務環境改善
保育士確保プランと合わせてかなりの改善になる
保育士の給料は、上記の「保育士の給料を13%改善する」という施策により、先ほどご紹介した「保育士確保プラン」と合わせると「月額4万1000円程度」上がることになりました。
技能や経験によっても給料が上がりますので、全てを合わせるとかなり待遇が良くなることになりますね。
「保育士の勤務環境改善」の項目は、出産などのライフステージの変化に対応するためのものです。保育補助者の雇用支援や運営費の一部を国が負担することで、保育士の配置を手厚く行う手助けをします。
潜在保育士の数が圧倒的に多い
ここまでの施策を行っても、保育士不足はあまり解消されていません。大きな原因のひとつが、潜在保育士の数の多さです。
2020年時点で潜在保育士は約102万8000人いるとされており、これは現役保育士の人数の約64万人を大幅に上回っています。
潜在保育士とは?
潜在保育士とは「保育士資格を持ちながら保育園に就職していない人」のことです。主に以下の2パターンの潜在保育士がいると言われています。
- 保育士の資格を持ちながら保育施設で働いたことのない人
- 過去に保育施設で働いた経験はあるが、現在は働いていない人
特に後者の「過去に保育施設で働いた経験があるが、今は働いていない」パターンの潜在保育士が非常に多く、この中には復職したいと考える方も多いと言われています。
復職を願う保育士の存在は、保育士不足を解消する切り札として注目されています。
私立の保育園で特に多い
潜在保育士は、私立の保育園に特に多いと言われています。
実は私立の保育園では離職率が高いことが大きな問題となっており、具体的な離職率を見ると、私立は12%、公立は7.1%と大きく差があります。
公立に比べて、私立保育園は保育士が辞めていきやすい環境になっているのがわかりますね。
私立保育園の離職率が高い背景には、給与や福利厚生が良くないことが挙げられます。
わかりやすく給料で比較してみましょう。
まず公立保育園ですが、こちらは地方公務員扱いになることから、月収は平均で30万円以上になるとされます。
一方で私立保育園の場合は、平均月収は20万以下とかなり低く、同じ保育士の仕事であるにもかかわらず給料の面で大きな違いが出てしまうのです。
福利厚生にも公務員と一般企業の差が出ますから待遇面での開きがあるのは確実で、こうした点が保育士の不満の原因になっています。退職につながりやすいのは、無理がないかもしれません。
潜在保育士が多い原因
潜在保育士が多い背景には、待遇面の不満が大きいことがわかりましたね。
しかし先ほどご紹介した月収を見ると、他の仕事と比べて著しく低いわけではないと感じた方もいるのではないでしょうか。
それに保育士を目指す方は、資格を取るための勉強や就職活動をする中で、保育士の待遇面についてはある程度調べた上で保育士の仕事に就いているはずです。
それにもかかわらず、「保育士として働きたいのに働けない」のはどうしてなのでしょうか。
仕事量と給与がマッチしてない
私立保育園の2018年度の給与は、全国平均で年収357.9万円、月収では23.9万円となっています。額面だけを見るとそこまで低収入というわけではありませんね。
しかし問題なのは業務の内容です。
保育士の仕事は残業が非常に多いとされています。保育計画書の作成や連絡帳の記入、掲示物の張替えなど子供たちに直接関わる仕事はもちろんのこと、行事の準備や保護者への対応など、日々膨大な業務をこなさなくてはなりません。
「東京都保育士実態調査」の結果では、9割以上の保育士が「仕事量と給与が見合っていない・給与が低い」と感じていることが明らかになっています。
これが潜在保育士の増加に深く関わっていることが指摘されており、改善が望まれています。
労働時間が長い
先ほどのデータ元である「東京都保育士実態調査」では、労働時間についての実態も調査しています。
アンケートの結果、9割以上の保育士が「勤務時間が長すぎる」と回答しています。業務量に関しても「保育以外の業務が多い」という回答が9割以上にのぼりました。
保育士は、子供たちがいる間はどうしてもお世話に集中する必要があります。直接的な保育以外の雑務は子供たちを返してから行うことになりますので残業が増えることは必然とも言えます。
残業時間や勤務時間に関しての不満は非常に多く、20代~50代全ての年代の保育士において共通の意見となっているのです。
人間関係の悩みで辞めてしまう
保育士の重要な仕事は子供と関わることですが、業務を円滑に進めるためには他の保育士との連携や保護者からの信頼が不可欠となります。
同僚や保護者との関係に難しさを感じて辞めてしまう人も一定数いるようです。
保育園の中でも保護者と人間関係を築くためのフォローが必要になります。
潜在保育士の人はどうして復職しないの?
