海事代理士ってどんな資格なの?難易度・過去問・合格率や仕事内容まで徹底解説!
「海事代理士ってどんな資格なの?」
「資格の難易度は高いの?合格率はどのくらい?」
このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか?
海事代理士は船舶関連の手続きや書類作成代行などを行う士業です。海事という名前の通り海に関係する業務が中心です。
ここでは海事代理士についてあまり知られていない仕事内容や試験の合格率・難易度について説明します。海や法律に関する資格に興味のある人はぜひ読んでみてください!
海事代理士についてざっくり説明すると
- 海の法律家とも呼ばれる行政手続き・書類作成の専門家。
- 合格率は40%程度で勉強時間は500時間ほど必要。
- 受験資格に制限がないので、誰でも目指せる。
海事代理士ってどんな資格?
海事代理士とは
海事代理士とは国土交通省や都道府県などに対する手続きやそのための書類作成を代行する職業です。海事代理士になるには国が実施している海事代理士試験に合格しなければいけません。海事代理士試験は昭和26年から行われている歴史ある資格です。
業務範囲は広く、様々な法律や規則に基づく申請や届け出、登記などを行います。対象となる法規には船舶安全法、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律、船員法、船舶職員及び小型船舶操縦者法などの海事関係諸法令などがあります。
海事代理士の主催団体
海事代理士試験の主催団体は国土交通省です。国土交通省は国土の総合的かつ体系的な利用、開発および保全、そのための社会資本の整合的な整備、交通政策の推進、気象業務の発展並びに海上の安全および治安の確保などを担う団体です。
海事代理士試験もこの活動の一環で行われています。また、国土交通省は建築士や測量士、気象予報士などの資格も主催しています。
そもそも海事代理士とは
海事代理士は海事代理法に関するプロフェッショナルであり、船舶登録などの業務を行います。国家試験合格者だけがなることのできる国家資格に基づく法律の専門家で、「海の法律家」として顧客から頼られる存在です。
仕事内容は「街の法律家」と呼ばれる行政書士と似ています。広く浅く何でもこなせる行政書士に対して、海事代理士は船や海に関連する事柄に特化しています。試験範囲や試験の難易度も行政書士と近く、大きな差はありません。
海事代理士の難易度
海事代理士の試験範囲と出題形式
海事代理士の試験は二段階で行われます。一次試験は筆記試験、二次試験は口述試験です。それぞれの試験内容や範囲を詳しく確認しましょう。
筆記試験の試験範囲
筆記試験では一般的な法律に関する問題と専門的な内容を問う問題の二種類が出題されます。
一般法律常識の問題では、憲法、民法、商法などについて出題されます。商法は第三編の海商の部分だけが出題範囲です。
専門科目である海事法令では様々な法律から出題されます。具体的には、以下のような法律が該当します。
- 国土交通省設置法
- 船舶法
- 船舶安全法
- 船舶のトン数の測度に関する法律
- 船員法
- 船員職業安定法
- 船舶職員及び小型船舶操縦者法
- 海上運送法
- 港湾運送事業法
- 内航海運業法
- 港則法
- 海上交通安全法
- 造船法
- 海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律
- 国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律及びこれらの法律に基づく命令
口述試験の試験範囲
口述試験では海事法令に関する問題が出題されます。筆記試験よりも試験範囲は狭く、出題されるのは以下の法規のみです。試験範囲が狭いだけでなく問題そのものも易しい傾向にあります。筆記試験に合格できるだけの実力があれば問題ないと考えても良いでしょう。
- 船舶法
- 船舶安全法
- 船員法
- 船舶職員及び小型船舶操縦者法
海事代理士の合格率、合格ラインについて
海事代理士の合格基準は満点の60%ほどです。ただし、一次試験と二次試験では試験形式が異なるため細かな違いがあります。
