土地家屋調査士は食えないのはウソ?仕事がないと言われる理由や実際の需要を解説!
「土地家屋調査士は食えない、仕事ないって本当?」
「そのように噂される理由は?需要や将来性の実態はどうなの?」
などと疑問をお持ちの方もいるでしょう。
土地家屋調査士は、不動産の表示に関する登記についての独占業務を持ち、平均年収は600万円前後とも言われる職業・国家資格です。
しかし昨今、そんな土地家屋調査士に「食えない」「仕事ない」といった噂があります。
今回はそのような噂が本当なのかについて、仕事がないと言われる理由や需要・将来性の実態を含めて解説するので参考にしてください。
土地家屋調査士は食えないのかについてざっくり説明すると
- 仕事がないのは嘘
- 不動産登記に関する需要は安定
- 新たな業務も生まれている
- 食えない調査士ほどネットに書き込むという事情も
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土地家屋調査士は食えないと言われる理由
土地家屋調査士は、不動産の表示に関する登記にまつわる土地・家屋の調査や、各種手続きの代理を行う職業及び国家資格です。
試験の難易度が高いので一定の希少価値があり、独占業務も有していますが、昨今は「食えない」と言われることもあります。
そう言われる背景には、以下のような状況が存在します。
景気や人口減少で仕事が減っている?
景気が好調であったかつては、不動産取引や建設が活発で、土地家屋調査士の仕事もたくさんありましたが、景気が停滞している最近は案件が減ってきています。
新型コロナウイルスの流行による移動の制限や、東京オリピックの規模縮小なども、土地家屋調査士にとっては向かい風です。
また人口減少と不動産取引の減少や不動産価値の低下を結びつける議論もあります。
収入が減少している場合もある
2003年に規制緩和の一環で、法務大臣認可の報酬規定が廃止され、報酬額の自由化が実現しました。
その結果、土地家屋調査士の1件あたりの報酬単価が下落してしまったことも、「食えない」と言われる一因です。
自由化の前は比較的高かった土地家屋調査の年収ですが、現在は一般的なサラリーマンとそれほど変わらないとも噂されています。
AIに仕事が代替される可能性も
オックスフォード大学の研究者がが2013年に書いた『The Future of Employment: How susceptible are jobs to computerisation?(雇用の未来:職は機械化にどのように影響されるか)』という研究報告書は、注目に値します。
本書が指摘した10年以内になくなる確率が高い職業には、測量技術者や地図制作技術者などが含まれていたからです。
実際、測量や地図制作はデジタル化が進んでおり、今後はそうした業務がAIによって代替されることも増えてくるでしょう。
新規に仕事を獲得する余地がない
地方によっては、地域に密着したベテランの土地家屋調査士がいることがあります。
そうしたベテランは、そこの不動産業者や地主などとの間に強力なコネクションを持っており、新規参入して競合として戦うのは大変です。
またそのような大先生がいなくとも、顧客を獲得するには一定上の営業力やコネが必要であり、新規参入のハードルは決して低くないと言えます。
土地家屋調査士で独立開業に失敗する理由
土地家屋調査士が独立開業してもうまくいかないのには、以下のような理由が考えられます。
土地家屋調査士の法人増加で競争激化
参照:日本全国あなたの近くの土地家屋調査士, p.77, 土地家屋調査士人口の推移
上記の通り、土地家屋調査士の法人数は、日本人の人口と反比例するように増加の一途をたどっており、競争の激化は避けられそうもありません。
事務所の初期費用と維持費が膨大
土地家屋調査士として事務所を構えるには、初期費用として事務所の敷金・礼金に、AO機器・図面作成ソフト・測量機器などの購入費などがかかります。
購入費はざっと300万円程度であり、レンタルの場合は月に数十万円が必要です。