潜在保育士が復職しない理由の中には、先ほどご紹介した「給料が勤務内容に対して割に合わない」ことももちろんあります。
しかし実は給与面以外にも、潜在保育士が復職できない原因はほかにもあると言われています。
家庭との両立を望む人が多い
潜在保育士の中には、家庭との両立が難しいことを理由に復職しない人も多いと言われています。
2011年に厚労省が潜在保育士に向けて調査を行ったところ、潜在保育士の75%が結婚しており、69%には子供がいることがわかりました。
子供がいる状態で保育士として働く場合、育児との両立が必須となります。しかし保育園の勤務時間のことを考えると、仕事と育児を両立することはかなり難しいでしょう。
そのため保育士として働く女性の中には、出産を機に一度離職する人が多いとされています。ある程度したら復職しようと思っていても、子供が小さいうちは仕事にも制限がかかり、働ける保育園も限られてしまいます。
子供がある程度大きくなるまでは復職は難しいと考えるケースも多く、出産後すぐに復職とはいかないのが現状となっています。
ブランク期間が長いため不安がつきもの
潜在保育士の中には、復職したくても体力面に不安がある方が多いと言われています。
出産後に子供がある程度大きくなってから復職しようと思っても、その時には数年のブランクがある状態です。仕事の内容は覚えていても、以前と同じように動き回れるかはわかりません。
保育士は幼児と1日中触れ合う仕事です。元気な子供たちを全力で受け止めなくてはなりませんから、非常に体力を消耗するでしょう。
出産を経験し、数年のブランクの後に再び幼児と接する仕事ができるか、体がもつのか不安に思う潜在保育士はかなり多いようです。
また保育士の業務内容にはピアノの演奏やケガの手当ても含まれます。一度離職してしまったことでこれらの技術感覚がすぐに取り戻せるかわからないと考えている人も多いと言われています。
責任が重くプレッシャーを感じる
保育園では乳幼児から5歳児までの子供たちを預かっており、好奇心旺盛であったり体が丈夫ではなかったりするため目を離せないという緊張感があります。
ちょっとした事故でも小さい子供にとっては命に関わる場面が多くあるため、慣れてない保育士さんは責任感に耐えられず辞めてしまうこともあります。
保護者からの信頼もついてきますが、それが返ってプレッシャーになってしまうことも少なくないようです。
希望条件に合う保育園がない
ここまで挙げた潜在保育士の不安要素については、職場の環境によって埋めることができる内容です。例えばパート勤務をしたり、研修の体勢が整っていれば時短勤務やブランクにも対応できるでしょう。
しかし実際にはこうした環境が整っている保育園は非常に少なく、潜在保育士が簡単に復職するわけにはいかない状況です。
潜在保育士へのアンケートでは「希望条件に合う保育園がないため復職できない」と答えた人が30%にのぼっています。
勤務時間や雇用条件、賃金といった不安が改善されれば、もう一度保育士として働きたいと考えている人は非常に多くいます。復帰したくてもできない社会状況が、潜在保育士を生み出している一番大きな要因と言えるでしょう。
潜在保育士支援の具体例
現在の日本では、潜在保育士にもう一度保育士として働いてもらうために多くの支援が試みられています。
ここでは、潜在保育士支援の具体例をご紹介いたします。
子育て支援を拡充
保育士は女性の割合が非常に多く、子供を持つと働けなくなってしまう保育士が多くいるのが現状です。
そのため「子育て支援」を拡充することで潜在保育士の復職を促す動きがあります。
例えば一部の自治体では、保育士が自身の子供を保育所や学童保育に預ける場合、保育料の半額を負担する施策を行っています。また保育所の中には、保育士の子供を優先的に受け入れているところもあります。
