保育士の処遇改善制度の内容は?処遇改善Ⅰ・Ⅱの違いから給与への影響まで解説!
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「保育士の処遇改善制度って何?」
「処遇改善Ⅰと処遇改善Ⅱの違いは?給与へはどう影響する?」
などと疑問をお持ちの方もいるでしょう。
処遇改善等加算は、保育士不足を打開するために国が実施している、保育士の給料アップとキャリアアップに関する政策です。
保育士全員に処遇改善等加算Ⅰが分配され、特定の役職には処遇改善等加算Ⅱも追加されます。
今回は保育士の処遇改善の制度内容について、処遇改善ⅠⅡの違いや給与への影響などを解説します。
これを読めば、複雑な処遇改善等加算の仕組みがよく分かるはずです。
保育士の処遇改善の制度内容についてざっくり説明すると
- 処遇改善Ⅰは非常勤を含む全職員が対象
- 副主任リーダーや職務分野別リーダーなどが新設
- 処遇改善Ⅱでは月額最大4万円が支給される
保育士の処遇改善とは?
昨今、待機児童問題が注目されていますが、その原因の一つには保育士の不足が挙げられます。
保育士は給与などの待遇があまり良くないとされており、離職率が高い職業です。
このような状態を打開するために作られた制度が「処遇改善等加算」になります。
一般的に処遇改善手当と呼ばれるこの制度の目的は、保育士の給料アップとキャリアアップです。
処遇改善手当には処遇改善等加算Ⅰと処遇改善等加算Ⅱがありますが、それぞれでは以下の人件費が国から各保育園に支給されます。
種類 | 人件費 |
---|---|
処遇改善等加算Ⅰ | 「職員の平均経験年数に応じた人件費・賃金改善」・「キャリアアップの取組に応じた人件費」 |
処遇改善等加算Ⅱ | 「技能・経験を積んだ職員の追加的な人件費」 |
自治体ごとの取り組みもある
処遇改善等加算ⅠⅡは国の取り組みですが、保育士不足を改善するために各自治体でも様々な施策が実施されています。
例えば東京都では、処遇改善等加算とは別に毎月4.4万円を支給したり、独自の家賃補助を設けるなどして、保育士数の増加を図っています。
また自治体ごとの取り組みとして話題になったのが「松戸手当」です。千葉県松戸市では各保育士に月4万5,000円の手当が支給されます。また勤続年数に応じて手当は増加し、上限は7万2,000円です。
その他にも月に3万円の家賃補助や保育士になるまでの就学資金援助など、手厚い施策が行われています。
このような取り組みは全国の自治体によって行われており、大阪市でも保育士としての就職支援金に40万円の貸付を行うなどの制度があるようです。
賃金改善を期待できる処遇改善等加算Ⅰ
処遇改善等加算Ⅰは、賃金の改善及びその実施状況の把握を目的に、平成27年度から導入されています。
賃金は平均経験(勤続)年数に応じて改善される仕組みです。平均経験年数とは、各施設・事業所に在籍する職員の勤続年数を全て合算し、それを対象職員数で割った値を指します。
ちなみに対象職員とは、非常勤職員を含む「1日6時間以上かつ20日以上勤務する全ての職員」のことです。
処遇改善等加算Ⅰにおける賃金改善は、基礎分・賃金改善要件分(キャリアパス要件分を含む)から構成されています。
以下では、これらについて解説しましょう。
基礎分は経験年数に応じて加算率が設定されている
基礎分の加算率は、平均経験年数に応じて2%〜12%で設定されます。平均経験年数が0年の場合、加算率は2%です。
それから1ポイントずつ上昇していき、平均経験年数10年以上の加算率は一律12%となります。基礎分の加算額は、昇給などに適切に充当されなければなりません。
ちなみに平均経験年数を算出する際には、現在勤務する保育園などの施設・事業所以外に、以下の施設等での経験年数も合算することが可能です。
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幼稚園・小学校・中学校・高等学校・中等教育学校・特別支援学校・大学・高等専門学校・専修学校
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社会福祉事業を行う施設・事業所
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児童相談所における児童を一時保護する施設
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認可外保育施設
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病院・診療所・介護老人保険施設・助産所
賃金改善要件分は計画・報告が必要
賃金改善要件分では、賃金改善計画書の作成と賃金改善実績報告書の提出が必要です。
賃金改善計画書には、賃金改善の見込み総額や期限、内容などを記載します。一方で賃金改善実施後の状況を振り返り、その内容を詳細に記録するのが賃金改善実績報告書です。