それらの出費に加えて、人件費や消耗品費、事務所の賃料なども要るため、経済的な負担はかなり大きいと言えます。
人脈がなくて案件が獲得できない
事務所の経営を続けていくためには、安定して案件を獲得し続ける必要があります。
それをなし得るには人脈が欠かせないので、独立前にある程度力のある人間と知り合いになっておくのが望ましいです。
人脈が全くない状態で、独立して成功を収めるのはかなり難しいと言えます。
相当の営業力と強運の持ち主でなければ実現できません。
事務所の立地がよくない
田舎は家賃が安くて事務所を構えやすいですが、土地の流動性が低いため、案件を獲得しにくく、収入も増やしにくいです。
たまにある遺産相続の際の土地分配などは、先ほど紹介したような地域に密着したベテラン土地家屋調査士の専売特許なので、新規参入者が取り入る余地はありません。
以上より、事務所の構えやすさだけでなく、案件の獲得しやすさを考えておかないと、失敗する確率が高いと言えます。
低い価格設定が裏目に出た
地域に根付いて何代も続く大きな事務所が競合になった場合、価格を下げて顧客獲得を図る方法もありますが、これがうまくいくとは限りません。
土地家屋調査士の仕事には、丁寧さが必要であり、数をこなすには限界があるので、採算が合わなくなる可能性があります。
収入を増やそうと仕事を急げば、クオリティが損なわれてしまい、顧客の信頼を得るのは難しいです。
土地家屋調査士は仕事がないはウソ
土地家屋調査士の需要や将来性に関する懸念材料があることは事実ですが、「仕事ない」「食えない」というほど現況や未来が暗いわけではありません。
不動産登記の需要は安定している
不動産登記の際には、境界線の立ち合いや申請手続きのために、必ず土地家屋調査士が求められます。
また不動産価値が下落すれば、投資家の物色が始まるので、不動産取引はむしろ活発化する側面もあります。
さらに少子高齢化も土地家屋調査士にとっては、必ずしもマイナス要因ではありません。
空き家を商業用施設に改築したり、セカンドハウスとして利用したりといった新たな動きが出てきているため、土地家屋調査士の出番も増えてきています。
単価が下落したのは経費が削減されたから
土地家屋調査士の単価が下落したのは規制改革だけが理由ではなく、技術の進歩によって経費が削減されたという事情があります。
機械化の促進によって、測量や図面作成が容易になり、人件費が減ったとともに、土地家屋調査士の業務の負担もずいぶん軽くなりました。
それに伴って、土地家屋調査士の単価も、適正とも言える現在の価格に落ち着いたのです。
価格の変動は削減された経費の分であり、実質的な収入はそこまで変わっていないという見方もできます。
なお、今後はAI技術の発展によって、負担はさらに軽減されると考えられます。
仕事が完全にAIに代替される可能性は低い
測量や図面作成など、機械化できる業務もある一方で、境界の立ち会いの際に隣地所有者と交渉したり、顧客の相談に乗ったりといった人間にしかできない業務も存在します。
後者の人間的な業務には、コミュニケーション能力が必要であり、生身の人間が対応することに意味があるので、土地家屋調査士の業務が完全にAIに代替されることはありません。
高収入の方はネットに書き込む暇がない
インターネットで「食えない」「仕事ない」と書き込むのは、稼げていない土地家屋調査士や試験の不合格者などであると考えられます。
一方でばりばり働いて、高い収入を得ている土地家屋調査士は、多忙なこともあって、自分の収入状況をわざわざネットに書き込むようなことはしないでしょう。
「土地家屋調査士は稼げます」といった書き込みをしても、無駄に新しい競合相手を増やすだけであり、特にメリットはありません。
営業スキル次第で仕事は得られる
各地に根付いたベテランの大先生もいつかは引退するので、引退した後にうまくその後釜に入れれば十分成功できます。
それを実現するには、一件一件の仕事を丁寧に行い、不動産業者からの評判を高めていくことが必要ですが、営業スキルがあれば決して難しいことではありません。
