建築士と建築家の違いは?仕事内容や資格取得の方法・設計士との違いについても解説
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「建築士と建築家の違いは?」
「建築士のダブルライセンスにメリットがあるの?」
このような疑問を持っている方は多いのではないでしょうか。
建築士と建築家は、名前は似ていますが異なるものです。
建築士試験に合格しないで建築士を名乗ることは違法ですが、建築家は特定の資格を持たなくても名乗れます。
とは言え、現在活躍中の建築家のほとんどすべては、一級建築士資格取得者です。
建築業に関わる仕事をするのであれば、国家資格のなかでも難関と言われる一級建築士資格の取得は必須であると言えます。
この記事では、建築士と建築家の違い・仕事内容や資格取得の方法などについて解説します。
この記事を読めば、建築士と建築家の違いだけではなく一級建築士資格取得の必要性を理解し受験への覚悟ができるはずです。
建築士と建築家の違いについてざっくり説明すると
- 建築士は国家資格だが、建築家は資格ではない
- 建築士は資格取得者だけが名乗れるが、建築家は誰でもが自称で名乗れる
- 建築士の収入は安定しているが、建築家の収入は不安定である
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建築士と建築家の資格概要
建築士とは、建築物の設計や工事監理などを行う者で、試験に合格して免許を取得した者を指します。
資格は、設計などを行える建物の規模・構造・用途によって一級建築士、二級建築士、木造建築士の3種類に分かれています。
建築士資格は「行為独占資格」として法的に保護さていていることから、建築士資格を取得しないで建築士の名称を使って行う業務や行為は違法です。
建築家とは、主として芸術的な要素をもつ建築デザインの業務と、技術的な要素が強い構造・設備設計の業務に携わる専門職です。
建築家については法的な定めがないことから、「自分は建築家だ!」と名乗ることでだれもが建築家になれます。
ここでは、建築士と建築家の違いについてさらに詳しく紹介していきます。
建築士には3つの資格がある
建築士は、1950年5月に施行された『建築士法』で国家資格に定められました。
建築士法には、建築士として一級建築士・二級建築士・木造建築士の3種類が定められています。
その上で、建築士とは「それぞれの資格名称を用いて、建築物の設計や工事監理その他の業務を行う者を言う」とも定義付けているのです。
なお、建築士の資格を取得するには、それぞれの資格試験に合格しなければなりません。
建築家という職業は無い
現在の日本には「建築家」という国家資格はありませんし、正式に建築家と定義付けられた職業もありません。
自称すれば誰でも建築家になれますが、あえて「建築家」という時は、一級建築士資格保有者で構造設計や設備設計より意匠面の仕事を重点的に行う人に用いられるケースが多いようです。
建築家と呼ばれる建築士が手掛ける建築物は芸術性の高いものが多いことから、名のある建築家による建築物は、「建築物」ではなく「作品」と呼ばれることが少なくありません。
この建築家が作る建物の規模やデザインなどには制限がないことから社会的な注目を浴びますが、売れる・儲かるといったことは作品の魅力次第です。
建築士と建築家に違いはある?