なお、賃金改善要件分にはキャリアパス要件分が含まれ、これを含まない場合は2%の減額がなされます。
賃金改善の方法は以下の通りです。
-
賃金改善総額は、賃金改善要件分に係る処遇改善等加算の額以上であること
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賃金改善の対象項目以外も含め、基準年度の賃金水準を低下させてはならない
-
処遇改善等加算は、定期昇給とは別の上乗せとして賃金改善を行う
-
賃金改善の対象となる賃金項目は、手当や一時金ではなく、基本給とする
賃金改善要件分にはキャリアパス要件分を含む必要がある
キャリアパス要件分とは以下のような内容を指します。
-
役職や職務内容等に応じた勤務条件・賃金体系の設定
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資質向上の具体的な計画策定及び計画に沿った実施又は研修機会の確保
-
職員への周知 など
そもそもキャリアパス(career path)とは、昇進や昇給に至るまでの道筋のモデルのことを指します。
つまりキャリアパス要件分を賃金改善分に含める目的は、保育士としてのキャリアアップの機会及びそれに至るまでの道筋を明確にし、それに関連した賃金改善を行うことです。
キャリアアップの仕組みを構築するための処遇改善等加算Ⅱ
従来までは保育士の役職が少なかったため、若手の保育士にとってはキャリアアップのチャンスが限られていました。
そこで保育士にも細かく役職を設定することによって、キャリアアップの機会を増やそうという制度が処遇改善等加算Ⅱです。
この制度では、新たに職務分野別リーダー・専用リーダー・副主任保育士という役職が設けられました。
またそれぞれの昇給に応じた賃金改善も実施されます。具体的な改善金額は、職務分野別リーダーで月額5,000円、専門リーダー・副主任保育士で月額4万円です。
処遇改善Ⅱの要件
それぞれの役職に就くには以下の要件を満たす必要があります。
月額4万円の処遇改善の対象者 | 月額5千円の処遇改善の対象者 |
---|---|
副主任保育士等の職位の発令・職務命令 | 職務分野別リーダー等の発令・職務命令 |
経験年数が概ね7年以上 | 経験年数が概ね3年以上 |
4分野以上の研修を修了していること | 担当分野の研修を修了していること |
上記の経験年数はあくまで「概ね」であり、処遇改善の対象となるかどうかは各施設の状況を考慮した上で決定されます。
さらに加算額が適切に賃金改善に充てられるよう、処遇改善等加算Ⅰと同様に、賃金改善計画の作成・実績報告が必要です。
各役職の定員
それぞれの役職の定員は以下のように定められています。
役職 | 定員 |
---|---|
副主任保育士・専門リーダー | 園長と主任保育士を除く全体の概ね1/3 |
職務分野別リーダー | 園長と主任保育士を除く全体の概ね1/5 |
よって定員90人である標準規模の保育園では、以下のような職員の構成になります。
役職 | 人数 |
---|---|
園長 | 1人 |
主任保育士 | 1人 |
副主任保育士・専門リーダー | 5人 |
職務分野別リーダー | 3人 |
その他の保育士 | 4人 |
調理員等 | 3人 |
合計 | 17人 |
ちなみに、それぞれの平均勤続年数は園長が24年、主任保育士が21年、保育士等が8年です。
処遇改善Ⅱの配分方法
職員への配分方法は以下の通りになります。
-
月額4万円又は月額5千円の加算対象人数分(園長・主任保育士等を除いた職員の概ね1/3又は1/5)を支給
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副主任保育士等への配分は、実際に月額4万円の賃金改善を行う職員を加算対象人数の1/2(端数切り捨て)以上確保した上で、副主任保育士等、職務分野別リーダー等に配分(月額5千円~4万円未満)
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職務分野別リーダー等への配分は、加算対象人数以上確保する(月額5千円~副主任保育士等の最低額)
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法人内の他の施設の職員の賃金改善に充当可(2022年度までの時限措置・加算額の20%の範囲内)
キャリアアップ研修の内容理解も必須
処遇改善等Ⅱの要件には、キャリアアップ研修の修了が含まれます。各都道府県又は各都道府県知事が指定した機関で実施されるこの研修の内容は以下の通りです。
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乳児保育
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幼児教育
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障害児保育
