海事代理士の収入は意外と低い?平均年収や求人・仕事がないと言われる実態を調査!
「海事代理士の収入は意外に低い?仕事ないの?」
と疑問をお持ちの方もいるでしょう。
確かに海事代理士の年収は100万円と言われることがあります。しかし、同時に1,000万円と言われる場合もあるのです。これにはあるカラクリがあって、それを理解するには海事代理士の働き方を知る必要があります。
今回は海事代理士の収入について、平均年収や求人状況、仕事がないと言われる実態などを詳しく解説します。
これを読めば海事代理士の年収の秘密が分かるはずです。
海事代理士の収入についてざっくり説明すると
- 海事代理士を本業とした場合、年収はかなり低い
- 一般的に海事代理士は兼業で行うことが多い
- 働き方によっては1,000万円を超える収入を得ることも可能
海事代理士の平均年収は約100〜1000万円?
ネット上では「海事代理士の平均年収は100〜1000万円」という情報を見かけます。
しかし、これでは年収の幅が大きすぎて実際のところが分かりません。ここではその実態に迫っていきましょう。
そもそも海事代理士とは?
海事代理士は、船舶登記や船舶登録など、海にまつわる行政機関への手続きを代行する仕事です。
海事に関する法律の専門家で、職務内容が似ていることから「海の司法書士」や「海の行政書士」と呼ばれます。また単に「海の法律家」と言われることもあるようです。
海事代理士法に基づく国家資格で、司法書士などとダブルライセンスとして取得されるケースが目立ちます。
海事に関わる法律のプロフェッショナルであり、特定の顧客から頼られる存在です。
年代別・海事代理士の平均年収
海事代理士の平均年収は以下のようになっています。
年代 | 平均年収 |
---|---|
20代 | 約340万円〜約390万円 |
30代 | 約400万円〜約460万円 |
40代 | 約510万円〜約610万円 |
しかし、上記は誤解を招きやすいデータです。その理由についてこれから解説していきましょう。
海事代理士だけでの年収を計算できない?
先のデータで調査の対象となっているのは「兼業している海事代理士」なのです。
そもそも海事代理士の業務のみで生計を立てていくのは困難で、海事代理士のみを行っている人はほとんどいません。
会社員や行政書士などと兼業している人ばかりなのです。
そのため先のデータから読み解くべきなのは「海事代理士の平均年収は500万円」ということではなく、「主業務と兼業している海事代理士の平均年収は500万円」であるということです。
開業した海事代理士の年収は高水準?
開業した海事代理士の年収は、成功すれば1,000万円と言われています。これは一般的に見て、非常に高い水準です。
しかし、実際には年収が300万円以下という開業海事代理士も一定数存在します。そのため年収1,000万円というのは、一部の超高所得者層を表しています。ちなみに日本人の平均年収は400万円程度です。
副業としての海事代理士業務で年収1,000万円を超えているのなら、彼らの年収は1億円以上かもしれません。
日本人の平均年収に満たない年収の海事代理士もいる一方で、超高所得者も存在するということです。開業10年ほどのベテランで、地域に根付いた独占市場を手に入れられることができれば、大成功の可能性があります。
なぜ海事代理士の年収はここまで低いのか
海事代理士業務のみを行った場合、平均年収は100万円前後と言われています。これは一般に思われているよりも明らかに低い水準でしょう。
しかし、この数字は海事代理士を本業としている場合というかなりのレアケースのみを調査対象にしています。
そのため兼業が多い海事代理士の実態とは、かなり乖離があると言えるでしょう。
実際に海事代理士の方に聞いてみても、平均年収はもう少し高いと感じている方が多いようです。
海事代理士のほとんどは開業しない
海事代理士の職域は、他の法律系資格と被るものも多いです。例えば、船舶の登記や登録は、司法書士でも行うことができます。
また、海運会社の就業規則作成や船員保険の取り扱いは海事代理士ではなく、社会保険労務士の範疇です。そのため海事代理士が行える独占業務というのはごくわずかになります。
さらに、昔からその地域に根付いて業務を独占している事務所は、多くの場合、新規参入を認めません。
このように開業海事代理士は困難が多く、実際に年収1,000万円を稼ぐ人はほとんどいないでしょう。
一般企業勤務の方が給与水準が高いことが圧倒的に多い
海事代理士の中には、法律系資格との兼業以外に、一般企業で働きながら兼業している人もいます。
海事代理士の資格はあくまで副業として活かし、普段は上場企業などの大手企業で勤務している人も多いです。
一般企業と海事代理士との兼業の場合、成功した開業海事代理士ほどの超高収入を目指すことはできません。しかし、安定して高水準の収入を得ることはできるでしょう。
大手企業からの給料があれば生活には困らないため、海事代理士は海に行く息抜き程度に行うことも可能です。
年収が高い海事代理士の働き方
兼業が多いことから様々な働き方が想定される海事代理士ですが、年収が高くなる働き方にはどのようなものがあるのでしょう。
年収が高い勤務先は?