建築士と建築家は、名前は似ていますが異なるものです。
建築士は建築士資格を持たないで名乗ることは違法ですが、建築家は特定の資格を持たなくても、誰でも建築家を名乗れます。
以降では、この建築士と建築家にどのような違いがあるのかを紹介していきます。
建築士と建築家の業務内容
まずは、建築士と建築家の業務内容の違いについて見ていきましょう。
建築士には一級建築士・二級建築士・木造建築士の3種類あり、それぞれの資格は以下のように「仕事の内容」によって異なります。
資格名 | 仕事の内容 |
---|---|
一級建築士 | 手がけられる建築物の規模に制限がなく、あらゆる建築物の設計や工事監理が行える。 |
二級建築士 | 木造建築物をはじめ、戸建住宅規模の鉄筋コンクリート造や鉄骨造の設計が行える。 |
木造建築士 | 木造建築物の設計や工事監理だけを行える(建物の用途や面積などの制限があり)。 |
建築家は、建築士という資格の取得者で、建物の設計や工事監理をする人の呼称です。
この建築家が作る建物の規模やデザインなどには制限がないことから、一般の建築士よりも建築家のほうがデザインや芸術性にはこだわりが強いと言えます。
施工主が建築家に発注する場合は、その建築家ならではのオリジナリティを求めて依頼するので、日常的に注文が殺到するといったことはあまり期待できません。
建築士になるには受験資格がある
建築士試験を受験する際には、以下に示す受験資格のいずれかを満たすことが必要です。
● | 一級建築士試験の受験資格 |
---|---|
1. | 大学、短大、高専、専修学校などで指定科目を修めて卒業した者 |
2. | 二級建築士 |
3. | 建築設備士 |
4. | その他国土交通大臣が特に認める者(外国大学を卒業した者など) |
● | 二級建築士および木造建築士試験の受験資格 |
1. | 大学、短大、高専、高校、中等教育学校などで指定科目を修めて卒業した者 |
2. | その他都道府県知事が特に認める者(建築士法第15条第2号に該当する者) |
3. | 指定科目の履修はないが、実務経験を7年以上有する者(従来どおり) |
これまで受験資格に含まれていた「実務経験」については、令和2年の試験から「免許登録の際の要件」に改定されました。
試験の難易度の違い
建築家は建築士のような国家資格ではないことと資格試験が運用されていないことから、建築家と建築士の資格試験の難易度についての比較はできません。
もし、建築家の資格試験が実施されるとしても民間資格の建築士の試験ですから、国家資格の建築士と比較しても意味のないことです。
「名乗る」か「名乗らないか」が合否の判定基準とも言うべき建築家の試験と一級建築士資格試験の難易度は、誰の目にも明らかなように、一級建築士資格試験の難易度の方が高いと言えます。
建築士の方が給料が安定しやすい
同じような仕事をする建築士と建築家の給料については、多くの人が気になるところでしょう。
一級建築士の平均年収は、2018年で平均739万円です。
ただし、この金額は一級建築士全体の平均額ですから、企業規模や年齢、性別などで違いがあります。
建築士はいわばサラリーマンですから、毎月・毎年、安定した収入を得られるのが特徴です。
建築家はフリーランスで、時間をかけて芸術性や社会性のある作品を作り、完成後に収入を得ます。
したがって、建築士のように定期的な収入を得るのではないことから、有名な建築家以外は、ゼネコンや建築事務所で働く建築士よりも収入が少ないのが一般的です。
他の建築関連資格と建築士の違い
建築士になりたい人の中には、「建築家以外にどのような建築系の仕事があるのか?」ということが、気になっている人も多いのではないでしょうか。
ここでは、他の建築関連資格と建築士の違いについて解説します。
設計士の役割・仕事内容
建築士は国家資格ですが設計士は資格ではなく、建築士の資格を持たないで建築士の設計などのサポートをする人を建築業界では「設計士」と呼びます。
設計士は資格ではないうえに明確な定義がないことから、自称するだけで設計士になれるのです。
しかし、設計士は建築士の資格を持たないで設計業務に携わることから、仕事内容は「基本的に建築士のサポート」に限定されます。
ただし、建築士法で『100㎡未満の木造住宅に限り設計できる』と定めていますから、小さな木造建築を設計することは可能です。
設計士と建築士との違い
5つの項目について建築士と設計士の資格を比較すると、違いは以下のようになっています。
建築士 | 設計士 | |
