文系でも建築士になれる?理系より優れた点や社会人が一級建築士を取得する方法も解説
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「文系でも建築士になれる?」
「文系の人はどうすれば建築士の受験資格を獲得できる?」
このような疑問を持っている人は多いようです。
一般的には、建築士は計算が得意な理系の人だけが就ける仕事と思われていますが、決してそうではありません。
建築士は、文章力やプレゼン能力・コミュニケーション能力を備えていれば、文系の人であっても問題なく活躍できる仕事です。
ここでは「文系でも建築士になれる人」について、さまざまな側面から解説します。
建築士の試験は難関国家資格の1つですが、この記事を読みすすめていけば、確実に受験への自信や覚悟ができるはずです。
文系でも建築士になれる人をざっくり説明すると
- 得意でなくても、中高生レベルの計算ならできること
- 文章力やプレゼン能力を持っていること
- 高いコミュニケーション能力を備えていること
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文系の人でも建築士資格を得ることは可能?
「文系の人でも建築士資格を得ることは可能?」との問いに対しては、「可能です!」と言うのが答えです。
文系では建築士になれないと考える人の多くは、建築士は難しい計算が得意な人でないとダメだと思っているようです。
建築士の仕事では、建物を設計する上での計算が必要ですが、その多くはCADソフトなどで処理できます。
また、専門的な「構造計算」などは、社内の構造設計士や外部の構造事務所に計算依頼するのが一般的です。
計算が得意でなくても、簡単な計算ができるのであれば建築士資格の取得は可能といえます。
文系の人でも建築士資格の取得が可能なもう1つの理由は、文系の人が得意な文章力やコミュニケーション力が、建築士の仕事に生かせるからです。
このように、文系の人でも建築士になることは可能ですが、文系の人が建築士試験を受験するためには、受験資格という一定の条件を満たすことが必要です。
以降では、建築士の受験資格について解説します。
一級建築士試験の受験資格
まず、一級建築士試験の受験資格について解説しましょう。
平成30年12月に、「建築士法」の一部である第4条、第14条および第15条が改正され、建築士試験の受験資格の要件であった実務経験が、原則として建築士免許の登録要件に改められました。
このことで、令和2年の建築士試験から、下記の新しい受験資格に基づく建築士試験がスタートしています。
建築に関する学歴または資格など | |
---|---|
1 | 大学、短期大学、高等専門学校、専修学校などにおいて指定科目を修めて卒業した者 |
2 | 二級建築士 |
3 | 建築設備士 |
4 | その他国土交通大臣が特に認める者(外国大学を卒業した者など) |
2級建築士の受験資格は得やすい?
平成30年12月の建築士法の一部改正は、受験資格などを緩和して新しく若い人材を増やすことが目的です。
学科試験の受験資格では実務経験が撤廃され、学校卒業後すぐに試験の受験が可能になりました。
特に高校・中学卒の条件が緩和されたため、学校卒業後いち早く建築士として建設業界での活躍ができます。
建築に関する学歴または資格など | 実務経験年数(試験時) | |
---|---|---|
1 | 大学、短期大学、高等専門学校、高等学校、専修学校、職業訓練校等において、指定科目を修めて卒業した者 | 最短0年 |
2 | 建築設備士 | 0年 |
3 | その他都道府県知事が特に認める者(外国大学を卒業した者等) | 所定の年数以上 |
3 | 建築に関する学歴なし | 7年以上 |
建築士の受験資格を得られる学校
これまで、受験資格には「学歴ごとに指定科目の履修と実務経験が必要であること」が定められていました。
しかし、令和2年の建築士試験からは、その受験資格の実務経験が問われなくなったのです。
これまでは指定科目を履修して工業高校を卒業した場合、二級建築士を受験するために3年以上必要であった実務経験は廃止され、学校卒業と同時に受験が可能になりました。
つまり、受験資格を得るためには大学、短大、高専、専修学校、高校、中等教育学校などにおいて、指定科目を修めて卒業することだけでよくなったのです。
なお、受験資格を得られる学校の種類に関しては、「昼間・夜間、通学・通信」といったことは問われないことから、個人の都合に合わせて選択できます。