また最近はインターネットやSNSを活用したマーケティングが有効であり、新規参入者はその部分に力を入れるのがおすすめです。
土地家屋調査士の平均年収は約600万円
土地家屋調査士の平均年収は600万円前後と言われており、440万円程度である日本人の平均年収を比較すると、十分に高い水準です。
ただし、600万円というのはあくまで平均値であり、個人差はあります。雇用されている場合は400〜600万円程度であることが多いですが、独立して成功している土地家屋調査士の年収は1,000万円以上です。
雇用されている場合は、一般的なサラリーマンと給料自体はそこまで変わらないこともあるでしょうが、資格があれば1〜2万円の資格手当が支給されることが多く、その分はプラスになります。
年齢の観点では、40代・50代が最も脂の乗った時期で、800万円以上の収入が期待できます。
また20代や60代以上でも十分な収入が得られるケースが多いので、土地家屋調査士は総じて金回りの良い職業だと言えるでしょう。
土地家屋調査士の将来性
ここからは土地家屋調査士の将来性について解説していきます。
高齢化が進み世代交代が求められる
年齢 | 割合 |
---|---|
20代 | 0.2% |
30代 | 4.7% |
40代 | 21.0% |
50代 | 22.5% |
60代 | 24.2% |
70代 | 22.5% |
80代~ | 4.5% |
参照:日本全国あなたの近くの 土地家屋調査士, p.17, 土地家屋調査士の年代構成等
上記の通り、土地家屋調査士の年代構成では、60代以上が4割以上を占めるのに対し、20代・30代を合わせても1割に届きません。
よって世代交代が急務であり、20代・30代の需要は高いと言えます。
独占業務に加えて仕事が多様化している
土地家屋調査士は「不動産の表示に関する登記の代理」という独占業務を持っていることから、もともと需要は安定しています。
最近はその独占業務に加えて、以下のような業務も担当するようになっており、仕事は幅広いです。
越境物に関する業務
屋根などが境界を越えて建設されている場合に、「以後の建て替えの際には境界線の内側に建設すること」という旨の覚書を境界確認書と締結してもらう業務のことです。
ベテランの土地家屋調査士なら断ることも多い業務であることから、対応できる土地家屋調査士が求められています。
私道の通行や掘削に関する業務
私道の通行や掘削の許可について、「私道の通行、掘削の承諾書」という書類に署名・捺印を所有者に求める業務のことです。
かつては不動産業者が行うのが一般的であった業務ですが、昨今は土地家屋調査士が担当することも増えてきました。
土地家屋調査士は目指すべき資格なのか
人口減少や過疎化などによる不動産取引の減少は、土地家屋調査士にとっては向かい風であり、「食えない」「仕事ない」と噂されるのにも一理あります。
しかし、土地家屋調査士は独占業務を有していることから需要が枯渇することはなく、昨今は新たな不動産関連業務も生まれてきているため、将来性に関してはおそらく問題ありません。
収入の水準が高いことを踏まえても、目指す価値は十分にある資格だと言えます。
土地家屋調査士として廃業しない方法
以下では、今後を土地家屋調査士として生き延びるために有用な方法をいくつか紹介します。
公共嘱託登記土地家屋調査士協会へ入会
独立開業する場合は、公共嘱託登記土地家屋調査士協会に入会するのがおすすめです。
開業当初、顧客の獲得に苦しんでも、公嘱協会から官公庁などに関する仕事をもらえるので、良い収入源になります。
また同じ支部の人間と一緒に仕事ができるため、経験が浅い場合には勉強になりますし、土地家屋調査士の人脈を作ることも可能です。
ダブルライセンスにチャレンジ
土地家屋調査士だけでなく、行政書士や宅建士、司法書士、建築士などの関連資格を取得するのもおすすめです。
仕事の幅が広がるので、事務所の経営や収入の面での好影響が期待できます。
例えば、権利に関する登記についての独占業務を持つ司法書士も取得すれば、登記のスペシャリストとして活躍することが可能です。
区画整理などの公共事業を始めてみよう