一次試験は満点の60%を取得すれば合格です。筆記試験は全18科目・合計220点満点で行われるので、132点以上の得点で合格です。
ただし、全科目受験者の平均正答率が60%を超えている場合には平均正答率以上の得点の人のみが合格となります。つまり、科目免除者以外の人の平均点が60%を超えている場合には上位半数だけを合格とするということです。
過去の試験を見る限り、平均正解率が60%を超えることは十分予想されます。実質的には相対評価で行われると考えて良いでしょう。
二次試験も満点の60%が合格基準です。口述試験四科目の総得点で60%を取得すればよいので、苦手科目があってもカバーできればOKと言えますね。形式的な試験ではなく、知識不足とみなされれば容赦なく不合格にされる試験です。
・筆記試験の受験者数および合格率
年度 | 実受験者 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2019年 | 288人 | 156人 | 54.2% |
2018年 | 303人 | 157人 | 51.8% |
2017年 | 290人 | 142人 | 49.0% |
2016年 | 290人 | 141人 | 48.6% |
2015年 | 295人 | 151人 | 51.2% |
2014年 | 315人 | 146人 | 46.3% |
・口述試験の受験者数および合格率
年度 | 実受験者 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2019年 | 160人 | 97人 | 60.6% |
2018年 | 162人 | 150人 | 92.6% |
2017年 | 162人 | 159人 | 98.1% |
2016年 | 173人 | 133人 | 76.9% |
2015年 | 169人 | 116人 | 68.6% |
2014年 | 157人 | 134人 | 85.4% |
上記のように、筆記試験の合格率は50%前後で推移しています。多少の変動はあっても半数程度は合格する試験と言えます。一方、口述試験の合格率は年度により大きなばらつきがあります。高い時には90%以上ですが、低い時には60%ほどです。決して簡単な試験ではありません。
合格率から見た海事代理士の難易度は?
海事代理士の合格率は筆記試験で50%、口述試験で60%から90%以上です。かけ合わせても30%から50%ほどです。司法書士の合格率が3%、行政書士の合格率が10%から20%なので法律系の国家試験としては合格率が高く、やさしい試験と言えます。
しかし、海事代理士を受験する人は法律系や海事の知識がある人ばかりです。資格の知名度が低いこともあり、あまり初心者が受験することはありません。
また、上述のように筆記試験が相対評価となりやすいという特徴もあります。法律系の専門家を相手に相対評価で争うことになるので、見かけ以上に難易度が高い試験です。
口述試験の存在や法律用語・海事用語の難しさ、参考書の少なさなどの課題もあります。馴染みのない人はかなり苦労するでしょう。総合的に考えると、見かけの合格率から想定されるよりもはるかに難しい試験であると言っても間違いではありません。
海事代理士の勉強時間はどれくらい?
海事代理士試験には初学者で500時間の勉強が必要であると言われています。行政書士や社会保険労務士などの法律系資格取得者なら300時間程度の勉強時間でも合格できるとされています。一日三時間勉強しても三か月はかかるので、毎日勉強できない社会人は特に意識して時間を確保しましょう。
また、初学者と経験者における勉強時間の差は出題範囲が重なっているなど知識の差によるものではありません。確かに海事代理士試験でも憲法や民法などは出題されます。ところが、出題数や配点は小さいため試験勉強の中心にはなりません。
海事代理士試験では船舶法や船員法などが重要です。しかし、これらの法規に精通している人はほぼいないでしょう。
勉強時間の差は法文を読み解く力やセンスによるものです。法文特有の言い回しや重要箇所を見抜く能力があると勉強に有利です。言い換えるなら、丸暗記で済ませてきた人なら法律系有資格者でも苦戦する可能性があるということです。
海事代理士を取ることをおすすめする人は?