学費・学校の時間帯を考慮する
受験資格を得るために学校に行くとなると、避けて通れないのが「学校の選択」と「学費の準備」です。
学校の選択においては、さまざまな選択肢が準備されています。
近年は、一般的な昼間のコースだけではなく夜間コースを開設している大学や短大、専門学校などがありますし、通信講座で受験資格を得ることもできるのです。
現在の自分の勤務先や家庭などの環境から判断し、数年間の勉強を継続できる選択をしなければなりません。
なお、一般的には、社会人の受験者の多くは通信講座の利用が多いようです。
学費については、入学金や学費免除・各種の支援制度を用意している学校があります。
また、予算的に厳しければ日本学生支援機構の奨学金制度などの利用も検討したいものです。
数学が出来れば理系でなくてもOK
「文系の人でも建築士資格を得ることは可能?」の見出しで解説したとおり、建築士に求められる数学は、四則演算や中学・高校の基礎的レベルです。
建築士の仕事では分業化やIT・AI化がすすんでいて、専門的な知識の必要な計算は、CADソフトの使用・社内外の構造設計士や構造事務所への依頼などで処理されています。
近年の建築士には、簡単な計算能力があれば、専門的な計算能力が日常的に求められることはありません。
一級建築士試験の試験内容
一級建築士試験の出題科目、出題数などは次表のとおりです。
試験区分 | 出題形式 | 出題科目 | 出題数 | 試験時間 |
---|---|---|---|---|
学科試験 | 四肢択一式 | 学科I(計画) | 20問 | |
四肢択一式 | 学科II(環境・設備) | 20問 | 計2時間 | |
四肢択一式 | 学科III(法規) | 30問 | 1時間45分 | |
四肢択一式 | 学科IV(構造) | 30問 | ||
四肢択一式 | 学科V(施工) | 25問 | 計2時間45分 | |
実技試験 | あらかじめ公表する課題の建築物についての設計図書の作成 | 設計製図 | 1課題 | 6時間30分 |
試験は学科と実技があり、学科試験は5科目・実技試験は設計製図1課題で、試験時間はそれぞれが6時間30分で実施されます。
なお、「学科試験」は7月に実施され、その合格者だけが10月の「実技試験」を受験できます。
一級建築士試験の合格率は低い
一級建築士試験の過去8年間の合格率は、次のとおりです。
実施年 | R4年 | R3年 | R2年 | R元年 | H30年 | H29年 | H28年 | H27年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
受験者数 (人) | 30,007 | 31,696 | 30,409 | 25,132 | 25,878 | 26,923 | 26,096 | 25,804 |
合格者数 (人) | 6,289 | 4,832 | 6,295 | 5,729 | 4,742 | 4,946 | 4,213 | 4,806 |
学科合格率(%) | 21.0 | 15.2 | 20.7 | 22.8 | 18.3 | 18.4 | 16.1 | 18.6 |
製図合格率(%) | 33.0 | 35.9 | 34.4 | 35.2 | 41.4 | 37.7 | 42.4 | 40.5 |
全体合格率(%) | 9.9 | 9.9 | 10.6 | 12.0 | 12.5 | 10.8 | 12.0 | 12.4 |
1級建築士試験の合格率は例年10%前後であり、合格率の低い難関資格試験と言えます。
それだけに、就職の際やクライアントから信頼を得られる可能性が高い、ということでもあるのです。
二級建築士の合格率は40%
過去8年間の2級建築士試験において、学科・製図・総合の合格率は次のとおりです。
実施年 | R4年 | R3年 | R2年 | R元年 | H30年 | H29年 | H28年 | H27年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
学科合格率(%) | 42.8 | 41.9 | 41.4 | 42.0 | 37.7 | 36.6 | 42.3 | 30.1 |
実技合格率(%) | 52.5 | 48.6 | 53.1 | 46.3 | 54.9 | 53.2 | 53.1 | 54.0 |
全体合格率(%) | 25.0 | 23.6 | 26.4 | 22.2 | 25.5 | 24.3 | 25.4 | 21.5 |