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食育・アレルギー対応
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保健衛生・安全対策
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保護者支援・子育て支援
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保育実践
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マネジメント
1つの研修を修了するには15時間(2〜3日)程度を要します。役職によって研修内容は異なるため、目指す役職がある場合は以下の内容を参考にしてください。
各研修分野の内容
キャリアアップ研修における各分野のねらい及び内容は以下の通りです。
研修分野 | ねらい | 内容 |
---|---|---|
1.乳児保育 | 乳児保育に関する理解を深め適切な環境を構成できるようになる・個々の子供の発達状況に応じた保育を行う力を養う・他の保育士等に乳児保育に関する適切な助言及び指導ができるようになる | 乳児保育の意義・乳児保育の環境・乳児の発達に応じた保育内容など |
2.幼児教育 | 幼児教育に関する理解を深め適切な環境を構成できるようになる・個々の子供の発達状態に応じた幼児保育を行う力を養う・他の保育士等に幼児教育に関する適切な助言及び指導ができるようになる | 幼児教育の環境・幼児の発達に応じた保育内容・小学校との接続など |
3.障害児保育 | 障害児保育に関する理解を深め適切な障害児保育を計画できるようになる・個々の子供の発達状況に応じた障害児保育を行う力を養う・他の保育士等に障害児保育に関する適切な助言及び指導ができるようになる | 障害の理解・障害児の発達の援助・家庭及び関係機関との連携 |
4.食育・アレルギー対応 | 食育に関する理解を深め適切に食育計画の作成と活用ができるようになる・アレルギー対応に関する理解を深め適切にアレルギー対応ができるようになる・他の保育士等に食育及びアレルギー対応に関する適切な助言や指導ができるようになる | 栄養に関する基礎知識・アレルギー疾患の理解・保育所における食事の提供ガイドラインなど |
5.保健衛生・安全対策 | 保育衛生に関する理解を深め適切に保健計画の作成と活用ができるようになる・安全対策に関する理解を深め適切な対策を講じることができるようになる・他の保育士等に保健衛生及び安全対策に関する適切な助言や指導ができるようになる | 保健計画の作成と活用・事故防止及び健康安全管理・保険の場において血液を介して感染する病気を防止するためのガイドラインなど |
6.保護者支援・子育て支援 | 保護者支援及び子育て支援に関する理解を深め適切な支援を行うことができる力を養う・他の保育士等に保護者支援及び子育て支援に関する適切な助言や指導ができるようになる | 保護者に対する相談援助・地域における子育て支援・虐待予防など |
7.保育実践 | 子供に対する理解を深め保育者が主体的に様々な遊びと環境を通じた保育の展開を行うために必要な能力を身に付ける | 保育における環境構成・子供との関わり方・物を使った遊びなど |
8.マネジメント | 主任保育下のミドルリーダーの役割を担う立場に求められう役割と知識を理解する・自園の円滑な運営と保育の質を高めるために必要なマネジメント及びリーダーシップの能力を身に付ける | マネジメントの理解・リーダーシップ・働きやすい環境づくり |
なお、乳児教育とは主に0〜3歳までの未満児を対象とする一方で、幼児教育とは主に3歳以上を対象にした保育内容です。
各職種で必要な研修一覧
各職種で必要な研修は以下の通りです。
役職 | 研修 |
---|---|
副主任保育士 | 「8.マネジメント」+3つ以上の分野 |
専門リーダー | 4つ以上の分野 |
職務分野別リーダー | 1〜6で担当する職務分野 |
職務分野別リーダーに関しては、担当する分野の研修を受講するため、研修修了後は「乳児保育リーダー」や「食育・アレルギーリーダー」などの肩書きを持つことになります。
また同一分野で複数の職務分野別リーダーを配置することも可能です。
研修修了は全国で通用する
キャリアアップ研修を修了すると、都道府県もしくは実施機関から修了証が交付されます。この修了証は全国で有効です。
そのため、他の都道府県で保育士としての転職活動を行う際にも役立ちます。よって、例えば夫の転勤に際して、新たな場所で保育士としての勤務先を探す場合でも、役職に就くことが可能です。
また育児や介護などで一度保育士を辞め、再就職する場合でも修了証で研修実績を証明することが可能です。