海事代理士は法律に興味がある人、海や船に関心がある人におすすめです。船舶や航海に関する法律を数多く学ぶ必要があるので、法律と海事の双方が好きなことが望ましいでしょう。法律系資格は法改正のたびに学ぶ必要があるので、勉強が苦にならない人には比較的おすすめできます。
また、海事代理士は士業の中でも独立・新規参入が難しいと言われています。実際、海事代理士として働いている人を見てみると、行政書士などの資格取得者が目立ちます。
趣味として学ぶだけなら興味・関心だけでも良いのですが、生計を立てることを考えるなら話は変わります。行政書士や司法書士、社会法務労務士などの関連資格取得も意識しておくべきでしょう。
海事代理士の勉強法
海事代理士の勉強法は?独学で合格することができるのか
海事代理士は独学でも取得できる資格です。むしろ独学が基本的な勉強法です。数は決して多くはないものの、テキストや参考書、問題集などがあります。また、国土交通省のwebページで筆記・口述ともに過去問が公開されています。独学できる環境は整っていると言えるでしょう。
海事代理士は法律系国家資格の中では難易度の高い試験ではありません。法文特有の読みにくさや馴染みのない海洋・航海に関する決まりなど難しい要素もあります。口述試験も独学では難しいかもしれません。
とはいえ、合格率は30%から50%とやや高めの水準です。勉強時間も行政書士や社会保険労務士などと比べて高いわけではありません。コツコツと勉強していけば合格できるでしょう。
過去問を要チェック
海事代理士の試験問題はweb上に無料で公開されています。国土交通省のwebページで筆記試験・口述試験ともに容易に入手可能です。模範解答も記載されているので、初学者でも安心して使えます。
他の資格試験と同じく、海事代理士の試験でも過去問は重要です。頻出問題や出題傾向の把握、試験形式に慣れるなどとても役に立つのでぜひ活用しましょう。
海事代理士の勉強するメリット
現在の仕事の幅が広げられる!
海事代理士の資格は単体でも効果がありますが、行政書士や司法書士として働いている人にとってはより大きなメリットがあります。
海の法律家という呼び名があるように海事代理士の知識や業務は行政書士などの知識や業務と隣り合っています。関連するところも多いので仕事の幅が広がるでしょう。
この場合はダブルライセンスで働く道が一般的です。普段は行政書士や司法書士として働き、必要に応じて海事代理士として働くというスタイルと良いでしょう。
開業に成功すれば高収入?
独立開業している海事代理士の年収は1000万円を超えることもあります。ただし、開業時の年収は他の士業と同じく大きなばらつきがあります。年収が300万円を下回る海事代理士も少なくない数が存在します。
海事代理士の市場は閉鎖的で新規参入は困難です。言い換えれば一度シェアを得れば収入を失う可能性が低いということでもあります。
そのため、海事代理士で収入をえるためには独占市場を得ることが不可欠です。人脈と実務経験を持ったベテランであれば年収1000万円に近づくことも不可能ではありません。
資格は一生使える!
海事代理士の資格はいつまでも有効です。更新などの手続き不要でいつまでも効果があります。取得後すぐに仕事をしなくてももちろんOKです。この点では有効期限のある資格よりもお手軽ですね。
将来的な独立や開業を目指して早めに資格だけを取得するのも良いでしょう。就職や転職を意識して取得する人もいます。就職先としては港湾関係の企業や法律事務所などが挙げられます。
とはいえ、海事代理士は実務に膨大な知識が必要な仕事です。資格取得からブランクが空くほどに実務で勉強が必要になることは覚悟しておきましょう。
珍しい船に乗ることができる?
海事代理士は船舶や港湾と関係が深い仕事です。状況によっては船を見学したり乗船したりすることもあるでしょう。各地の港を訪れる、大型船舶に乗り込む人もいるようです。船が好きな人には非常に嬉しいメリットですね。
なお、船員ではないため必ずしも船旅をしなければ仕事にならないということはありません。あくまでもプラスアルファの要素です。海事代理士は法律職です。法律や規則などを覚えて使用することの方がはるかに多いでしょう。
海事代理士の試験日程・会場
海事代理士の基本情報
海事代理士の試験は毎年1回だけ実施されています。一次試験は9月ごろ、二字試験は12月ごろに実施されます。試験の申込期間は8月中です。
一次試験の実施会場は主要都市にある運輸局です。二次試験は東京でのみ行われます。
【一次試験(筆記試験)実施都市】
- 札幌
- 仙台
- 横浜
- 新潟
- 名古屋
- 大阪
- 神戸
- 広島
- 高松
- 福岡
- 那覇
【二次試験(口述試験)実施都市】
- 東京
海事代理士に受験資格はある?