二級建築士の合格率は学科試験で40%前後、実技試験で50%前後、最終的な合格率は20%前後です。
一級に比べて二級は比較的取得しやすいことから、まずは二級建築士からの取得をおすすめします。
建築士試験の難易度
合格率と資格難易度ランキングによる偏差値で一級と二級の建築士の難易度を示すと、次のとおりです。
学科試験合格率 | 実技試験合格率 | 総合合格率 | 偏差値 | |
---|---|---|---|---|
一級建築士 | 20%以下 | 約40% | 10%前後 | 66・難関 |
二級建築士 | 40%前後 | 約50% | 20%前後 | 56・普通 |
一級建築士の難易度が二級建築士よりも高く、国家資格のなかでも難関な資格と判定されています。
なお、実技試験の合格率が高いのは、課題が試験日の3カ月前に公開されることに因るものでしょう。
また、試験時間が長いことや筆記試験合格者だけしか実技試験に進めないのも、難易度の高い要因と言えます。
文系で建築士として働く際のメリット
どのような仕事に就くかによって違う可能性はありますが、採用する側は、就職希望者を理系か文系かといったことで採否を決定することはあまり考えられません。
建築士の場合、日常業務の中で計算実務を行う必要があることから、かつては計算処理することに慣れた理系の人を採用していました。
しかし今日では、CADソフトの導入や構造計算などの高度な計算については内部の専門家や外部発注で処理するのが当たり前になっています。
こうしたことから、近年は簡単な計算処理をできる建築士やパソコン操作ができる建築士であれば、たとえ文系の人であっても採用されるのが一般的傾向です。
以降では、文系の建築士として働く際のメリットについて紹介します。
文系から建築士になるメリット
「文系の人でも建築士資格を得ることは可能?」の見出しの記事で解説しているとおり、文系の建築士が働く際のメリット、強みと言えるは次の2点です。
1つは「文章力やプレゼンテーション力があること」で、これらは企画・提案やコンペなどで設計デザインをプレゼンする際に必要とされる重要な能力と言えます。
ですから、この能力に秀でた建築士のいない建設事務所は、厳しい競合・競争に勝ち残ることはできません。
もう1つは、「コミュニケーション力が高いこと」で、建築設計の仕事は建築主の考えや要望・希望を聞いて具体化する仕事なので、コミュニケーションスキルは不可欠な能力です。
一般的には、建設事務所には数字に強い理系の建築士が必要と思われていますが、それとともに、高いコミュニケーション力を持っている建築士の存在が不可欠と言われています。
コミュニケーション能力がある
建築設計の仕事は建築主の考えや要望・希望を聞いて具体化する仕事なので、建築士には高いコミュニケーション能力が求められます。
しかも、建築設計事務所では「意匠設計・構造設計・設備設計」の3分野の設計業務の担い手が密接に関わり合い、力を合わせて一つの作品を仕上げなければなりません。
コミュニケーション能力は理系よりも文系の人の方が得意である可能性が高いことから、文系の建築士に対しては、コミュニケーション能力を備えていることが期待されています。
プレゼン能力がある
プレゼンテーション力が求められるのは、コンペなどで設計デザインのプレゼンをするときで、コンペで勝ち残るには自分たちの提案がどれほど優れているかをしっかり伝える必要があります。
なお、文章力が求められるのは、建築主の考えや要望・希望を組み入れたプロポーザルでデザインした建物の説明を書くときです。
建築士がキャリアアップするには
建築士として仕事をしている人が、今よりもさらに専門的な知識を身に付け、能力を向上させて経歴を高めるキャリアアップは、次のケース以外には期待できません。
それは、現在二級建築士資格しか取得してない人が、一級建築士の資格を取得するケースです。
ただし、建築設計事務所では一般に「意匠設計・構造設計・設備設計」の仕事に分割されていますので、複数の職務が担当できるよう専門学校や通信教育を利用してのキャリアアップは可能と言えます。
文系の建築士の就職先
文系の建築士が目指すメインの就職先の一つは、建築デザイン・法規チェック・建築現場のチェックなどを行う意匠設計事務所で、その他にも次のような就職先があります。
- 都市開発をしているゼネコンや不動産会社
- ハウスメーカーや建材メーカー
- ビジネスホテル会社や銀行など
