衛生管理者の受験資格に必要な実務経験は?第一種と第二種の試験についても解説

「衛生管理者試験を受けたいけれど、受験資格の実務経験って何の業務が該当するの?」

このような疑問をお持ちの方も多いかと思います。

衛生管理者は従業員が一定数以上いる事業所で配置が義務付けられている資格です.。職場で資格取得を推奨されることも多く、毎年たくさんの人が試験を受験しています。

しかし試験には受験資格があり、誰でも自由に受けられるわけではありません。特に受験資格の中の「実務経験」は何が該当するのか分かりにくいので、詳しく知りたい人もいるのではないでしょうか?

そこで今回は衛生管理者の受験資格について詳しく解説します。様々なメリットがある衛生管理者を取得するためにも、まずは試験を受けるための受験資格を理解しましょう!

衛生管理者の試験についてざっくり説明すると

  • 受験資格にはいくつかあるが基本的に学歴と実務経験の2要件を満たす必要がある
  • 実務経験には清掃や整理整頓など様々なものが該当するので業種に関係なく受験可能
  • 第一種・第二種ともに問題は選択式で合格基準は各分野40%以上・全体60%以上
  • 試験日程は各センターごとに異なり出張試験も実施されている

衛生管理者の受験資格を得るには?

衛生管理者の受験資格への疑問

職場の安全管理を担ったり従業員の健康の維持・向上のための役割を果たすのが衛生管理者です。厚生労働大臣が実施する試験を受験して、合格した後に免許申請の手続きをすれば衛生管理者として働くことができます。

ただし試験を受けるためには受験資格を満たさなければいけません。資格試験の中には誰でも受験できるものと受験資格による制限があるものがありますが、衛生管理者は後者の資格試験になります。

学歴や実務経験として一体どんな条件を満たさないと試験を受けられないのか、この点を事前にしっかりと確認しておくようにしましょう。

学歴と実務経験が必要

衛生管理者試験の受験資格にはいくつかあり、試験を受けるにはいずれかの条件を満たす必要があります。受験資格の大半で「学歴」「実務経験」の両方が規定されているので、実質的に学歴・実務経験ともに必須の状況です。

10以上もの受験資格がありますが、主なものを挙げると次のような受験資格があります。

学校教育法による大学(短期大学を含む。)又は高等専門学校を卒業した者で、その後1年以上労働衛生の実務に従事した経験を有するもの

省庁大学校を卒業(修了)した者で、その後1年以上労働衛生の実務に従事した経験を有するもの

学校教育法による高等学校又は中等教育学校を卒業した者で、その後3年以上労働衛生の実務に従事した経験を有するもの

高等学校卒業程度認定試験に合格した者、外国において学校教育における12年の課程を修了した者など学校教育法施行規則第150条に規定する者で、その後3年以上労働衛生の実務に従事した経験を有するもの 安全衛生技術試験協会HP

上記を見ても分かるように、どの受験資格で試験を受けるのかによって「実務経験として必要な年数」が異なります。そのため学歴と実務経験の組み合わせパターンのうち、自分がどの受験資格で試験を受けるのか事前に確認が必要です。

なお全ての受験資格の一覧は安全衛生技術試験協会HPに掲載されています。気になる方は1度確認してみると良いでしょう。

証明書の発行も必須

試験の申込みをする際、受験資格を満たしていることを証明する書類が必要です

受験資格ごとに必要書類は異なりますが、「卒業証明書(原本)または卒業証書(学位記)の写し」「事業者証明書」を事前に揃えなければいけません。

卒業した学校に問い合わせて卒業証明書を発行してもらったり、社内の担当部署に連絡して事業者証明書を作成してもらうなど、書類を揃えるまでには意外と時間がかかります。必要書類の取り寄せは早めに行うようにして下さい。