仕事の幅を広げるという意味では、公共事業に手を伸ばすのもおすすめです。
どの地方にも公共事業は必ず存在するため、例えば測量士の資格を取得して法人登記をすれば、測量の分野で仕事量を増やせます。
また土地区画整理士の資格を取って、区画整理事業に参入するのも有意義です。
ただし、そうした事業は過疎化やAI技術による代替などの影響を少なからず受けることには注意しておかねばなりません。
国土調査や地図作成業務もおすすめ
国土交通省の管轄事業である国土調査は、進捗率の全国平均が48%程度と言われており、仕事はまだまだあります。
また法務省が管轄する14条地図作成に参入するのもおすすめです。
それらのプロジェクトでは、他の調査士と協力して業務を行うので、人脈の形成や測量技術の向上に繋がります。
ブログや動画作成で宣伝
ブログを書いて土地家屋調査士に関する情報発信を行うのもおすすめです。
良い営業活動になりますし、広告収入も得られるので、やって損はありません。
また宣伝用の動画を作成するのも有意義です。例えば、結婚式に関する動画を作って、新婚夫婦に関心を持ってもらえれば、その夫婦が将来家を建てるときに呼んでもらえる可能性があります。
ドローンやAIを上手く活用しよう
ドローンやAIは土地家屋調査士の仕事を奪うとネガティブに捉えられることも多いですが、業務の効率化につながるというポジティブな側面もあります。
測量や書類作成などの作業を機械に任せられれば、それだけ顧客と向き合ったり、他の業務に手を伸ばしたりする時間を作れます。
またドローンやAi技術を積極的に活用し、建築業での施工管理や災害対策を行うなど、業務の幅を広げるのもおすすめです。
独立・開業に失敗した場合の再就職先は?
万が一、土地家屋調査士としての独立に失敗したとしても、以下のように再起の方法は色々あります。
建設コンサルタント企業などの選択肢
測量会社には土地家屋調査士が活躍できる仕事がたくさんあります。
土地家屋調査士事務所として登録されている測量会社もたくさんあるため、土地家屋調査士の有資格者は重宝されます。
また建築・建設のコンサルタント会社でも、土地家屋調査士の法的知識を活かすことが可能です。
建設会社においても、自社で測量や登記まで行えたほうが良いので、土地家屋調査士が必要とされます。
新たな形で事務所を設立する
形を変えて、再び事務所を設立するという選択肢もあります。
調査士法人として各業務の専門性を高める
土地家屋調査士の仕事は、現場に出る測量からデスクワークである書類作成まで幅広いので、分業制にするのも有意義です。
複数の土地家屋調査士で法人を設立すれば、それぞれの得意分野だけに集中できます。
また様々な性質の依頼に対して、高いレベルで対応できるようになるため、成果も出しやすいです。
苦手分野を担当しなくて良いことから、各自の負担も軽減されます。
法人事務所を合同で経営する
土地家屋調査士だけで事務所を経営するよりも、他の資格の保有者を入れたほうがより幅広い業務に対応できるので安定しやすいです。
そのため、司法書士や中小企業診断士などの有資格者と組んで、共同で事務所を設立するのもおすすめできます。
また自分でそれらの資格を取得し、ダブルライセンス、トリプルラインセンスで事務所を経営するのも良いでしょう。
土地家屋調査士は食えないのかまとめ
土地家屋調査士は食えないのかまとめ
- 工夫や営業力次第で年収1,000万円以上も稼げる
- 重要な業務はAIに代替されない
- 空き家の活用など新たな動きに関する業務もある
- 公的な事業にも携われる
土地家屋調査士は食えないという噂について解説しました。
そのような噂は誤りで、土地家屋調査士は需要も将来性も問題なく、十分に稼げる職業です。
営業力や工夫次第では、独立して1,000万円以上の年収を得ることもできます。
またたとえ独立開業に失敗したとしても、測量会社やコンサルタント会社など、働き口はたくさんあります。
以上より、土地家屋調査士をこれから目指すのも大いにおすすめできるので、興味のある方はぜひ挑戦してみてください。