---|---|---|
資格 | 一級建築士・二級建築士・木造建築士 | 国家資格ではない |
難易度 | 国家資格のなかでも難易度は高い | 設計部門のある企業に就職するだけ |
業務内容 | 建築物の設計と工事管理 | 100㎡の未満の木造住宅の設計や建築士のサポート |
平均年収 | 739万円(2018年) | 推定350万円前後(2018年) |
宅建士の役割・仕事内容
宅建士とは「宅地建物取引士」という国家資格で、不動産会社などで土地や建物の売買を行うのが仕事です。
宅建士の仕事をするには、「宅地建物取引士試験(略称:宅建試験)」という資格試験に合格しなければなりません。
宅建士の仕事は独占業務で、契約書・重要事項説明書への記名・調印や取引者に対する重要事項の説明など宅建士資格保有者だけができる業務です。
そうした独占業務の仕事のほかにも、その前段となる物件の紹介や内覧、広告活動なども手掛けます。
また、売買や賃貸といった不動産取引を仲介する際は、売主と買主や貸主と借主が不当な売買契約を結ばないよう不動産契約の注意事項を彼らに伝えるのも宅建士の役割です。
宅建士と建築士との違い
宅建士と建築士はどちらも不動産や物件と深く関わっていますが、双方の仕事内容には違いがあります。
つまり、下記のように、活躍のフィールドが異なるのです。
- 宅建士は不動産に関する専門知識を持ち、客に重要事項の説明や書類へ記名するのがメインの業務
- 建築士は建物の設計やデザインを依頼主の注文や要望に合わせて作るのがメインの業務
このように仕事内容は異なっているものの、関連性は深いと言えます。
ダブルライセンスは可能
建築士にとって、建築士資格に加えて他の建築系資格を取得するダブルライセンスは、仕事をするうえで非常に有効です。
一般の建築士よりも知識と業務の幅が広いと評価されますし、資格の種類によりますが、独立や転職の際には他の建築士や求職者と差別化を図れます。
建築士の場合、ダブルライセンスとして目指すことの多い資格は「宅建士」です。
建築士が宅建士の資格を取得すれば、建築士の資格だけでは提供のできないサービスを顧客に提供できます。
下記では、建築士の人がダブルライセンスとして「宅建士」を目指す場合を例に、ダブルライセンスの具体的なメリットを紹介していきます。
ダブルライセンスのメリット
関連性が深い資格の組み合わせによるダブルライセンスのメリットは2つあります。
1つは、キャリアアップ・転職や独立の際の大きな武器になることです。
ダブルライセンスは転職活動で他の求職者との差別化を図れますし、独立する際には一般の独立開業者よりも知識と業務の幅が広いことのアピールポイントと言えます。
また、組織内でのキャリアアップにつながることから、高収入を得る可能性もあるといえるでしょう。
もう1つは、組織内だけでなく対外的にも信用度が高まることです。
ダブルライセンス所有者はシングルライセンスの人より信用度が高まることで、「任される仕事の幅が広がる」「新規顧客の獲得」などにつながります。
このことで、職場内での立場も高まる可能性があるのです。
試験範囲が重複している
建築士がダブルライセンスを目指す際には、多くの場合「宅建士」が選ばれます。
宅建士が選ばれる理由の一つは宅建士と建築士、特に二級建築士資格試験は、試験範囲で重複している部分が多いことに因ります。
宅建士が選ばれる理由の一つは宅建士と建築士、特に二級建築士資格試験の範囲とは重複が多いからです。
-
宅建業法:宅地建物取引業法
-
権利関係(民法):区分所有法
-
法令上の制限:建築基準法・都市計画法・宅地造成等規制法・国土利用計画法・農地法
-
税・その他:建物構造
どちらも国家資格で合格率の低い試験ですが、今から宅建士と建築士のダブルライセンスを目指すのであれば、まずは二級建築士からスタートするのが一般的です。
転職に非常に有利
建築士と宅建士のダブルライセンスは、不動産業界や建築業界だけでなくさまざまな業界から需要があり、転職活動において優位に働きます。
たとえば金融業界では、不動産を担保に融資する機会が多いことから、法律の知識だけでなく物件の目利きのできる人材が必要です。
また、小売業界では、出店予定の優良物件探索と瑕疵調査ができる宅建士と建築士のダブルライセンスの人材が重宝されます。
このように、宅建士と建築士のダブルライセンスの人材の需要は高いことから、そうした人材が建築以外の業界に転職する際には、有利になる可能性が高いのです。
建築士と建築家はどちらおすすめ?