受験資格を満たす実務経験の内容

実務をこなす様子 衛生管理者試験の受験資格として実務経験が必要であることを紹介しましたが、問題は「何が実務経験として認められる業務なのか」です。

一体どのような業務を職場でこなしていると実務経験として扱われて試験を受けられるのか、この点について以下で詳しく解説していきます。

労働衛生業務の経験

衛生管理者試験を受験するには「労働衛生に関する実務経験」が必要で、該当する業務として以下のものが挙げられます。

健康診断実施に必要な事項又は結果の処理の業務

作業環境の測定等作業環境の衛生上の調査の業務

作業条件、施設等の衛生上の改善の業務

労働衛生保護具、救急用具等の点検及び整備の業務

衛生教育の企画、実施等に関する業務

労働衛生統計の作成に関する業務

看護師又は准看護師の業務

労働衛生関係の作業主任者としての職務

労働衛生関係の試験研究機関における労働衛生関係の試験研究に従事

自衛隊の衛生担当者、衛生隊員の業務

保健衛生に関する業務

保健所職員のうち、試験、研究に従事する者等の業務

建築物環境衛生管理技術者の業務 安全衛生技術試験協会HP

上記の業務を一定年数に渡って担当していて受験資格を満たす場合には、社長や人事部長などの事業場代表者に証明してもらいます。

なお試験申込時に提出する「事業者証明書」は安全衛生技術試験協会HPからダウンロードできるので、HPの下部にあるPDFを実際に確認してみると良いでしょう。

用紙には上記の業務が一覧で記載され、該当業務に従事した期間などを記入する形になっています。

その他受験資格に該当する実務経験

上記の一覧にない業務が受験資格に該当するかどうかは、事前に受験するセンターに確認が必要です。

ただし、そもそも上記の業務のうち「作業条件、施設等の衛生上の改善の業務」や「保健衛生に関する業務」には広範な業務が含まれます。

事業場の清掃や給湯室の清掃、デスク周りの整理整頓、備品の安全確認といった業務も受験資格として申請が可能です実質的にその他多くの業務が受験資格として認められているので、業種による壁はないと考えて差し支えありません。

もちろん受験資格として求められている年数を満たす必要はあるので入社したばかりの新入社員などは無理ですが、入社後1年間や3年間に渡って該当業務をこなせば受験資格を満たせます。

そのため衛生管理者試験はどのような業種の人でも受験できる資格試験です。

衛生管理者の国家資格の種類

衛生管理者として働く様子 衛生管理者には次の異なる3つの資格があります。

  • 第一種衛生管理者
  • 第二種衛生管理者
  • 衛生工学衛生管理者

このうち衛生管理者として一般に広く認知されているのは「第一種衛生管理者」と「第二種衛生管理者」の2つです。ただしこの2つの資格では対応できる業務範囲に明確な違いがあるので、以下では第一種衛生管理者と第二種衛生管理者の違いを解説します。

第一種衛生管理者は全事業場で活躍

事業場の従業員数が一定数以上だと衛生管理者の配置が義務付けられていますが、第一種衛生管理者はどの業種でも配置が可能です。

第二種衛生管理者と違って有害業務を扱う事業場でも配置でき、そのため試験範囲には有害業務に関する事項も含まれます。

試験範囲が第二種より広くて難易度も第一種のほうが高くなりますが、取得すれば業種を問わず幅広く活躍できるのが第一種衛生管理者です。

第二種衛生管理者の業務は狭まる

衛生管理者を配置する際、第一種ではなく第二種でも良い業種は商業・金融・サービスなどの一定のものに限られます。

以下の業種で衛生管理者を配置するときには第一種資格保持者であることが必要で、第二種衛生管理者は配置できません。

  • 農林畜水産業、鉱業、建設業、製造業(物の加工業を含む)、電気業、ガス業、水道業、熱供給業、運送業、自動車整備業、機械修理業、医療業及び清掃業

第二種衛生管理者だと活躍できる業務の幅は狭まるので、上記の業種で働く人が衛生管理者の資格を取得する場合には第一種を取得することをおすすめします。

労働安全衛生法での設置義務がある

法律で定められた一定の条件に該当する場合に設置が義務付けられている資格を「必置資格」と呼びます。衛生管理者も必置資格の1つで、事業場の労働者数に応じて以下のように衛生管理者を配置しなければいけません。

事業場の労働者数 衛生管理者の選任数
50人以上~200人以下 1人以上
200人超~500人以下 2人以上
500人超~1,000人以下 3人以上
1,000人超~2,000人以下 4人以上
2,000人超~3,000人以下 5人以上
3,000人超~ 6人以上

なお労働者数にはパートやアルバイトなどの人数も含まれます。たとえば従業員数49人の事業場で新たにアルバイト1人を雇って50人に達したら衛生管理者の選任が必要です。設置義務に違反すると50万円以下の罰金が科されてしまいます。

また衛生管理者の設置義務が生じない50人未満の事業場では安全衛生推進者を選任しなければいけません

このように安全衛生に関する様々な法規制があるので、安全で快適な職場環境を整えるためにも基準や規則を正しく理解することが大切です。

衛生管理者資格を取得するメリット

資格を取得して喜ぶ様子 衛生管理者の資格を取得すると一体どんなメリットがあるのでしょうか?メリットにはいくつかありますが、ここでは特に大きなメリットとして2点紹介します。

需要や価値のある資格

健康経営の促進やコンプライアンス遵守の観点から衛生管理者は欠かせない存在です。働き方や職場環境の改善が社会的に叫ばれる中にあって、衛生面や安全面に関する知識を持つ衛生管理者へのニーズが高まっています。

そしてこのように需要がある資格の割には取得までのハードルが高くないこともメリットの1つです。一般的な社会人であれば受験資格を満たしていることも多く、しっかり勉強すれば初学者でも十分に合格を狙えます。

