企業の価値を最大化する知財戦略を!| みなとみらい特許事務所の辻田様に直接取材しました
弁理士を志した経緯
資格Timesライターの北川です。本日はよろしくお願いいたします。
みなとみらい特許事務所所長の辻田朋子(つじたともこ)です。よろしくお願いいたします。
早速ですが、辻田様が弁理士を志された経緯からお聞きしてもよろしいでしょうか?
新卒ではITベンチャーに就職し、投資家へ説明する資料の作成などの業務に携わっていました。
働き始めて1年経過した頃に、「このままだと何のプロフェッショナルになろうとしているのかわからない」という不安が芽生えました。
「プロフェッショナルとして仕事をしたい」と考え、弁理士資格の取得のための勉強を始めました。
数ある資格の中から弁理士の資格取得を目指されたのはなぜでしょうか?
理系だったので研究や開発に携わる職業か、それ以外の理系のバックグラウンドを活かした職業の仕事をしたいと考えていました。
日本においてバイオ系の研究者は非常に狭き門ですし、とりわけ女性だと体力的な面を含めて難しさがありました。
弁理士という資格については高校生の時から知っていましたし、大学の先生からも理系のバックグラウンドがある人が活躍できる仕事の一つとして話を聞いていたので弁理士に挑戦することを決意しました。
受験を決意されてから、弁理士試験の合格まではどれほどの期間勉強されていたのでしょうか?
大学4年生の11月頃にITベンチャーに就職して1年3ヶ月程度勤務し、2月に退職しました。
そこから3ヶ月間勉強に専念して、5月の短答試験には合格しましたが論文試験には合格することができませんでした。
その後1年間、再度勉強し短答試験と論文試験に合格して弁理士の資格を取得することができました。
受験生時代の勉強について
受験生時代の1日の勉強時間についてお聞きしたいです。
生活に必要な時間以外は勉強していました。 1日に10時間から12時間ぐらいは勉強していたと思います。
受験生時代には予備校などは活用されていたのでしょうか?
試験対策のために通信制の予備校の講座を受講していました。早稲田セミナーの基礎講座を1年目の受験の際に受講し、2年目からは論文試験に向けた答案練習に用いていました。
膨大な試験範囲を勉強される中で、辻田様自身が工夫されたポイント・学習のコツなどがあれば教えていただきたいです。
基本に立ち返った、条文に根差した勉強が大事だと思います。 条文と過去問をしっかり理解していれば、短答試験に合格することはできます。
例えば、過去問演習に取り組んだ後には問題の正誤だけを確認するのではなくてもう一歩踏み込んで、どうしてここが間違っているのかなどについて条文の規定を確認しながら答え合わせをすることが大事だと思います。
ありがとうございます。論文試験に関してはいかがでしょうか?
論文試験に関しては、条文の趣旨を把握することを重視していました。 テクニックなどに走るのではなくて、条文の趣旨や、なぜそのような条文が制定されたのかなどの理論も覚えるようにしていました。
巷には弁理士試験に関するさまざまな教材がありますが、それらを用いる上でのコツなどがあれば教えてください。
色々な教材に手を出すよりは、分野ごとに、一番まとまっている教材だけに絞った勉強をした方が良いと思います。
具体的には、吉藤先生の『特許法概説』のように網羅的で信頼されている教材を一冊ずつ深く理解するように努めていました。
ついつい色々な参考書に手を出してしまいがちですが、一つの参考書をやり切ることが大事なのですね!
モチベーションを維持するには
学習のモチベーションを維持する上での秘訣などございましたら教えていただきたいです。
仕事を辞めて資格試験の勉強をしていたので、資格取得することは次の人生に進むために必須だと考えていました。
試験に合格することをゴールにするのではなくて、海外で仕事をすることや研究者の方と最先端の技術についての話を聞くことなど、弁理士として働くポジティブな姿をイメージしてモチベーションを維持していました。
資格合格のその先をイメージし続けることが大事なのですね!
資格合格後から独立開業のキャリアについて
資格合格後のキャリアについてお伺いしたいです。 弁理士資格取得後に勤務されていた大手特許事務所から、独立・開業されたと伺いました。その決断をされた背景について教えていただけますでしょうか?
二点あります。
一点目は、組織のあり方に関心があったことでした。
当時勤めていた事務所は、とても優秀で能力がある人が多く、素晴らしい会社でした。 その一方で、組織のあり方に対して職場の仲間と課題感を共有していました。
より良い組織にしたいと考え、他の事務所ではどのような組織づくりをしているのかを訊いてまわると、組織的ではない特許事務所がたくさんあることがわかりました。
それならば、弁理士それぞれの素晴らしい能力が活かせるような特許事務所を自分で作りたいと考えて独立に至りました。
現状に留まらず、より良い組織を作りたいという辻田様の思いから独立に至られたのですね!