建築士と建築家のどちらをおすすめするかは、当事者が建築や設計業務でどのような方向性を目指すかによって異なります。
一般的には、次のような人には建築士がおすすめです。
- 毎月安定した収入を得たい人
- コミュニケーション能力やプレゼン能力を持っている人
- 独立して事務所開設を目指したい人
これに対し、次のような人には建築家がおすすめです。
- 建築士資格の取得は困難だが建築や設計業務に従事したい人
- 芸術性、社会性、オリジナリティのある建築物などの作品を作りたい人
- リスクはあっても自由度が高く、高収入を得たい人
建築士の方が安定した需要がある
建築家についての明確な定義がないように、建築家の仕事についても明確な定義がありません。
しかし、建築家とは、「建築士資格保有者で構造設計や設備設計より意匠面の仕事を重点的に行う人」を指す時に使われるケースが多いようです。
建築家は一般家庭からの注文を取り扱うのではなく、芸術性・社会性・オリジナリティのあるデザインの建築を手掛けるケースが多いと言えます。
このことから、建築家へ次々と仕事の依頼があるといったことは期待できません。
一方、建築士が手掛けるのは、住宅・マンション・アパート・事務所・店舗などの一般的な建築物です。
ですから、そうした建築物を作る要求がある限り、建築士への仕事の需要は続きます。
建築士は転職出来る可能性も高い
建築士は人手不足で売り手市場ですから、転職出来る可能性が高いと言えます。
一般的な転職先は、次のように多種多様です。
- 設計事務所
- 自治体
- 店舗開発事務所
- ハウスメーカー
- 不動産会社
- ゼネコンやデベロッパー
- 住宅設備機器メーカー
転職できる可能性が高いとはいえ、よく検討しなければならないのは、転職することで「転職を決意させた問題が解決するかどうか」ということです。
建築士資格の取得難易度
建築士資格試験の合格率は一級の場合20%程度ですから、難易度の高い国家資格の試験です。
ですから、難易度という観点でだけいえば、建築家を選択することをおすすめします。
しかし、建築士の資格のないままで建築家を名乗っているケースでは、仕事の依頼など全く期待できません。
ところが、もし一級建築士の資格を持つ建築家であればどうでしょう。
難関資格を取得しているということで、社会的な評価を得られる可能性がありますし、建築士の資格のある建築家へは、仕事の依頼がある可能性が高くなります。
しかも、建築士資格を取得していない建築家の転職はままなりませんが、建築士資格を取得している建築家なら近年は引く手あまたです。
建築家を志す人や建築士としてのキャリアアップをしたい人は、難易度が高いからと言って建築士資格取得を回避するのではなく、何としても建築士資格試験の合格を目指したいものです。
「建築士と建築家の違いは?」についてのまとめ
建築士と建築家の違いについてまとめ
- 建築士は国家資格に位置付けられているが、建築家は資格として位置付けられていない
- 建築士は資格試験合格者だけが名乗れるが、建築家は誰でもが自称で自由に名乗れる
- 建築士の収入はサラリーマン同様安定しているが、建築家の収入はフリーランス同様不安定
建築士と建築家の違いについてさまざまな側面から解説してきました。
建築家は誰でもが名乗れるといいながら、現実には、一級建築士資格取得して設計事務所で実務経験を積み、その後独立して建築家としての活動を開始するのが一般的です。
建築業界で活躍したいと考えるのであれば、何としても一級建築士資格を取得しなければなりません。
決して簡単な試験ではありませんが、この記事をお読みになった機会に、建築士資格の取得に向けて行動を開始されることを期待いたします!