勉強した知識が非常に有意義

快適な職場環境作りに役立つ知識だけでなく、労働基準法に関する知識など「普段働くときに自分を守るための知識」が身に付くこともメリットです。

労働時間や休日の扱い・考え方に関する知識が習得でき、健康を維持しながら働くための法知識が身に付きます。

さらに企業によっては資格手当を支給している場合がありますし、総務部や人事部に異動希望を出したい場合にアピールポイントとしても活用できる資格です。

衛生管理者の業務内容や役割

資格を活かして働く様子 続いて衛生管理者の業務内容や役割がどうなっているのか、具体的に見ていきましょう。

健康管理と快適な職場作りの専門家

衛生管理者は「従業員の健康管理と快適な職場作り」を行う衛生管理の専門家です。

職場やそこで働く従業員の衛生・安全に関する専門知識を持つ衛生管理者が適切に措置を講じることで、誰もが安心して働ける職場環境を築くことができます。

労働災害が起きることを未然に防ぐ上でも衛生管理者が果たす役割は大きく、そのために具体的にどんな業務をこなすのか、以下で詳しく解説していきます。

職場の巡回と環境整備

職場環境に問題がないか定期的に確認する必要があるため、労働安全衛生法では産業医や衛生管理者による巡回を義務付けています。衛生管理者による巡回の頻度は週1回で、実際に衛生環境や設備、作業方法のチェックを行います。

事故の発生を未然に防いだり事態が大きく悪化する前に対策を講じるためにも、衛生管理者による巡回・確認作業は非常に重要な仕事です。

問題を発見したときに早急に対処することで、職場環境の安全が維持され労働者が安心して働くことができます。

設備や作業の安全を確認

衛生面の管理・確認だけでなく、作業方法に問題がないか確認をする「作業管理」も衛生管理者の大事な仕事です。

ヘルメットなどの保護具を付けて安全に作業をしているか、救命用具は適切に設置されているのか、衛生管理者がしっかり確認を行います。

有害物質が近くにあったり高所などの危険な場所では、安全な状態で作業を行うことが特に大切です。

作業を行う本人が安全に対する高い意識を持つことはもちろんですが、衛生管理者による確認も行うことで作業の安全性の維持・向上をさらに徹底できます。

従業員の健康管理も行う

健康診断を受診させたり診断結果が悪かった従業員に産業医との面談を促すなど、従業員の健康管理や健康促進のための仕事も衛生管理者として大事な仕事の1つです。

従業員向けに衛生に関する教育を行ったり健康相談を受けて直接労働者に対応することもあります。衛生管理者として労働者と話すことで衛生・安全に対する労働者の意識を高めることもでき、様々な形で職場の安全・安心に貢献するのが衛生管理者という資格です。

衛生管理者の試験の特徴

衛生管理者の試験

衛生管理者として働くには試験に合格して資格を取得しなければいけません。まずは試験範囲・合格基準・試験日程などの「衛生管理者の試験の特徴」を確認しておきましょう。

また第一種と第二種では業務特性の違いから試験範囲が異なるので、以下では試験における第一種と第二種の違いについても解説していきます。

第一種衛生管理者の試験範囲と試験時間

試験時間は13:30~16:30の3時間で、第一種衛生管理者の試験範囲や配点は次の通りです。

試験範囲 出題数 配点
労働衛生・有害業務に関して 10問 80点
労働衛生・有害業務以外 7問 70点
関連法令・有害業務に関して 10問 80点
関連法令・有害業務以外 7問 70点
労働生理 10問 100点
合計 44問 400点

なお衛生管理者試験では一部科目免除制度があり、対象となるのは「船員法による衛生管理者適任証書の交付を受けた者で、その後1年以上労働衛生の実務に従事した経験を有するもの」です。

該当者は「労働生理」の受験が免除されるので、その場合は試験時間が13:30~15:45の2時間15分になります。

特例の場合試験科目が異なる

最初から第一種を受験することもできますが、既に第二種の免許を受けている人が第一種を受験する場合の「特例第一種衛生管理者試験」では試験範囲が異なります。

「特例第一種衛生管理者試験」の試験範囲や配点は以下の通りで、有害業務に関する問題のみ解答する形式です。試験時間は13:30~15:30の2時間になります。

試験範囲 出題数 配点
労働衛生(有害業務に係るものに限る) 10問 80点
関係法令(有害業務に係るものに限る) 10問 80点
合計 20問 160点

第二種衛生管理者の試験科目と試験時間

試験時間は13:30~16:30の3時間で、第二種衛生管理者の試験範囲や配点は次のようになっています。

試験範囲 出題数 配点
労働衛生(有害業務に係るものを除く) 10問 100点
関係法令(有害業務に係るものを除く) 10問 100点
労働生理 10問 100点
合計 30問 300点