こうした施策によって保育士の育児負担が軽減されれば、保育士が家庭と仕事を両立することも難しくなくなるでしょう。
復職のための研修を実施
潜在保育士の中には、ブランクがあることで復職をためらっている人も多くいます。こうした不安を解消するために、自治体の中では「保育士復職のための研修」に力を入れるところも多くなってきました。
単なる研修だけでなく、研修も含めた保育園見学を取り入れているところもあります。研修の中では急病時の応急処置やアレルギー対応、子供たちとの手遊びの方法なども学びます。
実習によって感覚を取り戻せる
座学による研修だけでは味気ないものですが、実習や見学も取り入れることでブランクによって忘れてしまった内容を思い出すことができます。研修を進めて行く中で保育士の仕事の楽しさも思い出すことができるでしょう。
離職したタイプの潜在保育士は、皆さん一度は保育士として生き生きと働いた経験がある方ばかりです。感覚を取り戻すことさえできれば、もう一度保育士として活躍することができます。
他にも様々な施策を実施
厚生労働省では他にも復職のための様々な対策を行っています。
具体的には、再就職支援のために全国のハローワークと連携を行った「保育士マッチング強化プロジェクト」による雇用の促進や、講習会などのセミナー開催も進めています。
保育所の管理者に対しても研修を行い、より良い職場を作るための施策にも力を入れています。
多方面からアプローチすることで保育士の数を増やし、保育の環境を整える動きが全国で始まっているのです。
潜在保育士を増やさないための離職対策も
保育士を増やす取り組みの中では、潜在保育士の復職だけでなく、そもそも離職の選択をしなくて済むような施策も実施されています。
保育士が離職する理由として一番に挙げられるのは、先ほどもご紹介した「給与面や業務内容が就業前に抱いていたイメージと違うこと」です。
ここを埋めるために、新人保育士に対して就業前後のギャップをフォローする動きが出てきています。
具体的には保育以外の業務、例えば保護者対応や雑務関係についても研修を行うことで、働き始めた後の負担軽減を図っています。助成金を活用することで、職場への定着率を上げようとする施設もあります。
保育士が働き続け安い環境を作れば離職率も減り、結果として保育士を増やすことに繋がります。こうした施策は徐々に効果を表しているようです。
労働環境を改善することが大切
保育士が働きやすいと感じるためには、休日を確保したり残業を減らしたりして労働環境を改善することが何よりも大切です。
また、人間関係についても保護者や同僚との関係に配慮しながらフォローを行なっていくことが大切です。
保育園での人間関係が悪いと、子供たちにまで悪影響を与えてしまう可能性もあります。
これらの問題の解決には、保育園の園長や経営者が適切に仕事を振り分けたり、人間関係に気を配ることが大切であると言えます。
保育士の人数不足まとめ
保育士の人数不足まとめ
- 保育士不足を解消するため、処遇改善などの施策が国主導で行われている
- 潜在保育士の復職率を上げることは、保育士の人数を増やすためのカギのひとつである
- その他にも様々な面から保育士の動労環境の改善が試みられている
保育士の仕事は苛酷な面も多く、給与とのバランスに不満があることから離職してしまった人も多いのは事実です。
しかし保育士の免許を持っている方は、皆さん一度は保育士の仕事に魅力を感じて一生懸命努力してきたはずです。
職場環境が改善されればもう一度保育士として働きたいと考えている人は多いでしょう。
ぜひ研修などの復職対策を利用して、再び保育士の仕事を検討してみてください。