ちなみに、研修修了者の情報管理は都道府県や研修実施機関が行います。研修を修了すると自らの保育士登録番号や氏名、生年月日、住所などの情報が研修修了者名簿に記載されます。
保育士によって処遇改善の金額は違う
補助金の支給方法は各保育園の裁量に任せられています。そのため、保育園ごとに配分などが異なります。
また支給の形式も様々です。月々の給料に上乗せされる場合もあれば、ボーナスに付け加えられる場合もあります。
条件を満たしても配分されない場合が存在
上記で解説したように、処遇改善等加算Ⅱにおける「職員への配分方法」では、月額4万円の賃金改善を行う職員を加算対象人数の1/2以上確保するという決まりになっています。
つまり、副主任保育士等(月額4万円の対象者)の半分に賃金を配分すれば、残りの者には支払わなくても構わないという意味です。
そのため、副主任保育士等に関しては、処遇改善等加算Ⅱが配分されない可能性があることを理解しておきましょう。
一方で職務分野別リーダーに関しては、加算対象人数以上確保する決まりなので、必ず配分を受け取ることができます。
処遇改善Ⅰと処遇改善Ⅱの違い
処遇改善等加算Ⅰも処遇改善等加算Ⅱも、保育士の給料アップ・キャリアアップを促進するという目的は同じです。
両者の違いとしては加算方法や内容、対象者が違います。詳細は以下の通りです。
加算方法 | 内容 | 対象者 | |
---|---|---|---|
処遇改善Ⅰ | 定率加算 | 基礎分:平均勤続年数に応じて2〜12% 賃金改善要件分:基本は5% | 非常勤職員を含む全職員 |
処遇改善Ⅱ | 定額加算 | 副主任保育士s等:月額4万円 職務分野別リーダー:月額5千円 | 副主任保育士等・職務分野別リーダー |
保育士と処遇改善のパターン
これまでの説明から「結局私はいくら貰えるの?」と疑問を持った方もいるはずです。いくら貰えるかを明言することはできませんが、処遇改善のパターンは以下の3つに区別できます。
パターン | 処遇改善 |
---|---|
非常勤職員を含む全ての職員 | 基本給+処遇改善等加算Ⅰ |
職務分野別リーダー | 基本給+処遇改善等加算Ⅰ+月額5千円の処遇改善(処遇改善等加算Ⅱ) |
副主任保育士・専門リーダー | 本給+処遇改善等加算Ⅰ+月額4万円の処遇改善(処遇改善等加算Ⅱ) |
なお、先述した通り、副主任保育士・専門リーダーに関しては、全員に月額4万円が配分されるとは限りません。
結局「保育士手当」はいくら貰えるのか
処遇改善等加算の支給方法は設置者・事業者によりますが、処遇改善等加算Ⅰに関しては基本給として支給するのが望ましいとされています。
そのため、いわゆる「保育士手当」として毎月いくらかが支給されるというわけでは必ずしもありません。国が示す処遇改善等加算Ⅰは具体例は以下の通りです。
-
給与規定や給与表等の見直しによる基本給の改善
-
定期昇給すべき昇給の改善(定期昇給による昇給を1号給→2号給の昇給に改善)など
このように処遇改善等加算Ⅰに関しては、保育士手当が毎月貰えるというよりも、月々の給与がいくらか上がるというイメージを持つと良いでしょう。
また処遇改善等加算Ⅱに関しては、園長・主任保育士を除く保育士等のうち、半数以上は補助金が配分される可能性を持ちます。
処遇改善における課題も存在
現状の処遇改善をより良くするためには、処遇改善等加算の実施確認の徹底と実施する設置者・事業者への支援強化が必要であると言われています。
なぜなら今の処遇改善制度においては、賃金の偏りと設置者・事業者の理解不足が課題になっているからです。
賃金の偏りを解消するには、適切に処遇改善等加算が実施されるように、実施指導や実施状況の確認を強化する必要があります。
賃金改善を必要とする全ての保育士にきちんと補助金が行き渡るという状況を作り出さなければなりません。
また実際に処遇改善等加算を実施する設置者・事業者へのサポートも必要です。処遇改善等加算の仕組みを設置者・事業者が理解していなければ、適切な処遇改善等加算の実施は実現されません。
そのためには、集団説明会の開催や施設ごとの状況に応じた相談対応などを行う必要があるでしょう。
保育士の処遇改善の制度内容まとめ
保育士の処遇改善の制度内容まとめ
- 処遇改善Ⅰでは基礎分として最大12%の定率加算
- 役職に就くにはキャリアアップ研修の修了が必要
- 賃金の偏りや設置者・事業者の理解不足が課題
保育士の処遇改善の制度内容について解説しました。
処遇改善等加算の制度によって、保育士の給与事情は大きく改善しています。処遇改善Ⅰでは非常勤を含む全職員の給料が底上げされ、処遇改善Ⅱではさらに月額最大4万円が上乗せされるのです。
また処遇改善Ⅱによって、副主任保育士や専門リーダー、職務分野別リーダーという役職が追加され、保育士のキャリアアップの道が広がりました。
ちなみにこれらの役職の就くにはキャリアアップ研修の修了が必要です。
処遇改善等加算によって、保育士は随分魅力的な職業になったと言えます。よって、これから保育士になりキャリアアップを目指すのも良いでしょう。