二点目は、技術力を持った中小企業やスタートアップを支援することの必要性を感じたことでした。
当時勤めていた大手の事務所では殆どのクライアントが大企業でした。
たまたま、中小企業と大企業の共同開発の案件で中小企業の社長さんとお話する機会があり、技術力があっても資本や人的資源が不足していることや技術力をベースにして世界に打って出るための戦略について相談を受けました。
けれども、当時の私は何も有効なアドバイスができませんでした。
事務所としてもそのような経験がなかったので、効果的な戦略の立案ができませんでした。さらに言えば、技術力のある中小企業やスタートアップの支援に注力していこうという気運も高くはありませんでした。
しかし、社会にとってそうしたニーズにきちんと応えられる組織は必要だと考えました。
独立するに際して、技術力を持った中小企業やスタートアップがその企業の価値を最大化できる知財戦略を立案できるような事務所を作りたいと考えていました。
現在は、スタートアップや中小企業の技術力の重要性が認識され、コーポレートベンチャーキャピタルという形で、大企業とスタートアップがともにプロジェクトを進める場面も見られるようになってきました。
そのような時代が来ることを辻田様が先取りして、中小企業・スタートアップの支援をされたのでしょうか?
当時は、技術力を持ったスタートアップや中小企業の重要性が今のようには認識されていませんでした。
しかし、私の感覚の中で、将来的にその重要性が高まっていくのだろうと感じていました。
当時は、リーマンショックの危機が去り中国が台頭してきていました。
そのような環境下で成熟し切った日本企業が継続的なイノベーションを起こすことができなくなり、衰退の一途を辿る企業が出始めると漠然と感じていました。
時代を先読みし、社会に必要とされる組織を自らつくられたのですね!
辻田様が独立された背景の一つとして、組織づくりのお話を伺いました。 組織づくりに関して辻田様が考える理想の姿とはどのような形でしょうか?
組織に所属している人の能力が最大限発揮されて働いている本人もそれに対して幸せを感じられるような組織が理想ですね。
弁理士の資格を取れるということは優秀な人であることは間違い無いと思います。その人の創造的な力が最大限発揮されるように、組織や企業がルールで締め付けないことが一番理想的だと考えています。
そのためにも、事務所の仕事も型にはまった決まり切ったモノではなくて我々の能力をもって社会に貢献できるクリエイティブな仕事をしなくてはならないと考えています。
現在のお仕事について
現在の事務所で辻田様がメインに据えている業務について教えていただきたいです。
私自身は、マネジメントの仕事と弁理士としての仕事を行なっています。 弁理士としては契約や交渉をしたり、知財の戦略についてクライアント企業と一緒に考えてアドバイスをしています。
お仕事をされている企業の規模であったり業種についてもお聞きしたいです。
大規模な食品や製薬の業界の上場されている企業を長い間担当しています。
最近では、AIをはじめとしたIT分野を非常に多く担当しています。 スタートアップから中堅規模のクライアント様が多いです。
企業の規模は、10名から100名規模が多く、殆どが非上場企業です。 また、大企業の資本が入っているスタートアップであったり、コーポレートベンチャーキャピタルから投資を受けているような企業のプロジェクトへのコンサルティング業務も行なっています。
みなとみらい特許事務所様のYouTubeにて中小・スタートアップの企業への支援を打ち出されているようにお見受けしました。中小・スタートアップの企業を支援される際のやりがいや、前職で経験された大企業への支援との違いなどがあれば教えていただきたいです。
大企業の場合だと、特許の出願の時にどのような権利をどの時期に取得するかという方針が固まっていることが多いです。
中小企業であれば、研究開発をこれからしていくという状況の中で、どういう時に権利化を目指していくのかといったことや他社との連携においてはどのような考え方でやっていくのかというところを企業と弁理士とで、一緒に考えることが多いです。
スタートアップの方は、自分たちの会社のこれからの事業や、先にある大きな目標のところから、今どのような出願をするべきなのかを落とし込んで具体的に提案しなくてはなりません。
弁理士として、クライアント企業のこれからの経営や技術について理解した上でアイデアを出さなくてはならないので、難しさとともにとてもやりがいのある仕事だと思います。
クライアント企業の事業にも深く関われるのが、弁理士のやりがいであり魅力だということですね!