海事代理士業務のみを行った場合は年収100万円程度というデータもあります。そのため海事代理士として勤める場合は、年収はかなり低くなるかもしれません。
一方で企業勤務との兼業として海事代理士業務を行うなら、700万円以上の高い水準が狙えるでしょう。
また、大手の一般企業へ就職・転職すればさらなる高収入も期待できます。
大規模な事務所なら高年収が狙えることも?
海事代理士として事務所に勤務する場合、勤務地は法律事務所や司法書士事務所、行政書士事務所がほとんどです。
事務所勤務の場合は、高収入を狙えないかというとそうとも言い切れません。
大きな事務所に所属すれば、それだけ給料も高くなるでしょう。また役職を上げ、幹部クラスになればかなりの年収が期待できます。
後継者になることも
勤務している事務所の所長が高齢である場合もあります。その場合は所長が職を離れる際に後継として事務所を継ぐこともあるでしょう。
特に海事代理士業界は元々人手が少ない上に高齢化が進んでおり、後継者不足は起こりうる問題です。そのため、事務所の後継者になるというのは案外現実的な選択肢だと言えます。
自身の経営手腕にもよりますが、事務所の所長になれば高収入も期待できるでしょう。
開業するのが高所得への一番の近道
年収1,000万円を稼ぎたいのであれば、開業するのが一番の近道でしょう。
海事代理士の事務所開業には2つの選択肢があります。
1つは一般企業の法関係職や総務・公務員などの分野にまたがって開業することです。
もう1つは海運業や船員、造船業の現業職という位置付けになります。
開業の難易度が高いのは前者でしょう。前者は強い人脈がない限り、事業を上手く進めることは困難だと言えるからです。
事務所の大規模化はリスクも伴う
事務所の規模を大きくすればするほど、売り上げが上げやすくなり、高収入を得やすくなることは事実です。
しかし、事務所の規模が大きくなれば、その分扱う案件も重要なものが増えていきます。そのため抱えるリスクは重くなるという現実もまたあるのです。事務所の大規模化は慎重に行うべきだと言えます。
また、開業直後は年収がかなり低い時期を経験することが普通なので、一定の貯金も必要です。
ダブルライセンスで働くことも!
司法書士や行政書士とのダブルライセンスで働くのもおすすめです。
海事代理士の知識は、司法書士や行政書士と共通したものが多数あります。そのため、資格の勉強もしやすく、一般に比べると取得も容易です。
司法書士や行政書士を主軸に、仕事がある時だけ海事代理士業務も行うという、ダブルライセンスのスタイルが主流と言えます。
海事代理士は仕事がない?
兼業の多い海事代理士ですが、その求人状況はどうなっているのでしょうか。以下では求人状況について詳しく解説していきます。
副業としての求人は存在する!
海事代理士の中心業務は船舶の登記になります。しかし、これは行政書士や司法書士にも行える仕事です。
そのため、海事代理事務所ではなく、行政書士や司法書士事務所に依頼するクライアントが多いという現状があります。海事代理士は請け負う仕事自体が少ないということです。
こうした状況から、海事代理士の求人数は少なく、せっかく取得した資格を活かせないケースも珍しくありません。
したがって海事代理士は専業よりも、他の職種の副業にする人が多いようです。
副業の場合、求人サイトに登録してスカウトを待ったり、法律専門家を紹介する事務所に登録して、個々の案件ごとに仕事を請け負うという形式が一般的でしょう。
中途採用の募集は少ない?