海事代理士の試験には受験資格が設定されていません。特に制約がないので、誰でも受験できます。難関資格は司法試験や税理士のように受験資格に制限を設けている試験が多く、海事代理士はどちらかといえば受験ハードルが低いと言えます。
また、筆記試験のみ合格した場合は翌年の試験に限り筆記試験が免除されます。申請が必要なので、もし該当する場合には受験案内などを確認してみましょう。
海事代理士の受験料・免除制度
海事代理士の受験料は6800円です。受験願書に収入印紙を張り付けた上で消印をせずに提出しましょう。筆記試験免除者でも受験料は変わらないようです。
試験科目の免除制度は翌年の筆記試験にのみ設定されています。上述のように翌年の試験に限られるので気を付けましょう。二年連続で口述試験が不合格だった場合には再度筆記試験を受験しなおすことになります。
海事代理士と合わせて取りたいおすすめ資格
行政書士
行政書士とは官公庁へ提出する書類を作成したり、申請手続きを代行したりする仕事です。イメージがつかみにくいかもしれませんが、海事代理士ともよく似ています。
行政書士の特徴は守備範囲の広さにあります。役所や省庁だけでなくいろいろな官公庁を相手にすることができます。扱う書類は10000種類を超えると言われており、独占業務も豊富です。
行政書士の仕事内容は大きく二つに分けられます。一つは書類の作成です。役所へ出す許認可の申請書など公的書類から遺言など民間の権利義務に関するものまで多岐にわたります。
もう一つの仕事は公的手続きです。代行業務ももちろん該当しますが、それだけではありません。法律や条例のスペシャリストとして相談にのったりコンサルティングを行うことも重要な仕事です。
司法書士
司法書士は名前こそ行政書士と似ていますが、まったく別の仕事です。行政書士が「行政」に関する業務を行っていたように、司法書士は「司法」に関する書類作成や相談対応を行います。
最も代表的な仕事は登記です。たとえば、土地や建物に関する権利を登録する「不動産登記」や、企業の代表者などを登録する「商業登記」です。
この他にも債務整理や成年後見人、外国人の帰化申請など幅広い業務を請け負うことができます。身近なところでは相続や遺言、疑行法務なども司法書士の取り扱いです。
また、特別な研修を受けた人は「認定司法書士」になることができます。通常の司法書士業務に加えて、一部の少額の訴訟事件で代理人になれます。弁護士と同じように法廷に立つことができるということですね。
社会保険労務士
社会保険労務士はその名の通り社会保険と労務のエキスパートです。雇用保険や健康保険、厚生年金といった社会保険に関する業務、労働問題や雇用に関する業務に従事します。
海事代理士や行政書士と同じく、書類作成や手続きの代行などが主な業務です。他の士業と同じく独占業務であるため、有資格者以外が行うことはできません。
海事代理士のバッジ
士業にはそれぞれ資格に固有のバッジがあります。弁護士の弁護士バッジや税理士の税理士バッジが代表例ですね。
海事代理士にももちろんあります。海事代理士のバッジは菊の花に船の操舵輪をあしらったデザインです。海の法律家の異名を持ち、船舶関連の業務も多い海事代理士の特徴をよく表したバッジと言えますね。
菊の花は他の法律職でもよく見かけるデザインです。菊は天皇家のマークとして使われていたように国家や高貴さを表しますが、ここでは「法律」の象徴です。特に菊の花は団結や団体を表すと言われています。
操舵輪は船を操作するもので、いわゆるかじ取りのかじです。本来の意味は「海事」の象徴ですが、船の行先や安全に携わるという意味もあるという説もあります。
士業バッジは士業の象徴ともいえる重大なものです。基本的に士業では業務を行う際には原則バッジをしていなければならないとされています。他の士業と同じく格好いいので、バッジ目当てに受験してみても良いのではないでしょうか。
海事代理士についてまとめ
海事代理士についてまとめ
- 行政書士や司法書士の港湾・船舶版といった資格。
- 合格率が高く、法律資格の中では目指しやすい。
- 馴染みのない法律が多いことと口述試験がやや大変。
ここでは海事代理士について紹介しました。いかがでしたか?聞いたことのない資格だったという人も多いでしょう。
海事代理士は海版の行政書士といった職業です。難易度や勉強時間も行政書士と大きくは変わりません。行政書士からのステップアップ先の一つとしては悪くないでしょう。
新規参入が難しく、単独で高収入を得るのは大変です。社会保険労務士や司法書士など他の士業とダブルライセンスを目指してみてはいかがでしょうか?