また、設計ではなく営業や建物管理、建物工事などの仕事を目指すのも一つの就活です。
なお、理系の人でも文系の人でも、建築士資格を有していればさまざまな建築系企業で働けます。
建築士のスキルは他の仕事でも有効
文系建築士の仕事上で役立つ代表的な能力は、「コミュニケーション力」と「文章力やプレゼンテーション力」の2つです。
これらの能力は建築系の仕事以外においても、大いに必要とされる能力と言えます。
特に「コミュニケーション力」はどの会社や仕事でも必要とされており、日常業務がスムーズにはかどるかどうかは、当事者のコミュニケーション能力次第といえるほどです。
また「文章力やプレゼンテーション力」も、同業他社との厳しい競合や競争を勝ち抜くうえでは、社員が備えておくべき不可欠の能力です。
英語力は就職・仕事で役立つ可能性がある
最近の求人広告では、一級建築士資格を取得していることだけではなく、「英語力」を要求する求人もみられるようになりました。
英語力があると、「海外の最新技術をキャッチアップできる」「自分の市場価値を上げられる」という大きな2つのメリットがあります。
ビジネスレベルの英語力があると、海外での活躍ができる上に外国人建築士のいる職場へ就職する際に有利になる可能性があると言えるでしょう。
なお、英語力は「平均より英語が出来る」と見なされる可能性が高い、TOEICで700点程度を目安として習得したいものです。
文系におすすめの建築士の仕事
以降の見出しでは、「建築士の仕事と文系の建築士向けの仕事」について整理しておきます。
そもそも建築士の仕事内容は?
一級建築士の仕事内容は、大きく分けて2つあります。
1つは「設計業務」で、この業務はさらに次のように3つに分けられます。
- 「構造設計」:構造物の土台を造る設計
- 「設備設計」:室内環境の電気設備などの設計
- 「意匠設計」:建築物全体のデザイン設計
なお、出来上がった図面を建築主に説明するなどの対人関係の仕事も、設計業務の業務内容に含まれます。
もう1つは「工事監理業務」です。
建築士の業務は、設計をしたら施工者に工事を任せて終わりというわけではありません 設計図通りに工事が進行しているのかを確認しながら建築していく必要があります。
これを「工事監理」と言い、建築士法では、建築士の独占業務として定義されています。
文章力が求められる仕事
建築士に文章力やプレゼンテーション能力を求められるのは、コンペなどで設計デザインを企画・提案するときです。
出来上がった図面を建築主に説明したりコンペで自分の設計した企画を提案したりする際には、建築士はデザインの魅力や他の建築物との違いなどを的確に伝えなければなりません。
また、設計コンセプトを伝えたりデザインの特徴などを説明したりするには、図面やパースだけでなく文章を加えたほうがより伝わりやすくなります。
なお、こうした能力は、理系の人よりも文章の作成やプレゼンに慣れている文系の人が得意である、と考えられているのが一般的です。
コミュニケーションスキルが必要な仕事
一般的に、理系の人よりも文系の人の方がコミュニケーションをとる機会が多く、コミュニケーション能力に秀でている可能性が高いと言われます。
このコミュニケーション能力の高さは、建築士の仕事に大いに役立つ可能性があるのです。
建築士の仕事には、コミュニケーション能力を必要とする場面が多くあります。
例えば、建築主との打合せ・説明、他分野設計との調整・打合せ、関係機関や業者との調整・打合せなどを日常的に行い、黙って仕事をする場面の方が少なくいのが建築士です。
今後、作業のAI化や機械化を考えると、生身の人間にしかできないコミュニケーション能力は、ますます重要になるでしょう。
「文系でも建築士になれる人は?」についてのまとめ
文系でも建築士になれる人についてまとめ
- 計算が得意でなくても中学、高校程度の簡単な計算ならできる人
- パソコンの操作に慣れている人
- 文章力、プレゼン能力、コミュニケーション能力を備えている人
- 建築士の受験資格を満たせる人
- TOEICで700点程度を目安として習得を目指せる人
文系でも建築士になれる人についてさまざまな側面から解説してきました。
建築士資格は、国家資格としては難関の試験です。
実務経験が撤廃されたとはいえ、受験資格をみたすためには指定科目を修める必要があります。
そのため、独学での資格取得は難しいのですが、通信講座や夜間コースの利用することで文系の人や社会人であっても資格取得が可能です。
まずは二級建築士資格取得に是非挑戦してみてください!