弁護士と弁理士の違いとは
紛争解決などのお仕事において弁護士とは違う、弁理士ならではの特徴について教えていただきたいです。
技術的な知識についてのバックグラウンドがあるので、開発や研究などの上流のことを一緒に考えるパートナーとして弁理士が適していると思います。
加えて、弁理士と弁護士ではクライアント企業との付き合い方が違うと思います。 開発系の企業であれば弁理士は継続的なお付き合いをするため、会社の状況をある程度把握できる立場にあります。
これまでのクライアント企業の技術開発の経緯や「ライセンスを他社に申し入れたけれども断られた」といった他社との関係性や業界の慣習などについて把握しやすいと思います。
ですので、企業として「新しく何かに取り組みたい」となったときに、現実的な提案がしやすいのではないかと思います。
近い目線で常に伴走するパートナーとしてクライアント企業に貢献するのが、弁理士ということですね!
弁護士さんの場合であれば、法律的な問題がある程度顕在化したときに、リスク管理をしながら慎重に扱う局面で頼りになる存在だと思います。
リスクのある局面を起点として、周辺の情報を紐解かなければならない仕事だと思います。
平常状態の流れの中で何かをやる弁理士とは違って、文脈に囚われすぎずに状況を客観的に見て今のリスクを回避するという強みがあるのではないかと思います。
いざというその瞬間に頼りになるのが弁護士ということですね。わかりやすく解説していただきありがとうございます!
弁理士業界の展望について
弁理士業界の将来性について辻田様のお考えをお聞きしたいです。
弁理士には社会的なイノベーションに貢献することが求められていると思います。そのニーズに応えることができれば弁理士の業界は明るいと思います。
社会的なイノベーションとはどのようなことでしょうか?
例えば、スタートアップが革新的な技術を持っていても、それだけでは社会に貢献するインパクトに結びつけることはできません。
新しいモノを作るためには、大企業が持っている資本やモノを作るための情報ネットワークが必要になってきます。
これらを結びつけることが社会的なイノベーションだと思います。
従来型の弁理士の仕事とはどのように異なるのでしょうか?
これまでの弁理士の仕事は革新的な技術を開発したスタートアップに対して、他社にその技術が奪われてしまわないように戦略を考えることでした。
しかし、これから求められるのは、互いの企業がどのような特許を持っているかを把握した上で、相互に利益が得られるような関係性をどのように作っていくのかというアイデアを出す役割だと思います。
Chat-GPTをはじめとした生成AIの登場で弁理士の業務というのはどのように変化していくとお考えでしょうか?
世の中の変化に合わせて、特許事務所に求められる仕事も変化していくと思います。
例えば、すでに答えがある物をとってきて整理するような仕事はコモディティ化していくと思います。弁理士の知見や能力を活かした仕事の価値が高まっていくのではないかと思います。
弁理士業界の現状に課題があればお伺いしたいです。
日本全体の課題なのかもしれないですが、従来型の大きな企業に工場のように管理されてそこに留まっているのは勿体無いと思います。
弁理士は現場で仕事をしている中で、自らアイデアを出したり自分の考えを述べたりする機会が多く、言語化する能力に長けているとてもクリエイティブな人が多いと思います。
ですので、整備された明細書を大量に作成するような定型的な仕事に当て嵌めすぎてしまうと勿体無いと思います。
コモディティでない、企業の事業や経営に深く関わる創造的な仕事を開拓していくことが重要なのですね!
弁理士試験に向けて頑張っている方へ
弁理士資格の魅力や、資格取得へ向けて頑張る受験生へのメッセージをお願いします。
弁理士というのは一つの軸では判断することができない仕事だと思います。
本当にサイエンスが好きで研究者や開発者を応援したいんだという思いが強い人にとっては、とてもやりがいを感じられる仕事だと思います。
また、法律や言葉、想像力などを使って技術の本質を言い表すことに面白みを感じられるような人も活躍できる仕事だと思います。
私自身もそういったことに魅力を感じながら10年以上弁理士として働いてきました。
仕事をする中で「この経営者の方は、世の中に対してこういうことをやろうとしてるんだ」ということに思いを寄せて、「私も何か貢献できることはないだろうか」と考えることの繰り返しでした。
仕事を通しての出会いから新たな考えが生まれてくる本当に刺激的な仕事だと思います。
試験勉強は法律ばかりで辛く感じたり、面白みが感じられなかったりすることもあると思います。
それを乗り越えて仕事を始めてからは、ものすごく広くて際限のないビジネスの世界で仕事ができるので、大きな未来を描いて大変な時期を乗り切っていただければと思います。
辻田様、本日は貴重なお話をいただきありがとうございました!!
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