第二種では有害業務に係るものが試験範囲に含まれません。出題範囲が第一種よりも狭く、問題数も少ないので第二種のほうが簡単な試験です。

合格基準や回答形式は第一種・第二種共通

いずれの科目も40%以上正解し、かつ全体で60%以上正解すると合格になります。資格試験によっては「上位〇%を合格者とする」といった形で相対評価方式を採用していることもありますが、衛生管理者試験は絶対評価方式なので合格者に定員などはありません。

1科目でも40%を下回ると不合格になるので科目別の足切りには注意が必要ですが、第一種・第二種ともにすべて選択式なので解答しやすく、記述式対策をする必要はないので比較的受験しやすい試験です。

衛生管理者試験の合格基準の詳細については、以下の記事を参考にしてください。

試験日程や受験手数料

受験手数料は第一種・第二種ともに6,800円で、衛生管理者の試験は全国7か所の安全衛生技術センターで開催されています。開催頻度は月1~4回ですが、試験日程はセンターごとに異なるので、安全衛生技術試験協会HP『試験日程』で確認するようにして下さい。

また遠方居住者のために出張試験も開催されています。

衛生管理者試験の難易度は低い?

資格の難易度に対する疑問 衛生管理者試験の難易度はそれほど高くありません。取得までのハードルが高くない割に資格取得によるメリットも多く、この点で衛生管理者はおすすめの資格です。

以下では第一種・第二種それぞれの合格率や難易度について紹介していきます。

第一種の合格率は約45%

安全衛生技術試験協会の発表によれば、令和4年度の第一種衛生管理者試験の受験者数は68,210人で、合格者29,113人・合格率42.7%という結果でした。

合格率約45%という水準は国家資格としては高いほうなので、衛生管理者はかなり取得しやすい資格です。偏差値は49前後と判定されることが多く、この点でも他の主要な国家資格よりも難易度が低くなっています。

第二種は半分以上が合格できる

令和4年度の第二種衛生管理者試験の受験者数は36,057人で、合格者17,922人・合格率49.7%という結果でした。第一種よりも簡単なので第二種のほうが合格率が高くなるのは当然ですが、受験者のうち半分以上が合格していることが分かります。

第二種の偏差値は45前後と判定されることが多いので、国家資格としては簡単な部類に入ります。偏差値が60や70を超えるような超難関の国家資格を受験した経験がある人にとっては、衛生管理者試験を受験すると簡単に感じることも少なくありません。

衛生管理者試験の難易度や合格率について以下の記事で詳しくまとめています。気になる方はぜひご覧ください。

衛生管理者に合格する対策方法

試験勉強をする様子 合格率が高い資格試験の中には大して勉強しなくても合格できるものがあります。しかし衛生管理者試験の場合は、合格率が比較的高いと言ってもしっかり勉強しないと試験には合格できません。衛生や安全管理など専門的な知識の習得が必要だからです。

学習を進める上では効率的に対策を講じることが大切なので、以下では衛生管理者試験に向けた勉強法について解説していきます。

頻出する問題を重点的に勉強

衛生管理者試験では頻繁に出題される問題や傾向があるので、試験の特徴を踏まえて頻出箇所を重点的に学習するのが効率的でおすすめの学習法です。

該当する箇所を中心に学習を進めていき、労働衛生に関する知識が一定以上身に付けば合格を勝ち取るのはそれほど難しくありません。頻繁に出題される分野の問題演習とテキストの確認を繰り返すことで、合格できるレベルに確実に到達することができます。

過去問の繰り返しも大切

テキストと問題集を使った学習によって基礎ができ上がったら過去問演習も早めに始めるようにしましょう。過去問についても繰り返し解くことが大切で、頻出問題に慣れれば合格が確実に近づきます。

また過去問演習をやって苦手分野があると気付いたら、その分野についてテキスト・問題集・過去問をフルに使って重点的に取り組むことも大切です。得点率が40%以下の分野があると足切りになるので苦手分野をなくすための対策も忘れずに行うようにして下さい。

衛生管理者試験の勉強方法をもっと知りたい方は以下の記事をご覧ください。

衛生管理者の受験資格まとめ

衛生管理者の受験資格まとめ

  • 一定年数以上の実務経験がないと衛生管理者試験は受験できない
  • 実務経験として認められる労働衛生業務には様々な業務が該当する
  • 清掃や整理整頓なども実務経験に含まれるので業種を問わず試験を受験できる

今回は衛生管理者の受験資格について紹介しました。

衛生管理者の受験資格である実務経験には幅広い業務が含まれ、実質的に業種に関係なく様々な職業の人がチャレンジできる資格です。受験資格を既に満たしている人も多いはずなので資格の取得を積極的に検討してみて下さい!

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