海事代理士の中途採用を定期的に行っているところはありません。個人事務所の場合は、スタッフを雇わないところも多いようです。
求人については、大手事務所で欠員が出た際に募集されることがある程度でしょう。その場合でも、採用は有資格者に限定されるケースが大半です。
実務経験がなく、資格を持たない未経験者が採用されることはまずないでしょう。
海事代理士試験の難易度
海事代理士になるには、一般的に海事代理士試験に合格することが必要です。
海事代理士試験の難易度は、国家試験の中でもある程度難易度の高い部類だと言えます。法律の初学者はかなり苦戦を強いられるそうです。
合格率から見れば、難易度が低そうに思えますが、実際はそうではありません。海事代理士試験の受験者には、司法書士や行政書士などの有資格者が多いからです。
試験の内容ですが、憲法や民法に関しては、簡単な条文や判例の問題も出題されます。
一方で、海事法令については、聞き慣れないような用語が登場する問題です。そのため過去問を丸暗記するような、根気のいる地味な学習方法を取り入れる必要があります。
兼業をしたいのであれば使える資格であることは間違いないため、取得する価値は十分にあると言えるでしょう。
海事代理士になるには
海事代理士は、ダブルライセンスとして業務の幅を広げるには使える資格です。
海事代理士になるには、海事代理士試験に合格し、海事代理士として登録を行う必要があります。
海事代理士の試験について
海事代理士試験では、1次試験である筆記試験と2次試験である口述試験が行われます。試験は年1回です。
筆記試験
筆記試験は、一般法律常識(概括的問題)と海事法令(専門的問題)からなります。各問題の詳細は以下の通りです。
問題 | 詳細 |
---|---|
一般法律常識(概括的問題) | 憲法、民法、商法(第3編「海商」のみ対象。) |
海事法令(専門的問題) | 国土交通省設置法、船舶法、船舶安全法、船舶のトン数の測度に関する法律、船員法、船員職業安定法、船舶職員及び小型船舶操縦者法、海上運送法、港湾運送事業法、内航海運業法、港則法、海上交通安全法、造船法、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律、国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律(国際港湾施設に係る部分を除く。)、領海等における外国船舶の航行に関する法律、船舶の再資源化解体の適正な実施に関する法律及びこれらの法律に基づく命令。 |
なお、筆記試験に合格した場合は、翌年の試験に限り、同試験の受験が免除されます。
筆記試験に受験資格はありません。そのため学齢や年齢、性別などを問わず誰でも受験が可能です。
口述試験
口述試験の試験範囲は、海事法令です。具体的には以下の4つの法律から出題されます。
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船舶法
-
船舶安全法
-
船員法
-
船舶職員及び小型船舶操縦者法
口述試験は、筆記試験の合格者および筆記試験の免除申請者に受験資格があります。
試験日程と試験場所、受験手数料
海事代理士試験では、筆記試験が9月下旬、口述試験が11月下旬に実施されます。
各試験の試験場所は以下の通りです。
試験 | 試験場所 |
---|---|
筆記試験 | 札幌市(北海道運輸局)、仙台市(東北運輸局)、横浜市(関東運輸局)、新潟市(北陸信越運輸局)、名古屋市(中部運輸局)、大阪市(近畿運輸局)、神戸市(神戸運輸監理部)、広島市(中国運輸局)、高松市(四国運輸局)、福岡市(九州運輸局)、那覇市(内閣府沖縄総合事務局) |
口述試験 | 東京都 国土交通省(本省) |
受験手数料は6,800円になります。
海事代理士試験の勉強方法
海事代理士の試験は独学でも十分合格が可能です。ただし海事代理士試験に公式テキストはないため、市販の参考書で勉強することになります。
海事代理士試験は、海事法令の知識が重要になります。一般の法律知識も問われますが、一般常識:海事法令=1:9という配点比率です。
そのため司法書士などの法律系資格を持っている受験者も、海事法令に関しては苦労する可能性があります。海自六法などを用いて知識の暗記に努めましょう。
勉強方法としては、まずは参考書等で試験範囲の知識をインプットすることから始めます。ある程度頭に入ったら、過去問演習に進みましょう。
過去問で分からない部分はテキストで復習することを繰り返せば、解答の精度が上がっていくはずです。
独学が苦手な人は、一部通信講座も存在するようなので、そちらを利用しても良いでしょう。
学習スケジュールを立てる
海事代理士試験に合格するには、継続的な勉強が大切です。そのためにまずは学習スケジュールを立てましょう。
合格までの道筋をはっきりさせることで、勉強が継続しやすくなります。
良いスケジュールを立てるコツは、適度に時間的ゆとりを持たせることです。あまりに過密日程だと疲れてしまう一方で、ゆったりさせ過ぎてもモチベーション維持が困難になります。
勉強に楽しみを持たせるために、短期間のノルマを設けることも良いでしょう。
過去問を活用しよう
他の資格試験同様、海事代理士の試験でも、過去問演習が有効です。
過去問を解くことによって、出題傾向や頻出問題を把握でき、試験対策に特化した、より効率的な学習ができるでしょう。
過去問は国土交通省のホームページから無料で入手できるので、積極的に活用するのがおすすめです。
海事代理士の登録について
海事代理士試験に合格したら、国土交通省(地方運輸局)へ登録を行うことで、海事代理士として働けるようになります。
登録する場合は以下の書類を地方運輸局長に提出してください。
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海事代理士登録申請書(第1号様式)
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宣誓書
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海事代理士試験合格証書の写し
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本籍の記載のある住民票の写し
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30,000円分の収入印紙
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業務に使用する印章
海事代理士の収入についてまとめ
海事代理士の収入についてまとめ
- 海事代理士業務だけでは年収100万円程度しか稼げないことも
- 司法書士や一般企業との兼業が多い
- 兼業の場合は収入が高水準で安定する
海事代理士の収入について詳しく解説しました。
海事代理士のみで生計を立てることは難しいですが、兼業として行えば業務の幅が広がる魅力的な資格だと言えます。